- 解説一覧
- ガザミ(Portunus trituberculatus)について
基本情報
- 人間との関係
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季題は<夏>
「岩伝ふ 水上走り がざめの子 松瀬青々」
江戸時代の料理書に「がざみ、下也」とあり、下等で客をもてなす席には不向きだとされるが、庶民の味としては親しまれていた。
『和漢三才図会』には山州(京都)、和州(奈良)に多く、毎年10月丑の日に必ず群れをなして出てくるのでこの日を待って多くとるが、不思議なことだとある。
俗に「月夜のカニはやせて肉が少ない」といわれる。月に浮かび上がる自分の影におびえてやせるからだという。
参考文献
最終更新日:2020-09-10 En
形態
- 成体の形質
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体は著しく扁平する。甲は横に長い菱形。額には鋭い3棘がある。
甲の左右前側縁にそれぞれ三角形で先端の尖った9棘を有し、9番目の棘は長大で側方へ突出する。左右の第一脚(鋏脚)は強大で、長節の前縁に4棘、腕節の内側と外端に各1棘、前節の基部に1棘、指節近くに2棘が並ぶ。
第4脚は、第2脚や第3脚と比べて小さい。第5脚の前節と指節は平らな櫂状になっている。
雄の腹部は幅が狭いが、雌の腹部は幅広く、簡単に識別できる。
生時の体色は暗緑色で、白色の小斑紋が散在する。
近縁種のタイワンガザミやジャノメガザミによく似るが、タイワンガザミは甲の表面に白色の雲状模様があること、ジャノメガザミは甲表面の後半面に白く縁取られた3個の紫色の斑紋があることから区別できる。
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生態
- 生息環境
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水深 40 m以浅の海底に生息し、内湾の砂泥底に多い。
生息水温は7〜35℃。秋に水温が14〜15℃に低下すると摂餌行動を停止して砂中に潜り、春に水温が10℃前後になるまで冬眠する。
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- ライフサイクル
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産卵期は春から夏で、送り込まれた精莢は半年以上も雌の体内に保管される。相模湾では5〜8月、伊勢湾で6〜8月、広島で6〜7月、有明海で6〜8月が産卵盛期。
ふつう、春先の水温上昇期に産卵が活発になる。産卵場所は内湾の水深 10〜30 m前後で、藻場周辺の砂泥底。
通常、産卵は夜間に行われ、卵は産卵時に受精する。
産卵から孵化するまでの時間は、水温20℃前後で2〜3週間。孵化は夜半以後に行われることが多い。
孵化直後の幼生はゾエア幼生で、浮遊生活をしながら11〜17日間に4〜5回の脱皮をしたのち、メガロパ幼生に変態する。メガロパ幼生の甲長は 2〜3 ㎜で、約1週間を経て稚ガニに変態する。したがって、孵化から稚ガニになるまでの浮遊期間は、通常3〜4週間である。
変態直後の稚ガニは潮間帯に出現することが多く、夜間には中層や上層に浮き上がって遊泳する。その後、成長するにつれて軟泥質の海底から泥質底、砂泥底、砂底と生息場所を変える。秋には甲幅 15 ㎝前後に成長し、成熟し始める。
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- 生殖行動
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交尾は水温下降期である秋に行われることが多く、相模湾では9月が盛期となる。
交尾期の雄は、雌が脱皮して軟甲になるまで、歩脚を用いて雌を背後から抱える。
雄が雌を抱えてから雌が脱皮するまでの期間は通常2〜5日間であるが、ときには10日以上もそのままの体勢で過ごすこともある。
やがて雌が脱皮すると雄は雌を仰向けにして上に乗り、歩脚で雌を抱えながら交尾針を雌の生殖孔に差し込んで精莢を雌の体内に送り込む。その後、雄は雌の生殖孔をセメント様の物質で塞ぐ。
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関連情報
- 味や食感
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甲羅がかたく、重いものを選ぶ。
身は少ないが柔らかくて甘みがあり、美味。
新鮮なものを塩茹でするか、または蒸して、熱いうちに二杯酢、しょうが酢醤油などで食べる。
またぶつ切りにして鍋物や味噌汁に仕立てると、殻から出る旨みが出汁になり美味。揚げ煮料理もおいしい。
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