- 解説一覧
- ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)について

ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)
【IUCN】現時点での絶滅危険度の低い種
- 【 学名 】
-
Megaptera novaeangliae (Borowski, 1781)
基本情報
- 大きさ・重さ
-
北太平洋産の平均成熟体長は、雄 13.3 m、雌 13.8 mである。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- 分布
-
全海洋に分布し、1年周期の回遊を行って、夏に高緯度海域で索餌し、冬に低緯度海域で繁殖をする。赤道をまたぐ回遊も知られているが、南北両半球の個体が混合するという証拠はない。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- 和名の解説
-
和名のザトウクジラ(座頭鯨)の由来は、潜水の直前に見せる背中の形が、盲目の琵琶法師(座頭)の背負っている琵琶に似ていたためと言われる。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- 分類学的位置付け
-
ナガスクジラ科
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 ザトウクジラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 214₋215.
最終更新日:2020-12-04 ハリリセンボン
形態
- 成獣の形質
-
体長の約3分の1に達する長い胸びれをもつ。頭部には上あご背面と下あご外側に、こぶ状の隆起が多数存在する。体色は背面が黒色あるいは青黒色、胸びれ下面と腹面は白色、ときに黒色である。北太平洋産の個体には、腹面が黒っぽいものが多い。ひげ板は、左右にそれぞれ270~400枚ある。うねは12~36条で、ほかのナガスクジラ科のクジラに比べて数が少なく、幅が広い。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
生態
- 食性
-
独特な摂餌方法をもっていることで有名である。
その1つはバブルネット・フィーディングと呼ばれるもので、複数のザトウクジラが水中で息を吐きつつ旋回し、円筒状の空気の網を作り、その中に餌となる魚を閉じ込めてそれを一気に下からすくうものである。これ以外にも、1頭で空気の泡を吐き出して気泡の雲やカーテンをつくったり、尾びれで水面を叩いて気泡の泡をつくり、餌生物を追い集めて捕食する方法がある。ほかにも、表層を口を開けて泳いで餌生物を海水ごと飲み込む方法など、さまざまな摂餌法が報告されている。
海域によって特有な摂餌方法もある。たとえば北大西洋では、大きな気泡の塊を吐き出して魚を捕る雲形気泡 bubble cloud という方法も見られる。またニューイングランド海域のザトウクジラは、ロブティル・フィーディング lobtail feeding あるいはインサイド・ループ型摂餌法 inside loop といって、尾びれで海面を叩き、そこにできた気泡を利用した方法で魚を捕る。このようなある決まった海域に独特な摂餌方法は、学習によって習得されると考えられている。また餌となる生物の種類や密集度に応じて、摂餌方法を使い分けているようである。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- 鳴き声
-
ソングと呼ばれる鳴き声を発する。これは成熟した雄が発するとされ、主に繁殖海域で聞かれる。小笠原や沖縄でもこのソングを聞くことができ、この海域が繁殖海域であると推定する1つの根拠となっている。これは、40~5000 Hzの周波数の、ゾウともウシともつかないうめき声や、イヌの遠吠えのような音であるが、変化に富んだ一定の旋律を持っている。1つ1つの短い断続音をユニット、いくつかのユニットが集まったものをフレーズ、類似したフレーズの集まりをテーマ(主題)と呼ぶが、ソングは数種類のテーマが連なったものである。ソングの長さは6~35分で、それが連続して繰り返される。30~40分に1度呼吸のために中断するが、続きはその中断されたところから始まる。
ある年にある繁殖場で聞くことのできるソングは、みな共通したテーマで構成されている。しかし年がたつにつれてあるテーマは消失し、別のテーマが追加されたりして、何年かすると全く違った旋律のソングとなる。このソングは、沖縄と小笠原のように交流のある海域間では共通部分が多く、その違いの程度によって海域間の交流の程度を推測することができる。
ソングの意味については、まだ定説がない。雄が歌い、主に繁殖期に聞かれることから、交尾に関係していると考えられる。ほかにも雄同士が力を誇示するため、雌を引き付けるためであるなど、さまざまな仮説が出されている。ただし、鳥のさえずりと異なって、なわばりの宣言に使われているとは考えられていない。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- 生殖行動
-
繁殖期は冬であり、暖かい(24~28℃)亜熱帯海域へ回遊する。繁殖場でもっとも強いきずなを持つものは、雌とその子どもである。子どもを連れているいないにかかわらず、繁殖場で形成されるグループの中心は雌であり、雄を引き付ける。雄は繁殖場にやってくると歌い始める。
雌はまず1頭の雄をひきつけ、その雄はその日ずっともしくは数時間、ぴったりと寄り添って行動する。すると、やがてその周りを取り巻いていたほかの雄たちが互いに押しのけ合って、雌に少しでも近づこうとする。雄たちはそれぞれ尾で打ったり、突いたり、泡を立てたりして相手を追い払おうとする。1頭の雌の周りに群がる雄の数は、1~6頭ぐらいである。繁殖期のあいだ、雌にぴったりと寄り添う雄は、毎日もしくはもっと頻繁に変わる。また母子とともに、1頭あるいは2頭のクジラが一緒に泳いでいる姿も観察される。これは、次の交尾の機会を伺って親子連れに連れ添っている雄鯨だとされており、このような雄はエスコートと呼ばれている。
参考文献
- C.ロックヤー 1986 海からの声, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 76₋77.
