- 解説一覧
- ダイコン(Raphanus sativus)について
基本情報
- 生活形
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春まきして初夏に収穫する夏ダイコン、夏まきして秋に掘り取る多くの種類のダイコンなどは一年草であるが、秋遅く播種し、翌年春に収穫する三月ダイコンのような二年草もある。
参考文献
- 伊澤一男 1998 ダイコン, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 227.
最終更新日:2020-05-20 ハリリセンボン
- 和名の解説
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『本草和名』(918)には和名としてオホネと出ているが、俗に大根の字を用い、のちに音読してダイコンと読むようになった。
参考文献
- 伊澤一男 1998 ダイコン, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 227.
最終更新日:2020-05-20 ハリリセンボン
- 亜種・変種・品種
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・ラファヌスト・ラファニストルム・ラファニストルム(Raphanistrum raphanis-trum ssp. raphanistrum)
ダイコンの野生種である。
高さ 30~50 cmの越年草だが、根は太らない。黄、白あるいは紫色の花を咲かせ、直径 2 ㎜ほどの赤褐色の種子をつける。
野生種らしく、種子が1列に並んだ鞘は簡単に折れ、散布されやすい。
地中海沿岸地方から中近東の原産だが、現在では全世界に分布しており、鞘の形態などから数変種に分類されている。
ダイコン属の植物は以前は多数の種に分けられていたが、最近では野生種と栽培種の2種に分け、それぞれの亜種に分類する方向にある。
ダイコンは、世界各地にさまざまな品種がある。
それらの品種群はヨーロッパを中心に南・北アメリカに広まったヨーロッパダイコン、中国を中心に東アジアに広まった中国ダイコン(華南型、華北型、中国小ダイコン)、日本で発達し、中国、朝鮮半島、東南アジアの一部にも広がった日本ダイコンの3つに大別される。
さらに西アジアには、肥大した根ではなく、長さ 40~60 cmもある鞘を食べるさやダイコンがある。
参考文献
- 日向康吉 1997 ダイコン, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 205.
- 芹澤正和 1997 ダイコンの品種, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 206.
最終更新日:2020-05-20 ハリリセンボン
- 別名・方言名
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別名:オオネ(大根)、スズシロ(清白)
春の七草では、根の白さよりスズシロと呼ばれる。
参考文献
- 日向康吉 1997 ダイコン, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 205.
- 伊沢凡人 1980 ダイコン, 伊沢凡人(著) 原色版日本薬用植物事典. 誠文堂新光社. 13.
最終更新日:2020-05-20 ハリリセンボン
- 人間との関係
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栽培種のダイコン(Raphanus sativus)は、地中海沿岸地方あるいは近東で、野生種から根の肥大するものが選ばれてつくり出された。
エジプトのピラミッドにも、ダイコンを食べたという記録がある。
ユーラシアの各地で利用されていて、形や大きさ、色の変異も多様で、根が太るもの、細いもの、球形のもの、色も白、赤、緑、黒などがある。
さらに葉を食用する(小瀬菜ダイコン)、幼芽を食べる「カイワレダイコン」、種子から油をとるもの、植物体を土にすき込んで土壌改良に使うものなど、それぞれの地域で多様に改良されている。
ダイコンは日本人の食生活に古くから結びついていて、在来型と中国ダイコンの華南型の交雑から、現在の品種(栽培品種)のもとがつくられ、江戸時代中期には一年中供給されていた。
さらに、地方ごとに多くの品種がつくられ、1950年代には200以上、70年代にもなお100余りの品種が栽培されていた。
しかし、都市への人口集中に伴い、都市圏への大量で安定的な供給が求められるようになると、限られた地域だけに適するものや、生産に特殊な技能が必要なもの、生育期間が長いものや収量が少ないなどの品種は、次々と姿を消していった。
大量安定生産に適した雑種第一代(F₁)の普及が、それに拍車をかけた。とはいえ、1970年代までは、美濃早生(みのわせ)、練馬、宮重、阿波晩成、聖護院、二年子、時無(ときなし)といった品種のF₁が、季節や用途、地域に応じて供給されていた。
そのような状況も、1970年代末になると一変した。
日本ダイコンに中国ダイコンの華北型が自然交雑してできた、とみられる宮重ダイコンの総太型から育成された青首ダイコンが、みずみずしくて甘みがあり、辛味がなくて美味しいと評価され、生産が爆発的に伸びた。
この品種はどこでもつくれる、栽培が容易、生育期間が短い、収量が多い、長さがほどほどで収穫しやすい、などの利点があり、生産者にも歓迎された。
もともと秋に種子を播いて、晩秋から初冬に収穫するもの(秋どり用)だったが、最近ではとう立ちが遅い(春どり用)、高温期でも栽培できて(夏どり用)、低温でも根が肥大する(冬どり用)、などの特徴をもったF₁も育成され、季節や用途に応じて、一年中供給されるようになった。
近年、多くの野菜で甘みを好む嗜好が強くなっており、ダイコンもそれに押し切られ、本来の特色である辛味が嫌われている。しかし、気候や風土に根ざしたさまざまな特徴をもつ地方の品種が、「故郷の味」として見直されつつある。
【成分】
ダイコンの辛みは、配糖体のシニグリンが分解されて、イソ硫シアンアリルができ、これが辛みになる。
【薬効と用い方】
『本朝食鑑』(1697)によれば、「大根には能く穀を消し(消化しの意)、痰を除き、吐血、鼻血を止め、麺類の毒を制し、魚肉の毒、酒毒、豆腐の毒を解する」とあり、煙にまかれて死ぬほど苦しみにあったとき、生食するとつばが出てきて難を逃れられると述べられている。
・健胃に用いる
おろし汁約 20~40 ㏄を朝晩2回飲む。食欲のないときは食前に、それ以外は食後すぐに飲む。
・食中毒の腹痛に用いる
種子(莱菔子)10粒を噛み砕いて飲む。
・咳止めに用いる
おろし汁を茶碗3分の1ぐらいに、おろししょうが少々を加え、湯を注いで飲む。少量の砂糖を加えてもよい。
・冷え症、神経痛に用いる
よく乾燥した干し葉を二握りほど、大きい鍋で水から煎じ、干し葉ごと風呂に入れて入浴する。
参考文献
- 日向康吉 1997 ダイコン, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 205.
- 伊澤一男 1998 ダイコン, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 227.
- 芹澤正和 1997 ダイコンの品種, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 206.
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形態
- 葉の形質
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根生葉は束生し 30 cm以上になり、倒披針形で羽深裂し、上の方の裂片が一番大きい。中央に白色多汁質の主脈が走っており、粗い毛が生えている。
参考文献
- 伊沢凡人 1980 ダイコン, 伊沢凡人(著) 原色版日本薬用植物事典. 誠文堂新光社. 13.
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- 茎(幹)の形質
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地上茎がでるのは春で、直上し 1 mぐらいになり、先の方では枝を分かつ。
参考文献
- 伊沢凡人 1980 ダイコン, 伊沢凡人(著) 原色版日本薬用植物事典. 誠文堂新光社. 13.
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- 花の形質
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茎頂分枝上に総状に柄でつき、白~淡紫色で十字形をしている。がくが開かないため、下部は筒形をしている。
雄しべは4本だけが長く、花糸のもとのところには蜜腺があり、雌しべは1本である。
参考文献
- 日向康吉 1997 ダイコン, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 205.
- 伊沢凡人 1980 ダイコン, 伊沢凡人(著) 原色版日本薬用植物事典. 誠文堂新光社. 13.
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- 果実の形質
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果実はくちばし部が長大化しており、そこに種子をつける。果皮は熟しても割れない。
参考文献
- 日向康吉 1997 ダイコン, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 205.
- 伊沢凡人 1980 ダイコン, 伊沢凡人(著) 原色版日本薬用植物事典. 誠文堂新光社. 13.
最終更新日:2020-05-20 ハリリセンボン
- 種子の形質
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種子は長さ 4~6 cmで赤褐色、形はやや扁平である。
参考文献
- 日向康吉 1997 ダイコン, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 205.
- 伊沢凡人 1980 ダイコン, 伊沢凡人(著) 原色版日本薬用植物事典. 誠文堂新光社. 13.
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生態
- その他生態
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白色の大根(食用部)は、上半が茎で下半分が根であるが、両者の境は外観では判然としない。
重さ 40 kgに達し、世界一重い桜島ダイコン、長さ 170 cmにもなり世界一長い守口ダイコンなどがある。
参考文献
- 日向康吉 1997 ダイコン, 日向康吉(著) 植物の世界6,種子植物 双子葉類6. 朝日新聞社. 205.
- 伊沢凡人 1980 ダイコン, 伊沢凡人(著) 原色版日本薬用植物事典. 誠文堂新光社. 13.
最終更新日:2020-05-20 ハリリセンボン