- 解説一覧
- カゲロウ目(Ephemeroptera)について
基本情報
- 分類学的位置付け
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卵及び幼虫、亜成虫、成虫の各ステージの形態的特徴・各部位の名称については、それぞれ、Ishiwata & Fujitani (2018)、石綿ほか(2018)を参照されたい。
卵:長球(ovoid:卵型、細長い長球型)のものが多いが、球形、扁平(小判型、せんべい型)の形をしている卵もある。その長径は100μm程度の卵が最も多く、最大で300μmに及ぶ。卵の表面は、複雑な模様や構造物などがある。例えば、この構造物には、長径の先端部分には、付着糸を束ねた極冠(polar cap: pc)、コイル状付着糸(Knob-terminated coiled threads: KCT)や卵門(micropylar devices: m)などがある。これらの形態的な特徴や卵の大きさは、種やグループによってほぼ一定であり、それぞれを区別するのに有用であることが多い。本稿では、同定の一助とするため、それぞれの特徴とする卵について記述した。検鏡は、抱卵した雌(亜)成虫や終齢幼虫から採取した卵の表面を精査する。ここでは、電子顕微鏡の写真を載せたが、生物顕微鏡などでもその構造を確認することができる。
幼虫:カゲロウは、一般に、扁平のものが多い。体の中・後胸には翅芽とよばれる成虫の翅の礎がある(羽化近くにはこの部分が黒化)。腹部は 10 節よりなり、腹節には鰓がある。鰓の形、数などは、種、属、グループなどによる特徴がある。腹節末端に 3 本あるいは 2 本の尾毛をもつ。幼虫各部位の名称を模式図に示した。また、科の特徴は、絵解き検索を参照されたい。なお、ここで示した検索は、石綿(2005)、環境省(2017)を一部改変した。
亜成虫:成虫に似て翅があり、飛ぶことができる。尾毛や肢は幼虫よりは伸長するものの、成虫に較べて短い特徴がある。色彩、斑紋など、種による特徴がある。
成虫:雄の複眼は一般に大きく、上部と下部に分けられることが多く、特にコカゲロウ科ではその傾向が著しく、上眼をターバン眼と呼ぶことがある。雌の複眼は雄より小さい。中胸部、後胸部にそれぞれ前翅、後翅が発達する。なお、後翅のないものもある。翅脈は分類群によって異なることが多く、おもに科の表徴として重要である。胸部においては、背板、腹板の形態的特徴が重要である。分類・同定は、雄の交尾器を調べることが一般的であるが、単純な形態のものが多いので精査する必要がある
参考文献
最終更新日:2020-08-03 石綿進一
形態
- 卵の形質
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長球(ovoid:卵型、細長い長球型)のものが多いが、球形、扁平(小判型、せんべい型)の形をしている卵もある。その長径は100μm程度の卵が最も多く、最大で300μmに及ぶ。卵の表面は、複雑な模様や構造物などがある。例えば、この構造物には、長径の先端部分には、付着糸を束ねた極冠(polar cap: pc)、コイル状付着糸(Knob-terminated coiled threads: KCT)や卵門(micropylar devices: m)などがある。これらの形態的な特徴や卵の大きさは、種やグループによってほぼ一定であり、それぞれを区別するのに有用であることが多い。本稿では、同定の一助とするため、それぞれの特徴とする卵について記述した。検鏡は、抱卵した雌(亜)成虫や終齢幼虫から採取した卵の表面を精査する。ここでは、電子顕微鏡の写真を載せたが、生物顕微鏡などでもその構造を確認することができる。
参考文献
最終更新日:2020-08-03 石綿進一
生態
- ライフサイクル
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カゲロウの生活史など生態については、日本産水生昆虫(2018)より、以下のように概説できる。
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化性:日本産カゲロウ類には、年 1化( 世代)の例が多く知られているが,フタバカゲロウのように小形で成長や発育の早い種では,年2化(世代)あるいはそれ以上になることもある.
