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ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)の分類 ミゾガシラシロアリ科(Rhinotermitidae)
ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)の概要 Reticulitermes

ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)

【 学名 】
Reticulitermes speratus (Kolbe, 1885)

基本情報

大きさ・重さ

兵アリ 3.0~6.0 ㎜ 頭長(大あごを含む)2.3~2.6 ㎜
働きアリ 体長 3.5~5.0 ㎜
有翅虫 体長 7 ㎜ 前翅長 8 ㎜

参考文献

最終更新日:2020-05-20 瀬戸内味わいにぼし

活動時期

有翅虫の出現期は通常4~5月の日中、東北や北海道では6月のとくに雨後の温暖な日の午前中。

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分布

北海道、本州、四国、九州、吐噶喇列島
国外では朝鮮半島南部

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亜種

兵アリの前唇板の形や剛毛により、3亜種に分けられている。
体表炭化水素物質や兵アリ頭部の形態、前胸背板の剛毛数と配置からも差異が認められている。
分子系統では、亜種ごとにまとまる傾向はあるが、それぞれが単系統とはならない。
蟻道をつくる能力や乾燥に対する抵抗性に差がある。
中国産との比較や分布境界の調査、分子系統の研究など今後の研究が必要である。

・名義タイプ亜種 speratus (Kolbe, 1885)
分布:北海道から関東地方、中部地方、近綾地方北部および淡路島から香川県の東部、福井県からも記録がある(移入?)。
愛知県や三重県には次亜種との中間型がいる。
北限は2009年時点で、北海道名寄市、北海道南部には自然分布していたと考えられている。
タイプ産地は函館(北海道)と江戸加賀屋敷(東京都)。
兵アリの前唇板の長/幅比が1.20>(ただし1コロニーの平均)。
地域型があるが境界は明らかでない。
北海道型:兵アリの上唇は幅広く、先端はより丸い。東北地方や中部山地のものも、この型とされる。
関東型:兵アリの上唇はやや幅狭く、先端は三角状か丸みのある三角状。

・四国亜種 leptolabralis Morimoto, 1968
分布:静岡県西部から紀伊半島と四国、近畿地方の滝西以西の滋賀県から兵庫県、淡路島、鳥取県や北九州からも記録がある(移入?)。タイプ産地は徳島市 Yami (徳島県) 。兵アリの上唇は細長く、先端は丸みのある三角状。
兵アリの前唇板の長/幅比が1.20く(ただし1コロニーの平均)。
近畿地方東部から京阪神地域では、おおむね山地に speratus が、平地に leptolabralis に該当する個体群が生息するが、平地では混在し、中間型も見られる。
また、北陸地方などの日本海側には leptolabralis と思われる個体群がいる。
とくに日本海側の調査が必要である。

・九州亜種 kyushuensis Morimoto, 1968
分布:岡山県・鳥取県以西の中国地方と九州、隠岐、対馬、種子島、屋久島、吐噶喇列島。
愛媛県松山市付近からも記録がある( speratus と s. kyushuensis の中間型?)。
与論島からも記録がある(移入?)。
国外では、朝鮮半島南部。
タイプ産地は福岡市香椎(福岡県) 。
兵アリの上唇は五角形状で最広部はやや角張り、上唇背面に長い剛毛がある(上記2亜種にはないか微毛程度)。

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最終更新日:2020-05-20 瀬戸内味わいにぼし

形態

成虫の形質

兵アリの頭部は淡褐色で先端に向かって濃色、両縁がほぼ平行な円筒形で、点状の額腺開口があるが、粘液は分泌しない。
頭部の長さは体長の約1/2に近い。
頭部以外の部分は乳白色。

働きアリの体色は乳白色で、頭部はほとんど球形である。
大顎内側は黒褐色を帯び、左大顎の縁歯は3個あり、第1縁歯と第2縁歯が同形である。
前胸背板は平たく、頭部より幅が狭い。

有翅虫は暗褐色ないし黒褐色で、前胸背板だけが黄色~橙白色。
翅は光沢のない黒灰色。
1対の複眼と単眼を有する。

女王は卵巣の発達につれて腹部が著しく肥大・伸張し、大きいものでは体長 15 ㎜にも達する。
王は体長 5.0~7.5 ㎜で、形態的には有翅虫の雄に似ているが、翅を落として翅根部だけ残っている。