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- 出産
-
妊娠と出産は1年のうちのほぼどの時期でも可能だが、その大部分は3~4ヵ月の比較的短いピークに集中して見られる。交尾は南北どちらの半球でも低緯度域の暖海で冬に行われ、その後南極域と北極域へ回遊し、豊富な餌生物(動物プランクトン)を食べて3~4ヵ月を過ごす。この集中的な採食活動のあと再び低緯度の暖海域へ戻り、交尾から数えて11~12ヵ月後にその海域で1頭の子どもを出産する。
出産時の性比も一生の大部分の時期の性比もほぼ1:1であるが、回遊に際して雄と雌が別々に行動したり、性的状態によって行動パターンに差があるため、特定の時期の特定の海域をとると、性比のバランスが崩れている場合もある。
参考文献
- R.ギャンベル 1986 ナガスクジラ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 70₋73.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- 子育て
-
新生児は母親に伴われ、母乳を栄養源としながら、極海へと向かう春の回遊に出る。ザトウクジラの授乳は12ヵ月間も継続されるらしく、離乳は高緯度海域以外の海域で行われる。
参考文献
- R.ギャンベル 1986 ナガスクジラ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 70₋73.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
関連情報
- 研究されているテーマ
-
ザトウクジラの回遊については、古くは体内型の標識銛を用いて研究され、小笠原や沖縄の周辺海域と東部アリューシャン(アレウト)列島や、ナバリン岬方面との間の移動が報告されている。現在では写真による個体識別法が、ザトウクジラを含む鯨類の移動や生活史を解明する手法として注目され、世界各地で応用され、研究が進められつつある。これは体色や体表の傷などで個体を識別する標識法の一種で、殺さずに済む、捕獲が停止されている鯨種にも適用できるなどの利点があり、広く用いられている。ザトウクジラでは、主に尾びれ腹面の白黒模様と、後縁の凹凸の形状や傷が識別の手がかりに使われる。
北太平洋での写真による個体識別の研究の結果、小笠原と沖縄に回遊するザトウクジラの間に、かなりの交流があることが明らかとなってきた。ハワイの繁殖場とは交流の可能性はあるものの、小笠原と沖縄の間ほど頻繁ではないと推測される。ハワイ、メキシコ方面の索餌場との交流も、この方法で確認されている。ただし、小笠原や沖縄で越冬するザトウクジラが夏を過ごすと推定されているアリューシャン列島、カムチャッカ半島方面では、このような研究がほとんど行われていない。
今後、写真による個体識別の情報を蓄積するとともに、海域間の鳴音の比較やDNAを用いた遺伝学的な解析、バイオテレメトリーによる追跡調査などによって、回遊や繁殖のありさま、個体群構造などがさらに明らかにされるだろう。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン
- その他
-
日本沿岸では、江戸時代には三河湾、紀州、土佐、北九州方面で捕獲され、明治以降は北太平洋各地でノルウェー式捕鯨で捕獲されてきた。乱獲によって個体数の減少を招いたため、北太平洋では1966年から保護資源として捕獲が停止されている。まれに海岸に漂着することがある。
まだ個体数は十分に回復していないが、1980年代後半以降、小笠原や沖縄の周辺海域では目撃例が多く寄せられるようになり、ホエール・ウォッチングの対象捕鯨として人気を集めている。
参考文献
- 森恭一 1996 ザトウクジラ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 46₋49.
最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン