- 解説一覧
- オオムラサキ(Sasakia charonda)について
目次
基本情報
- 大きさ・重さ
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前翅長:50〜70 mm(加藤, 1997, 49)
終齢幼虫体長:約 57 mm(安田, 2010, 40)
卵の大きさ:幅 1.52 mm, 高さ 1.62 mm 程度(手代木, 1990, 41)
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
- 1990 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科 - 書籍全体, 手代木求(著) 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科. 東海大学出版会. .
最終更新日:2020-05-01 鍋
- 活動時期
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6月下旬から7月(関東地方)
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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- 分布
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沖縄を除く日本各地。国外では中国・朝鮮半島・台湾に分布。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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- 生息状況
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開発や植林などによって樹林の面積が狭くなり、減少傾向にある。(日本チョウ類保全協会, 2019, 251)
参考文献
- 2019 フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ - 書籍全体, 日本チョウ類保全協会(編) フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ. 誠文堂新光社. .
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- 学名の解説
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学名のうち、属名である "Sasakia" は、日本昆虫学の先進である佐々木忠次郎博士に、種小名である "charonda" は紀元前イタリアの学者カロンダスにそれぞれ献名されたものである。
参考文献
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- 和名の解説
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和名は雄の前翅表面の基部を飾る鮮やかな紫色に由来する。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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- 分類学的位置付け
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昆虫綱 (Insecta) チョウ目 (Lepidoptera) タテハチョウ科 (Nymphalidae) コムラサキ亜科 (Apaturinae) オオムラサキ属 (Sasakia) オオムラサキ (Sasakia charonda)
(日本チョウ類保全協会, 2019, 13)
参考文献
- 2019 フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ - 書籍全体, 日本チョウ類保全協会(編) フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ. 誠文堂新光社. .
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- 人間との関係
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国蝶に指定され、その美しい姿は郵便切手の図柄にも登場したことがある。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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形態
- 成虫の形質
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大型のチョウ。表は黒褐色で、雄では基半部が青紫色に輝くのに対し、雌はこの紫色がなく、地色は褐色である。また、雌は雄より大型であり、翅形はやや丸みを帯びる他、後翅の内縁近くの翅脈が雌で湾曲し、雄で直線的となる。
中央部に白斑が目立ち、亜外縁と外中央に黄白色の斑列が並ぶ。裏は淡黄色〜銀白色。表裏ともに後翅の肛角部に通常赤斑がある。前足が退化し、体に密着しているために4本脚に見える。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
- 2019 フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ - 書籍全体, 日本チョウ類保全協会(編) フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ. 誠文堂新光社. .
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- 蛹の形質
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左右に著しく扁平で、側面から見ると下腹部側はやや直線状、背部側は円弧状で、腹節の第2〜3節の部分の張り出しがコムラサキより大きい。また、腹部背線稜状部の各節前端が突出しないことがゴマダラチョウと異なる点である。色彩は緑色で、第3腹節の気門後方に黄白色斑が認められる以外には著しい斑紋を欠く。全体に白粉を装い、自然界では緑葉と見間違う。(手代木, 1990, 42)
参考文献
- 1990 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科 - 書籍全体, 手代木求(著) 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科. 東海大学出版会. .
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- 幼体の形質
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大型のナメクジ型イモムシ。地色は緑色で、黄色の微小突起を散布し、尾端は二又に開いている。中胸、第2・4・7腹節亜胸部に計4対の突起を持つ。頭部の角状突起の長さは齢によって変化し、孵化した1齢幼虫は頭部に角状突起がなく、容易に区別できる。また、4齢幼虫は、頭部の角状の突起が短く、「休眠型」と呼ばれ、冬の休眠に入るようにプログラムされている。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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- 卵の形質
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やや背の高い球形で、20本前後の縦条がある。色は初め乳白色で、やがて淡緑色になり、孵化直前には淡褐色に変わる。
参考文献
- 1990 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科 - 書籍全体, 手代木求(著) 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科. 東海大学出版会. .
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- 地理的変異
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成虫の裏の羽色の比率は地域によって異なり、北方では黄色が主となり、関東でも黄色が多いが、九州ではほぼ銀白色となる。近畿地方や四国地方には後翅肛角部の赤色斑が白色になるスギタニ型と呼ばれる個体が出現することがある。
参考文献
- 1990 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科 - 書籍全体, 手代木求(著) 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科. 東海大学出版会. .
- 2019 フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ - 書籍全体, 日本チョウ類保全協会(編) フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ. 誠文堂新光社. .
