- 解説一覧
- ゲンゴロウ(Cybister (Cybister) chinensis)について
ゲンゴロウ(Cybister (Cybister) chinensis)
- 【 学名 】
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Cybister (Cybister) chinensis Motschulsky, 1854
目次
基本情報
- 別名・流通名・方言名
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本種は和名がゲンゴロウ科全般を指す場合と区別しにくいため、タダゲンやナミゲンの愛称で呼ばれることが多く、また最近ではオオゲンゴロウと呼ばれることもある。
参考文献
最終更新日:2020-05-15 En
- 人間との関係
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かつては多産していたこともあってか、長野をはじめとして地方によっては食用という形で人と関わってきた歴史がある。
イヌやネコの死体を池などに放り込んで10日くらい放置し、引き上げて集まったゲンゴロウを取っていたという。
民間療法で薬用としても取り扱われており、疳・ジフテリア・百日咳・喘息に対して効果があると信じられていた。
現在では昆虫食に対する敷居が上がり、その数も減ったこともあってか嗜好品として消費されている。いわゆるノスタルジーで、昔食べた昆虫の味を懐かしむだとか、物珍しさから食べてみるといった消費形態に変わっている。
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形態
- 成虫の形質
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背面は緑色あるいは褐色を帯びた暗褐色で強い光沢があるが、メスでは弱い。
頭楯、前頭両側、上唇、全胸背および上翅の側縁部は黄色〜淡黄褐色。この上翅の黄色帯は肩部を除き側縁に達せず、翅端に向かって徐々に細くなる。翅端部には不明瞭な雲状紋がある。
頭部前頭両側の黄色部の内方には浅いくぼみがある。
全胸背はオスでは前縁部に点刻があるほかは滑沢であるが、メスでは全面に縮刻を密に装う。上翅には3条の点刻列を有し、オスでは滑らかだがメスでは翅端を除き縮刻を密に装う。
触角、口枝は黄褐色。肢は黄褐色〜赤褐色で、跗節はやや暗色になる。後肢跗節には、オスメスともに両側に遊泳毛をもつ。
腹面は黄色〜黄褐色で光沢が強く、前胸腹板突起、後胸内方、後基節内方は黒色。
水生半翅類に比べ、雌雄間の体長差がほとんどないゲンゴロウの雌雄判別方法は、前肢の形状を見るのが手っ取り早い。オスでは前肢が幅広く円盤状に広がり、吸盤を形成しているのに対し、メスではそのまま細くなっている。
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- 幼体の形質
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植物体の組織内に産卵されたゲンゴロウの卵は、通常2週間ほどで孵化するが、水温が高いほど孵化時期は早まる。植物によっては産卵された卵が透けて見えるが、孵化が近づくと茶色がかった幼虫の背中の模様を卵内に観察できる。
無事孵化した幼虫は、卵が産み付けられた穴を通って水中に泳ぎ出るが、ゲンゴロウをはじめ水生甲虫類の幼虫はどれも共通して芋虫型の体型をしている。孵化直後の幼虫の体色は背中の中心線を除いてはほとんど真っ白な色をしているが、時間の経過とともに背中の模様がはっきりし、この頃から旺盛な食欲を発揮するようになる。
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- 似ている種 (間違えやすい種)
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体型は卵形で頭部から上翅にかけての側縁部が淡黄色に縁取られる。コガタノゲンゴロウ( Cybister tripunctatus lateralis )は、ゲンゴロウに似ているが、長卵形でふた回りほど小さく、腹面はゲンゴロウが淡黄色なのに対し、暗褐色をしており、大きさの違いとともに両者を見分ける最大の特徴となる。
マルコガタノゲンゴロウ( Cybister lewisianus )は、コガタノゲンゴロウよりやや小さい程度であり、よく似ているが体型は卵形で腹面が黄〜赤褐色であり前種と区別できる。
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生態
- 成虫の食性
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タガメの前肢や消化液のような強力な武器を持たないため、生きた魚類などの捕食はあまり得意ではないが、弱った魚や動きの鈍い水生昆虫、水面への落下昆虫などは生きていても捕らえることができる。摂食の方法は水生半翅類のような体外消化型ではなく、強力なあごで肉質を齧り取って食べる体内消化型である。
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- ライフサイクル
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ゲンゴロウは、平野部から山間部のため池や水田、流れの緩やかな用水路などに生息し、主に死んだ魚や昆虫類などを摂食している。
ゲンゴロウ科( Dytiscidae )の昆虫は、水生昆虫の中でも高度に水中生活に適応した進化を遂げており、特にゲンゴロウ属( Cybister )に属すものは、素早く水中を泳ぎ回ることができる。
成熟した個体は、冬季以外は頻繁に交尾を行うが、産卵に至るのは、6月から8月頃の夏季に限られている。産卵期になるとメスは水草の茎などを齧って穴を開け、一つずつ卵を産み付ける。産み付けられた卵は、およそ2週間ほどで孵化する。
