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- スギ(Cryptomeria japonica)について
スギ(Cryptomeria japonica)
【IUCN】現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
- 【 学名 】
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Cryptomeria japonica (Thunb. ex L. f.) D. Don
目次
基本情報
- 分布
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青森県西津軽郡鰺ヶ沢町矢倉山から鹿児島県屋久島までの暖温帯と冷温帯に点々と天然分布が見られ、立山連峰劔岳の 2050 mと屋久島の 1850 mが、本州および九州での最高垂直分布標高である。
有史以来の人為的な植栽の結果、真の自然分布域は必ずしも明らかではない。
参考文献
最終更新日:2020-05-19 キノボリトカゲ
- 和名の解説
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①すくすくと生長する木の意味。
②スグ(直)な木の意味。またはスナヲキ(直木)の転じたもの。
③上へ進みのぼる木であることからススミキ(進木)の意味。ほかにも諸説ある。
参考文献
最終更新日:2020-05-19 キノボリトカゲ
- 人間との関係
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庭園樹、生垣、盆栽、街路樹などの観賞木や造園樹。また最も重要な林業樹種として日本各地で広く植林されている。
季題は「春」杉の花。「秋」杉の実。「前山の杉の赤きは花ならむ いはほ」「日々好日と杉の実干してあり 石井露月」などの句がある。
樹皮は屋根葺、家屋の外張り、垣根などに使われる。
葉は焚きつけとするほか、線香や抹香の原料になる。酒店では新酒の出る頃、杉の葉を薬玉にして店先に出す。
若葉の汁は虫刺されや腫れものなどに用いる。煎服すると利尿や脚気に効果があるという。
わが国には杉の老樹や巨木が多い。2000年以上の樹齢を誇る木は各地にあり、その多くが天然記念物となっている。
中でも鹿児島県屋久島の屋久島スギ原生林にある「縄文杉」は有名で、樹齢数千年といわれる。
岐阜県白鳥町の「石徹白のスギ」、高知県大豊町の「杉の大スギ」、山形県羽黒山のスギ並木や栃木県日光のスギ並木街道は、いずれも国の特別天然記念物に指定されている。
鬱蒼と茂るスギの巨木は古代人に畏怖の念を与え、古くから神を祭る神聖な樹木とされた。
社寺に植えられて名木となっているものも各地に見られる。
スギ林は日本の造林面積の約40%を占める。戦後の林野行政におけるスギ植林が林業地の景観を変えた。
スギが中国に伝わったのは約1000年前。ヨーロッパにスギを紹介したのは、元禄時代、長崎出島に来ていたケンペルである。
奈良県、京都府(北山杉)、三重県(神宮杉)の県木。
スギの材は軽軟(平均気乾比重0.38)で、辺材は白く、心材は淡紅または赤褐色(赤芯)、ときに黒褐(黒芯)となり、辺材と心材の間にははっきりとした境がある。
木理は真直ぐで、春材と秋材の移行は急であり、割りやすく、春材部の風化による目やせも著しい。
木材としての生産量の多さ、丸太がまっすぐで大材の得やすさ、木目の美しさなどの利点で、建築材としては柱、板材など、ほとんどあらゆる部分に用いられる。
とくに木目や杢の美しい板材や磨き丸太は、天井板、欄間、床柱などの室内装飾材として重用される。
また、足場丸太、橋梁などの土木用材、造船、車両材、電柱、家具、器具材、包装材のほか、経木、下駄、割箸など生活用材としても多量に用いられる。
さらに心材の含有成分が酒に木香を与えるため、酒樽材としては欠くことができないものであった。
幹の樹皮は春季とくにはぎやすいので、古くから杉皮と称して屋根、下見あるいは垣根などに用いられた。
針葉はタブノキ Machiius thunbergii の葉や樹皮とともに粉にして線香をつくり、また材を抹香に用いる。