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生態
- 成虫の生息環境
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主に丘陵地や低山地の落葉広葉樹林に生息し、里山の雑木林や河畔林でよく見られる。山地のブナ林でも見ることがある。(日本チョウ類保全協会, 2019, 251)
参考文献
- 2019 フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ - 書籍全体, 日本チョウ類保全協会(編) フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ. 誠文堂新光社. .
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- 成虫の食性
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雌雄ともにクヌギ、ミズナラ、コナラなどのナラ属、ニレの類、クワ、クルミなどの樹液に好んで集まる。プラムやモモの腐果も好み、それらを求めて果樹園に飛来することもある。雄はさらに動物の排泄物や死体にも飛来して吸汁したり、湿地で吸水もする。このような吸汁、吸水の場合、しばしば大きな集団となり、特に雄で著しい。(手代木, 1990, 43)
参考文献
- 1990 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科 - 書籍全体, 手代木求(著) 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科. 東海大学出版会. .
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- 幼虫の食性
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食草はエノキやエゾエノキで、孵ったばかりの幼虫はまず卵殻を食べる。
参考文献
- 2019 フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ - 書籍全体, 日本チョウ類保全協会(編) フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ. 誠文堂新光社. .
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- ライフサイクル
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年1化で、関東地方では6月下旬から7月にかけて成虫が発生する。交尾後、雌はエノキの小枝や葉裏に数十個以上の卵を産み付ける。卵は約1週間後に孵化する。幼虫はエノキの葉を食べて成長し、2回脱皮をして3齢に達する。ところが、3齢になると成長が大幅に鈍り、次の脱皮まで1ヶ月近くもかかる。9月半ばを過ぎると、幼虫は次々に脱皮して4齢になる。11月になると、体色が緑色から枯れ葉と同じ褐色に変わり始め、休眠の準備をする。晩秋には幼虫は木を降り、根元の落ち葉の下に移動し、そこで越冬する。翌年の春、越冬幼虫は眠りから覚めて、樹上生活に戻り、摂食を再開して脱皮して5齢幼虫になり、体の色も褐色から鮮やかな緑色となる。さらに脱皮して6齢 (終齢) となり、6月には葉裏で蛹となる。蛹は2週間後には羽化する。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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- 活動時間帯
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日中(日本チョウ類保全協会, 2019, 251)
参考文献
- 2019 フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ - 書籍全体, 日本チョウ類保全協会(編) フィールドガイド 増補改訂版 日本のチョウ. 誠文堂新光社. .
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- 孵化・脱皮・羽化
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羽化は明け方に起こる。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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- 生殖行動
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雄は雌を見つけると激しく追飛し、地上近くに誘引し、交尾を迫る。(手代木, 1990, 43)
参考文献
- 1990 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科 - 書籍全体, 手代木求(著) 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科. 東海大学出版会. .
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- 産卵
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雌は交尾後、エノキの小枝や葉裏に数十個以上の卵を産み付ける。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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- 特徴的な行動
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雄は午前中、羽化してくる雌を求めてエノキの周りをパトロールするが、午後になると見晴らしのいい梢に止まり、雌の到来を見張っている。雌は雄よりも不活発だが、時々高所を広範囲に移動することがある。
幼虫は葉の上で糸で座を作り静止場所とする。移動のとき、ほかの幼虫と触れあうと角状突起を使って争う。
蛹は接触的刺激には敏感に反応し、体を激しく震わせる。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
- 1990 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科 - 書籍全体, 手代木求(著) 日本産蝶類幼虫・成虫図鑑Ⅰ タテハチョウ科. 東海大学出版会. .
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- その他生態
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3齢になると、夏で気温が高いにも関わらず、幼虫の成長が大幅に鈍り、次の脱皮まで1ヶ月近くもかかる。飼育実験により、この成長の遅れの原因は、長日条件 (1日の明るい時間が14時間以上) にあることが明らかになった。一方、短日条件 (明るい時間が12時間以下) のもとで飼育された幼虫は成長が促進され、早々と4齢に脱皮する。それゆえ、自然条件下では夏の長日条件が幼虫の成長を遅らせ、それに続く秋の短日条件が次の4齢への脱皮を促しているわけである。これは、早い時期に3齢に脱皮した幼虫ほど、成長の遅れが激しいが、もしこの遅れがないと、中途半端な時期に親になる危険があるため、成長の速さを季節の進行に合わせねばならないためである。逆に、休眠前の幼虫の体色の変化や根もとへの移動といった一連の変化 (「ライフサイクル」の項参照) は秋の短日条件によって誘導される。
参考文献
- 加藤義臣 1997 オオムラサキと季節, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科9 昆虫Ⅱ. 平凡社. p. 49.
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