幼虫期:カゲロウ類の幼虫は、いくつかの生活形に分類されている。
1)遊泳形(ヒメフタオカゲロウ科、フタオカゲロウ科、ガガンボカゲロウ科、フタバカゲロウ属、コカゲロウ属、
チラカゲロウ科)、
2)掘潜形(モンカゲロウ科、シロイロカゲロウ科、カワカゲロウ科)、
3)潜伏匍行形(マダラカゲロウ科、ヒメシロカゲロウ科、ヒトリガカゲロウ科)、
4)強滑行形(ヒラタカゲロウ属、タニガワカゲロウ属、ヒメヒラタカゲロウ属、フタバコカゲロウ)、
5)弱滑行形(トビイロカゲロウ科、ミヤマタニガワカゲロウ属、ウズキキハダヒラタカゲロウ属)に分けることが
できる。
羽化期:カゲロウ類は春から初夏に羽化する種が多い。しかし、真冬に羽化する種もいる。成虫の寿命が極めて短いカゲロウの成虫期は、羽化期とほぼ同時期とみなしてもよいであろう。本稿の成虫出期のうち、カッコ内に示した数字は、神奈川県のカゲロウ目録から、県内で採集されたカゲロウ成虫の採集月を示した。
成虫期:亜成虫は、羽化後、数日に脱皮して成虫になる。成虫はすぐに繁殖行動を行うが、ごく一部の種では、亜成虫のままで交尾・産卵し一生を終えるものもある。一般にカゲロウ類の配偶は空中でおこなわれる。群飛中の雄に飛び込んだ雌を雄が長い前肢で下から抱えるように捕捉し、交尾する。産卵行動は,雌が空中で腹部末端に全卵を産み 出し大きな卵塊にしてから着水して落とす方法や水辺に降下した後、水中へ潜り、石や木の裏面に産みつける方法などがある。多くの種では、亜成虫の時期を加えても、数日以内に死亡する。
参考文献
最終更新日:2020-08-03 石綿進一
関連情報
- 採集方法
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幼虫は通常ハンドネットなどを用いて採集するが、脆弱で小型のカゲロウは、吸い口部の大き目のスポイトを使用すると便利である。成虫については、灯火採集が効率的である。ただし、亜成虫であることが多く、成虫を得るためには、数日間生かした状態で放置する必要がある。大き目の容器に保存すると良好な結果が得られる。標本は、70 パーセントのエタノールによる液浸保存が一般的である。また、亜成虫や成虫の体色や斑紋が分類・同定上重要な象徴であることから、乾燥標本の作製や生きた状態の写真を撮ることを併用することが好ましい。
参考文献
最終更新日:2020-08-03 石綿進一
- その他
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カゲロウは原始的な昆虫類の一群である。日本産カゲロウは150種報告されている。幼虫時代を水中で過ごし成虫は陸上生活を送る。カゲロウは蛹になることなく、幼虫から羽化し亜成虫を経て成虫になる。亜成虫はカゲロウ独特のステージで、通常、河原周辺の梢などで数日間を過ごす。一般に、亜成虫と成虫の期間は、合わせて一週間程度であるが、ごく一部のカゲロウは、亜成虫のままで交尾・産卵し一生を終えるものもある。これらの種は、羽化してから交尾・産卵を終えて死ぬまで、僅か数時間の寿命である。”カゲロウの命”がはかなさの代名詞として使われるゆえんである。Ephemropteraの名称も、「たった一日の命」の意味のギリシャ語に由来する。
カゲロウは、古くからフライフィッシングなど、釣り餌のイミテーションとして人気を集めていて、釣り人を対象とした写真集などが出版されていている。また、羽化したカゲロウの成虫は、魚のみならずトンボや鳥にとって重要な餌資源となっていることから、河川やその周辺の生態系を支える重要なグループといえる。この他、水中の有機物を陸上へ移出することを意味しており、河川の水質浄化にも一役買っていることになる。
近年、生物の多様性の保全の観点から、カゲロウを含む水生昆虫を対象とした水域環境のモニタリングが、国や自治体などによって実施されてきており、多くのデータが蓄積されてきている。また、カゲロウの幼虫は清澄な水域に生息することから、古くから水質の指標生物としてよく利用されてきている。このことは、環境教育の教材として有用であることから、学校、環境保全団体などによって講習会や観察会が毎年実施されていて、環境や生態系の保全に対する啓発普及に成果をあげている。このような水生昆虫による調査は、主に、昆虫の幼虫を対象とした調査が中心になっていて、グループによっては種までの分類に精度を欠くことがある。昆虫の分類は成虫よるものが一般的で、幼虫におけるそれは、科あるいは属レベルの同定に留まることが少なくない。このことは、カゲロウ分類においても例外ではなく、種までの分類に精度を欠くこともあるが、これまでのカゲロウ分類の先行研究から、幼虫の種の特徴が明らかになったグループも増えつつある。
本稿で扱うカゲロウ類は、種名の明らかなカゲロウを原則として対象としたが、一部について、未記載種も加えた。これは、種によっては誤同定の可能性があることから、これを避ける意味で写真を載せるとともに、それぞれについて解説を加えることにした。対象とするステージは幼虫を中心に他のステージ(卵、成虫、亜成虫)も加えたが、すべてのステージが明らかになってないカゲロウもいる。また、未記載種の存在や写真情報の不足から、種名の明らかな分類群であっても、本稿で扱うことのできなかったものもある。これらについては、随時、情報を更新していきたい。
参考文献
最終更新日:2020-08-03 石綿進一