成虫は、餌を求めて活発に水中を泳ぎ回る。タガメやタイコウチなどの半翅類が植物の生い茂る水際域を生活圏としているのに対し、ゲンゴロウは、水際域だけでなく水草の少ない池の中央部なども日常的な生活圏としている。
十分な餌が得られなかったり、水が枯れてしまったりするような水域では、新たな生息地を求めて飛翔移動する。秋までに十分栄養をつけたゲンゴロウは平均気温が10度を下回る頃になると、あるものはそのままそこで、またあるものは水温の安定した水域に生活場所を移し、水中越冬する。
越冬場所は、湧水などで真冬でも凍らない池や沼などが選ばれるようであるが、水面全てが氷に覆われたため池で氷下を泳ぐ個体が確認されている。また、ゲンゴロウはミズカマキリのように多数の個体が集まって越冬することも多い。
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- 孵化・脱皮・羽化
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活発に獲物を捕食した幼虫は、体色が濃くなるとともに体長体幅ともに大きく成長し、二度の脱皮を経て3令(終令)幼虫になる。3令幼虫で十分に成長してエサに興味を示さなくなったら、いよいよ上陸して蛹化が始まる。
幼虫期間(孵化から上陸までの日数)は、水温25度前後で飼育しておよそ40日ほどであるが、水温が高いほど幼虫期間は短くなり、条件によっては半分ほどの日数で蛹化のため上陸する。
上陸した幼虫は大顎を使って土を掘り出し、わずか一時間ほどで土中に潜る。土中に潜った幼虫は自分の体を押し当てて蛹室の内壁をなめらかな球形に作り上げた後、前蛹期を経て蛹化する。
前蛹期とは文字通り蛹になる前の準備期間のようなものであり、この時期の幼虫はじっと丸まって蛹への脱皮のために体構造を作り変える。およそ10日ほどの前蛹期を経て蛹化し、さらに蛹の状態で10日ほどすると羽化が始まる。羽化後の新成虫は白い体色をしているが半日もすると黒色に変わり、さらに数日蛹室内で体が固まるのを待って地上へと這い出してくる。
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- 生殖行動
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オスが前肢の吸盤でメスの胸部背面を捕まえるようにして行う。交尾行動は、昼夜を問わず頻繁に行われる。実際に交尾そのものの時間は短いが、オスがメスを捕まえている時間は10分ほどの時もあれば2時間を超すような時まで様々である。
メスは嫌がるようにして逃げようとすることが多いが、オスの吸盤の吸着力が強力なため、一度捕まるとそう簡単には逃げられない。オスは交尾中に呼吸することができるが、メスは呼吸器を水面に出すこともままならず、そのためか窒息死と思われる死に方をすることがある。
交尾でオスは精球という精子の入った袋をメスの受精嚢に押し込むが、うまく交尾ができない時はこの精球がオスの交尾器にぶら下がった状態になることがある。稀にオスの尾端についている白子状のものがそれであるが、そのうちにオス自身が自分で外して食べてしまうことが多い。
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- 産卵
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ゲンゴロウの産卵には温度以外に日照時間が大きな条件となっており、水温が25度以上あっても日照時間が12時間以下では、交尾してもメスが産卵にいたることはない。日照時間が13時間を超えてはじめて産卵可能になると言える。交尾はオスが前肢の吸盤でメスの胸部背面を捕まえるようにして行う。
うまく交尾が成功すると、数日のうちにメスは水中で植物の茎やランナーの部分をかじって穴を開け、そこに長い産卵管を差し込んで直径 1.5 ㎜、長さ 13 ㎜ ほどの卵を一つずつ産み付ける。ゲンゴロウの1シーズンの産卵数は、およそ40〜60個ほどであるが、タガメのように産卵のたびに交尾をする必要はなく、交尾後数ヶ月間はメスの受精嚢内で精子の活性が保たれるようである。産卵期以外にもオスがメスに交尾を強いる理由はここにあると言える。
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- 特徴的な行動
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ゲンゴロウの仲間をはじめとする水生甲虫類は、飛翔目的以外にも日常的に甲羅干しをよく行う。甲羅干しができない環境で飼育していると、後肢付け根部分にミズカビが発生する率が高くなる。そのため、ゲンゴロウの飼育においては、甲羅干しをするための陸場が必要となる。
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- その他生態
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人間が稲作のために利用してきた水田やため池、用水路などを主な生活の場所とするゲンゴロウにとっては、タガメと同様に農薬散布や圃場整備、環境破壊によって生息場所、個体数ともに大打撃を受けている。タガメなどの水生半翅類が不完全変態で蛹化のための陸上部分(土)を必要としないのに対し、ゲンゴロウを含む水生鞘翅類は完全変態のため蛹化には陸上部分を必要とする。そのため、ゴムシート張りのため池やコンクリート護岸された池沼では、仮に汚染されていない水と豊富な餌があったとしても全く繁殖することが不可能になってしまう。ゲンゴロウの場合、こうした繁殖場所の消滅がそのまま種の絶滅に結びつく可能性が高い。
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最終更新日:2020-05-15 En