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卵の形質

卵は長卵形、直径 0.66~0.72 ㎜、短径 0.32~0.36 ㎜で、長径の一端が膨大し、ほとんど無色である。

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生態

成虫の生息環境

共生原虫が死んでしまうため、乾燥と高温に弱く、湿った木材中に生息し、蟻道を加工して地中やコンクリート表面を移動する。
特別に加工した固定巣は無く、木材の腐朽部が加害部と共存する。
冬季の、積雪下の凍結深が 0 ㎝以上が野外棲息域と考えられる。

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成虫の食性

雑食性で、木材をはじめあらゆる有機物を加害する。
生きた樹木も加害し、ほとんどの樹種を食害するが、なかでもオニグルミ、クリ、サクラ、ヤマモガシ、ハコネウツギ、スギを嗜好し、逆にイヌマキ、モッコク、ヘツガニガキなどを忌避する。
木材の主要成分のうちセルロースやヘミセルロースを利用し、リグニンを排出する。
一般にシロアリの消化管内には、単細胞の鞭毛虫である原生生物が共生しており、その助けを借りてシロアリは木材を消化している。
ヤマトシロアリの消化管中の原生生物は12種のほか、未記載の微小種がおり、世界のシロアリのうちでも共生原生生物の多い部類のシロアリである。

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産卵

初回の産卵は10~20個程度。

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特徴的な行動

ヤマトシロアリでは高温期には共生原生生物が死んでしまうので、盛夏や冬季には地中や他の場所へ移動する。
紫外光に対して迅速に反応し、明瞭な負の走光性を示す。

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その他生態

社会性昆虫で、基本的には生殖階級と非生殖階級に分けられ、前者は生殖虫(女王・王)と副生殖虫(副女王・副王)、後者は兵アリと働きアリに分けられる。
生殖虫は生殖能力を持った雄と雌で、群飛後、営巣して交尾・産卵によってコロニーの繁栄を図るのが任務である。
副生殖虫は女王・王のいずれか、または両方が傷ついたり死んだ場合にその代わりをする。
兵アリは外敵からの防衛にあたるのが任務である。
働きアリは最も個体数の多い階級で全体の90~95%を占め、別名「職アリ」といわれ、採餌活動、巣や蟻道の構築・修理、生殖階級や幼虫の世話など、シロアリ社会のあらゆる労務を担っている。
ヤマトシロアリの働きアリは比較的安定した状態で働きアリの働きをしているが、他の階級へ分化する潜在能力のある擬働きアリであり、30頭の働きアリの小集団から新しいコロニーができることが知られている。
1コロニーの個体数は普通1~2万頭程度で、3万頭を超すことは少ない。

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関連情報

研究されているテーマ

・防除
予防対策としては建物の基礎や束石などの周囲の土壌を薬剤で処理したり、建物床下の地面に防蟻防湿シートを敷設するなどして地中からのシロアリ侵入を防止するとともに、建物の地上約 1.5 m以内の木材を防蟻防腐剤で処理しておく。
床下に換気口や換気ファンを設置して通風換気を図ったり、調湿材を使用して床下の除湿を図ることも重要である。
シロアリの餌や営巣場所となる切り株や建築残材などの不要な木材類は除去し、建築の外周に空箱や木材類を放置しないことも大切である。
新築の際、基礎高を高くしたり、基礎と土台や柱との間に防蟻板を設置すると、防蟻上有効である。
そのほか、ステンレスメッシュ工法や特殊な粒子径の砂利を利用する工法、微生物を利用した方法も開発されている。
被害が発生した場合は、被害材の内部へ薬液を十分浸透させるとともに、予防をかねて周辺の木材もシロアリ防除剤で入念に吹き付け、塗布、あるいは穿孔処理を行う。
また土壌処理用薬剤で建物の基礎や束石、立ち上がり給排水管の周囲などの土壌を処理する。
シロアリ防除剤としては現在、主として有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、ピレスロイド様化合物、クロルフェノール系、クロルニコチニル系、ピラゾール系、フェニルピロール系の殺虫剤が使用されている。
最近は遅効性の薬剤や昆虫成長制御材などを餌や誘引物質と配合した製剤を用いてコロニーの衰退・全滅を図るベイト工法も開発、実用化されている。

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種・分類一覧