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セイウチ(Odobenus rosmarus)の分類 Odobenidae
セイウチ(Odobenus rosmarus)の概要 Odobenus

セイウチ(Odobenus rosmarus)

危急 (VU)

【IUCN】絶滅の危険が増大している種

【 学名 】
Odobenus rosmarus (Linnaeus, 1758)

基本情報

大きさ・重さ

地域による変異が大きい。
最小はハドソン湾のもので、平均体長は雄 2.9 m、雌 2.5 m、体重は雄約 795 kg、雌約 565 kg。
最大はベーリング海とチュコート海のもので、平均体長は雄 3.2 m、雌 2.7 m、体重は雄約 1210 kg、雌約 830 kg。
牙の長さもハドソン湾のものは非常に短く、平均して雄 36 cm、雌 23 cm。ベーリング海とチュコート海のものではハドソン湾産の2倍に近く、平均して雄 55 cm、雌 40 cm。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

分布

カナダ東部、グリーンランドからユーラシア大陸北部、アラスカ西部の北極海まで分布する。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

亜種・品種

2ないし3亜種に分けられる。

・タイセイヨウセイウチ 
学名:O. r. rosmarus
英名:Atlantic walrus
分布:ハドソン湾、バフィン湾からカラ海、バレンツ海まで分布する。
雄の体長 3.5 m、牙の長さは体長の約12%。

・タイヘイヨウセイウチ
学名:O. r. divergens
英名:Pacific walrus
分布:ベーリング海とチュコート海まで分布する。
雄の体長は 4.2 mに達し、牙の長さは体長の約17%。雄の鼻づらはタイセイヨウセイウチより四角く、ほおが垂れ下がっている。亜種名 divergens の由来は、タイセイヨウセイウチより牙の付け根が広く離れているとされたからだが、この差異はいまだに確認されていない。ラプテフ海のセイウチの大きさは中間的で、タイヘイヨウセイウチあるいはタイセイヨウセイウチとみなされることもあるが、ときには別亜種 O. r. laptevi とされる。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

分類学的位置付け

食肉目 セイウチ科 セイウチ属

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.
  • 今泉吉典 1960 セイウチ, 今泉吉典(著) 原色日本哺乳類図鑑. 保育社. 181.
  • 伊藤徹魯 2008 セイウチ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 101.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

形態

成獣の形質

成獣の皮膚は肉桂色で、皺が多く無毛に近い。アシカ類に似るが耳介はほとんどなく、眼は小さい。
雄成獣の頚~胸部の皮膚はコブ状に肥厚する。吻部に太い数百本の感覚毛をもつ。上顎犬歯は巨大な牙で、雄では雌より長く、最長 100 cmに達する。成獣の平均体長・体重は雌 270 cm・725 kg、雄 320 cm・1,350 kg と性的二型を示す。雄成獣の咽頭にある一対の気嚢は、浮きや水中音発声時の共鳴器となる。
体色はシナモン色から明るい黄褐色で、胸から腹面がもっとも濃い。成獣の雄は首から肩に毛がまばらに生える。

参考文献

  • 伊藤徹魯 2008 セイウチ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 101.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

幼獣の形質

出生時の体長は約 1.1 m、体重は 60~65 kg、やわらかく短い毛に覆われ、四肢(ひれ)は明るい灰色で、白くて太いひげが密生し、歯は生えていない。最初の6ヶ月間はミルクだけしか飲まず、それを過ぎると固形物も食べ始める。1歳を過ぎると幼獣の体重は3倍ほど、牙も 2.5 ㎝くらいになる。さらにもう1年間幼獣は母親のそばで過ごし、指導、保護、ミルクを母親に頼りながら、しだいに自分の力だけで海底で食物をあさり、ひとり歩きする範囲を広げていく。2歳になる幼獣は母親と別れ、母親は次の出産にとりかかる。若いセイウチは、離乳してひとり歩きをし始めても、母親との関係を保ち、群れといっしょに回避する。しかしその後の2~4年くらいの間に、雄はしだいに群れから別れ、冬には自分たち若い雄だけの群れをつくったりする。また夏には、大型の繁殖雄の群れに合流したりするようになる。
未成熟個体の体色は、成獣より暗色、幼獣のひれの表面は毛がなく裸出して黒く、年齢とともに褐色ないし灰色を帯びてくる。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

生態

生息環境

主として大陸棚上の流氷域、北極海(極付近)、浅い大陸棚上の海域や海岸沿いに生息する。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.
  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 セイウチ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 299.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