庭木、生垣、あるいは盆栽としても多く用いられ、枝に針葉の長い部分とみじかい部分が交互にあらわれるエンコウスギ(猿猴杉)、針葉が枝によじれつくヨレスギ、針葉が黄金色を呈するオウゴンスギなど園芸品種も多く、生け花にも供される。
『万葉集』に「神奈備の三藷の山に斎ふ杉」と詠まれているように、杉はまっすぐ高くのびる目だつ木であるから、古くから神を祭る神聖な木とされた。
大和の三輪明神の神杉や京都の伏見稲荷の験の杉は神木として有名だが、このほか、大杉神社、老杉神社、杉山神社などの神社名や杉本、杉下などの地名に杉をちなんだものが多く、これらも杉を神木としたり杉のもとで祭りをした名残と考えられている。
三輪や伏見に参った人は、杉の小枝や杉苗を持ち帰り、それが根づくと神の加護のあったしるしとする風があった。
今でも、伏見稲荷では初午にシデをつけた験の杉を授けている。
杉の枝は安産の御守や魔除けともされ、流行病や百日咳のときには「過ぎ」や「過ぎてよし」の語呂合わせから杉とヨシを戸口につるしたり、家族分の餅を杉の葉につけて垣根に刺し、後ろを見ずに帰る風習もある。
また杉には箸や杖が生長したという箸杉や杖杉の伝説のほか、峠などには弓を射て境を画定した跡とされる矢立杉の伝説もある。
このほか、33回忌がすむと弔い上げに杉葉のついた生木の塔婆を墓に立て、死者が神になったしるしとする。
杉は神聖視されたため、屋敷に植えたり垣をつくると、家が滅びるとか福が入らないといって嫌われ、また杉が立ち枯れしたりすると災難や変事が起こる前兆とみられた。
酒と杉も関係が深く、三輪明神の助けで一夜で見酒を醸したという伝承から、酒屋では杉葉を束ねた杉玉を軒につるして看板としたり、杉の香りを尊んで杉で酒樽をつくったりした。
杉の脂は火傷、ヒビ、あかぎれ、吹き出物などの薬として患部につけた。
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最終更新日:2020-05-19 キノボリトカゲ
形態
- 地理的変異
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分布が広いために地方適な変異も多く、とくに日本の太平洋側のものと日本海側のものとでは生態の形態の差が大きい。
後者では太い枝が曲がって地につき、そこから先端が立ち上がり、地についたところから発根する伏条性が強い。
日本海側気候の多雪条件に適応したもので、これをアシウスギ var. radicans Nakai という。
一般に日本海側に自生ないし植林される杉には、アシウスギに似て伏条性が強く挿木に適するものが多い。
日本海側の杉はまた、梢端がとがり、太枝が下向きで、しかも針葉が枝に鋭角につくという耐雪性の形態的特徴も示す。
したがって、この系統のものを林業的にウラスギといって、雪害に比較的弱い太平洋側のオモテスギから区別する。
両者は、その生態および生育適地も著しく異なるもの、植林に用いる場合には厳密に区別する必要がある。
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生態
- 生育環境
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西日の当たらない谷間で腐植質に富む肥沃で湿潤な土壌に自生する。陽樹で耐陰性、耐煙、耐潮、耐熱に弱い。
生育条件としては、年平均気温12~14℃、年降水量 3000 ㎜以上の気候が最適で、8℃以下あるいは16℃以上、2000 ㎜以下の地域は不適となる。
土壌中の水分および養分状態に敏感で、不適地での生長の減退が著しいため、おおむね斜面下部や堆積地などに植えられる。
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最終更新日:2020-05-19 キノボリトカゲ
関連情報
- 栽培方法
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繁殖は実生、さし木で行う。さし木は病虫の少ない用土に6~7月、本年枝の 15 ㎝ぐらいをさし木する。
実生は採果後乾燥、種子を取り出し、秋から春にかけて播種する。播種床は腐植質に富む埴質土がよい。
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