生きものを救いたい。
生物プラットフォーム「ZUKAN」を立ち上げる理由
僕たちは大量絶滅の時代に生きている
現在は大量絶滅の時代だと言われています。
「約100万種の動植物が数十年のうちに絶滅する」と2019年の報告*1 に記載されています。絶滅の理由には、人間による生息地の開発や地球の環境変化などが考えられます。
【100万種】というのは想像がつかないとんでもない数字です。例えば既知の鳥類は約1万種*2 しかいません。哺乳類は約6,000種*3、魚は約3万5000種*4 で昆虫は75万種*5 です。極端な話、既知の鳥と哺乳類と魚、昆虫のすべてが絶滅しても100万という数には及ばないのです。
生物の個体数も大きく減っています。
同じく鳥の話をすると、アメリカとカナダでは過去50年で約30億羽も少なくなった*6 と言われています。
今、圧倒的な速度で生きものの数が減少しているのです。
抜本的な解決手段はない
2019年5月11日に環境省などが主催するシンポジウム*7 に参加しました。そこではさまざまな持続可能な食料生産に関する素晴らしい取組みの発表がありましたが、地球生物の未来については「このままでは陸の生物も、海の生物も十分に守っていくことはできない。ただ、業界の枠を超えた協力・提携をしていけば解決できるかもしれない。」と語られていました。
今のところ、生きものの課題は「具体的にこうすれば解決する」という有効なプランは示されていないのです。
効果的な保全活動には多くのトライアンドエラーが必要
ある専門家の方は予算が足りない中で保全活動を行い、成果をあげ、論文も書き、さらには啓発活動も行っています。
論文の意義を尋ねると「誤った保全のやり方をしていると思われる人たちがいるが、彼らと口論をしても仕方がない。論文を出し、自分の正しさが認められて初めて他の専門家を動かすことができる。」と答えられました。
生きものを守るプロセスは単純ではありません。今まで正しいと言われていたことが誤りだとわかることもあります。効果的な保全を行うにはたくさんの時間、労力、知恵が必要なのです。
個人や1つの団体だけで解決できる問題ではない
研究者や専門家の方々に生きもの界の課題についてヒアリングを重ねてきました。そのなかで多くの方が口にしていたのが予算不足でした。
これによって設備を整えられない、十分な人員を割くことができないなどの問題が生じています。
また、関心の高い市民のボランティアがいなくては調査が成立しないというケースも聞きました。
研究予算も十分にない。保護より開発が優先され生息環境も守られない。世界全体の危機意識も低い。
この大量絶滅という課題は大きすぎて、個人や団体が独力で行っても解決できるものではないでしょう。
そこで、「業界の枠を超えた協力・提携ができる仕組みを作ろう」と決意し、【ZUKAN】という事業の構想をはじめました。
ZUKANが目指す世界
お伝えしてきた課題を踏まえて目指す世界についてお話しさせてください。
ZUKANというサービスでは具体的に以下の2つが実現される世界を目指しています。
- 世界中で当たり前のように生きものの保全が行われている
- 絶滅してしまった生きものも含めすべての情報が後世に伝わる
上記の取り組みが進めば、生きものの大量絶滅という課題を解決することができると信じ、 標語を「すべての生きものを、取り残さない世の中に」としました。
どのように進めていくか
世界中のひとりひとりの意識を変え、より多くのお金と人材が生きもの界で動ける仕組みを作っていきます。
まずは多くの人に興味関心を持ってもらうことが最初のステップだと考えました。
活動を進めるために、【生きもの情報を、より身近に、より正確に、もっと楽しく】というミッションを策定し、以下の3つの仕組みを作り上げていきます。
- 世界中で生きものへの関心が高まる仕組み
- 生きものの保全や研究に役立つデータが集る仕組み
- 継続的に生きもの界に億単位の寄付が集まる仕組み
この仕組みについて深くお伝えしていきます。
世界中で生きものへの関心が高まる仕組み
ZUKANでは専門家の方に解説を書いていただいたり、生きものへの関心が高い方が図書館にある資料や公開されている論文などを参考にしながらわかりやすく信頼性の高い生きもの情報をWEBで公開し、世界中の人が閲覧できるようにしていきます。具体的には、学校などの教育の場でも積極的に利用されるようなサービスを目指します。
まずは誰もが手軽に、生きものの情報を見れるようにすること。そしてわかりやすく、深い情報を届けること。その情報の中にはその種独特の特徴や食べ物や生息地、寿命や天敵などの基本情報はもちろん、その生きものが置かれている状況、世界中の生きものの危機についても積極的にお伝えしていきます。生きものに関心をもつきっかけをつくり、生きものが好きな人を増やしたい。さらには、生きものの保全活動の重大さが広まることをここでの目標としています。
生きものの保全や研究に役立つデータが集る仕組み
生きものの目撃情報は保全や研究に役立つケースが多いです。ZUKANでは生きものの位置情報や観察情報を投稿できる仕組みを作り、より多くの方が気軽に投稿できるような取り組みや改善を行います。
※ 投稿された位置情報の詳細は投稿者と研究者にのみ公開されます。
また、捕獲の原因にならないよう、絶滅危惧種の位置情報の取り扱いには細心の注意を払います。
継続的に生きもの界に億単位の寄付が集まる仕組み
何十万種の生きものの研究や保全活動を行うには大きな資金が必要です。
まず、その資金確保のため、ZUKANでは収益の一部を研究機関や保護団体に寄付していきます。
しかし、それだけでは世界中の生きものを守るための資金としては十分ではありません。誰でも簡単に研究者や保護団体を支援できるような仕組みを作り、継続的に生きもの界に億単位の寄付が集まるよう取り組んでいきます。
ZUKANの原動力は生きもの愛
これまで多くの研究者、学芸員、写真家、図鑑製作者や生きもの好きの方にお話を伺わせていただきました。そのなかで強く感じたものは「生きものの魅力を多くの人に知ってもらいたい」という熱意や「生きものの状況をなんとかしたい」という切実な想いでした。
そのような情熱をもった方々にZUKANのテストユーザーとして参加をお願いし、生きものの観察情報や解説を投稿していただきます。
日本で生まれ育った私たちだから担える役割
日本は亜寒帯から亜熱帯までのさまざまな気候区分を含んでおり、国土の70%を森林が占めています。小笠原諸島や奄美大島、西表島などの自然豊かな環境は、多種多様な生きものを育んできました。
本州にもニホンカモシカやライチョウなど日本の文化を象徴するような生きものが生息しており、日本の固有種は亜種や変種も含めると6,000種類を超えると言われます。その自然の豊かさは世界有数です。
生きものの絶滅という課題に対する決定的な解決案はどこにも示されていません。しかし、生きものの特徴や魅力、保護活動などの現実を、より多くの人に、より正確に伝えることができるようになれば、生きものの問題解決に繋がります。
また、生物多様性が豊かな日本に生まれ育った私たちだからこそ、問題解決のためのムーブメントを起こせると信じています。
なぜ私たちがZUKANというサービスに取り組むのか
なぜ、この取り組み(サービス)をやろうと思ったのか。私たちを動かす2つの「力」についてお話しさせていただきます。
一つ目は、ZUKANの運営チームには自然や生きものとの大切な出会いや思い出を抱えたメンバーが多く集まっており、ZUKANで解決したい各課題を「自分ごと」として捉えられているためです。
例として、プロジェクトリーダーである八巻の話を引用させていただきます。
僕が小さかった頃、北海道の岩内町に住んでいました。岩内町は海も山も川もある自然豊かな場所です。自宅の玄関前にある敷石をひっくり返してハサミムシを見つけたり、山に入ってトノサマバッタを追いかけたり、秋に大量のサケが川を上ってくる様子を眺めたりしてワクワクした記憶は僕の宝物です。
そして将来、自分や知人の子どもや孫も、そういった体験をできるような世界であってほしいという気持ちが僕の原動力です。
そしてもう一つ、私たちを動かす大きな力があります。それは、ZUKANに期待してくださっている方々の存在です。
専門家の方々にはご多忙の中アドバイスをいただいたり、執筆の協力をいただいたり、
複数回お会いする時間をいただいたり……素晴らしい方々をご紹介いただいたりもしました。
「今までやろうとしてできなかったことの希望」として捉えてくださる方もいらっしゃいます。
応援してくださる方々の想いが、今の私たちを突き動かしています。
参考情報:
- *1 国際連合広報センター / 国連報告書が世界に「警告」:100万種の生物が絶滅の危機に
- https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33018/
- *2 IOC World Bird List
- https://www.worldbirdnames.org/
- *3 環境省 / 平成20年版 環境/循環型社会白書
- https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h20/html/hj08020601.html
- *4 California Academy of Sciences / Eschmeyer's Catalog of Fishes
- https://www.calacademy.org/scientists/projects/eschmeyers-catalog-of-fishes
- *5 長谷川寿一 / 行動が生み出す生物多様性
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/15/3/15_3_3_105/_pdf
- *6 Science / Decline of the North American avifauna
- https://science.sciencemag.org/content/366/6461/120
- *7 環境省 / 国際生物多様性の日シンポジウム「生物多様性と食と健康~SDGsを身近に~」の開催について
- https://www.env.go.jp/press/106694.html