食性

今日、セイウチは北の海の大陸棚に豊富に生息する二枚貝類を主食としている。そのほかに40種類ほどの無脊椎動物を食べていることが知られているが、ほとんどすべてが底生の動物であるエビ類、カニ類、巻貝類、多毛類(ゴカイ類)、エラヒキムシ類、タコ類、ナマコ類、ホヤ類などで、このほか魚類も少しは食べており、ときにはほかの鰭脚類を食べることもある。
食物を探すにあたっては、おそらくほかの感覚はほとんど使わずに、もっぱら触覚に頼っていると考えられる。なぜなら、冬季は完全な暗闇の中で食物を探し、ほかの季節でも水が濁っていたり、あまり光の届かない深い海底で食物を探しているからである。触覚がもっとも強力に発達しているのは、鼻づらの全面である。そこは皮膚が薄く、450本もの非常に敏感な短いひげが密生している。鼻づらの上端には角質化した頑丈な皮膚で装甲されており、それを使って海底の砂泥中に潜む二枚貝などを、ブタやイノシシのように掘り起こしているものと思われ、砂泥中のもっと深いところに潜む食物は、それらが住む穴に強い水流を送り込んで掘り返すのだと考えられている。理由として、セイウチは大量の水をものすごい勢いで口から噴出できることが、動物園や水族館での観察で知られているからである。かつて想像されていたような、長い牙で海底を掘り起こすという仮説は、現在は否定されている。牙はシカやヒツジなどの有蹄類の角と同じく、もともと社会的な器官である。牙は年齢とともにすり減っていくが、それは海底を掘るからではなく、鼻づらや水流で砂泥を掘りながら前進するために、牙が海底にこすれるからである。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

ライフサイクル

季節によって雌と雄が別々の群れをつくる傾向は、程度の差はあるがどの地方でもみられ、その傾向はベーリング海からチュコート海で最もはっきりしている。この海域では、成獣の雄の大部分は春のあいだベーリング海の採食海域に集中し、雌と未成熟個体の大部分は北へ向かいチュコート海へと回遊する。雄と雌はこのまま別れた状態で夏を過ごす。そして秋になって雌が南下してくると、雄はベーリング海峡のあたりで雌に出会い、あいともなってベーリング海の越冬・繁殖地域に向かう。その間未成熟個体たちは、繁殖海域の外側の流氷域で冬を越すために移動する。このようにすみ分けることによって、太平洋のセイウチは食物資源にかける負担を分散させ、繁殖期に壮年雄と青年雄のあいだで起こりうる闘争を最小限にとどめている。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

鳴き声

高低さまざまな吠え声で鳴く。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

生殖行動

海中でくりかえされるノックとベル、そして海面で鳴く短いクラックとホイッスル音の組合せは、小鳥の歌と同じように、配偶者となるべき雌をひきつけ、また競合するほかの雄を追い払うディスプレイだと考えられる。ベルすなわち鐘のような声は、のどにある気嚢を共鳴箱にしていると思われ、雌に対する性的ディスプレイのときにしか聞かれない。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

出産

雌は早いものでは4歳で初めて出産するが、遅いものでは10歳になってようやく出産しはじめる(平均は6~7歳)。
雄は成長に時間がかかり、生理的に性成熟に達しただけでなく、肉体的にも成熟しないと繁殖に参加できない。大部分の雄は、本当の意味での成獣になるまで、約15年もの年月を要する。そのぐらいにならなければ、体の大きさも牙の大きさも十分にはならず、雌を巡る激しい闘争に勝って繁殖に参加することができないのである。
交尾は1月から2月、冬季でももっとも寒い時期に、おそらく水中で行われる。この時期、成獣の雌とその幼獣たちは伝統的な繁殖地域に集まり、10~15頭ずつの群れをつくって、移動しながら一緒に採食を行っている。採食の合間の休息時には、いくつかの群れが氷上で一緒になる。それぞれの群れには1頭から数頭の成獣の雄がつき、ほとんどの時間は付近の水中にとどまり、絶え間なく音声を発している。雌は交尾した翌年の春、ふつうは5月に1頭の幼獣を産む。妊娠期間が1年以上にも及ぶため、雌はせいぜい2年おきにしか出産できない。しかも、その間隔は年齢とともに長くなる。そのため、セイウチの繁殖率は鰭脚類中もっとも低く、哺乳類全体を見渡してもセイウチほど繁殖率の低い動物はあまりいない。

参考文献

  • F.H.フェイ 1986 セイウチ, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 112-116.

最終更新日:2020-05-01 ハリリセンボン

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