イノシシ(Sus scrofa)の解説トップに戻る
イノシシ(Sus scrofa)の分類 Suidae
イノシシ(Sus scrofa)の概要 Sus

イノシシ(Sus scrofa)

低危険種 (LC or LR/lc)

【IUCN】現時点での絶滅危険度の低い種

【 学名 】
Sus scrofa Linnaeus, 1758

基本情報

大きさ・重さ

頭胴:113~150 cm
尾:10~23 cm
足(蹄とも):20~27 cm
耳:8~12.5 cm
頭骨全長:26.5~45 cm
体重:45~300 kg

参考文献

  • 今泉吉典 1960 イノシシ, 今泉吉典(著) 原色日本哺乳類図鑑. 保育社. 185.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

分布

西日本を中心に、北海道と日本海側の豪雪地帯を除くほぼ日本全域、本州、四国、九州を中心に二ホンイノシシが、奄美、沖縄の南西諸島にはリュウキュウイノシシが生息している。同一種は、ヨーロッパ、アフリカ北部、南アジア、スマトラ、中国や台湾などにも分布している。

参考文献

  • 仲谷淳 1996 イノシシ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 118₋121.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

分類学的位置付け

偶蹄目 イノシシ科

参考文献

  • 三浦慎悟 2008 イノシシ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 108₋109.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

人間との関係

イノシシは農作物を荒らす害獣として、また良質の肉をもたらす狩猟獣として、人間の生活に深く関わってきた。各地に何 km も続く石積みの猪垣がみられるが、毎年少しずつのばしていった苦労は並大抵ではない。それほどイノシシの害は大きかったのである。しかし、イノシシはときには重要な栄養源であり、現金収入の少なかった山村では大きな財産でもあった。人間はこのような矛盾した関係を、イノシシと何千年も続けてきた。
イノシシは性格が温和で人間に慣れることから、古くから家畜にされてきた。ブタはイノシシを家畜化したもので、その起源は人類が定着農耕を開始した約9000年前にさかのぼる。ユーラシアの各地で個別に家畜化され、今では多くの品種が見られる。日本でも縄文時代の遺跡から幼獣の骨が多く出土することから、このころには半飼育されていたらしい。しかしながら、仏教が伝わり、肉食が禁忌されたため、家畜としての関りが次第に少なくなる。その後、イノシシは山鯨と称され、一部の人に食べられてきた。
現在、人とイノシシの関係が大きく変わりつつある。最近では、毎年約7万頭も日本で捕られている。多産で繁殖力も強いため絶滅する心配はまずないが、トランシーバーやライフルの使用による狩猟技術の近代化、道路の整備や狩猟ブームを見ると、イノシシを捕りつくしてしまいそうな勢いを感じる。数の上では以前繁栄していそうなイノシシも、狩猟によって個体群の内容は大きく変化している。
イノシシにとって狩猟以上に深刻な問題は、開発による生息地の破壊や分断である。本来の生息地である里山は、近年急速に植林され、また農地や住宅地、レジャー施設へと開発されつつある。林床に下生えのない植林地は、野生動物にとって食物がなく、緑の砂漠でしかない。国東半島など、生息地が分断され、狭められやすい半島部では、既に地域的な絶滅が起こっている。

参考文献

  • 仲谷淳 1996 イノシシ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 118₋121.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

形態

成獣の形質

体は太く長く、四肢は比較的短く、胴との境は極めて不明瞭である。体のサイズは亜種や地域によって異なる。
短い牙、2個の蹄をもつ。指の数は前後共に4本で、吻は著しく長く円筒形、眼と耳介は小さく、耳介の形は三角形をしている。頭頂から肩、背にかけて長毛を生じる。体毛は成獣ではほとんど一様な茶色~黒色の剛毛で覆われるが、幼獣にはバフ色の縦縞がある。

参考文献

  • 今泉吉典 1960 イノシシ, 今泉吉典(著) 原色日本哺乳類図鑑. 保育社. 185.
  • 三浦慎悟 2008 イノシシ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 108₋109.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

生態

生息環境

常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、里山の二次林、低山帯と隣接する水田、農耕地、平野部に広く分布する。

参考文献

  • 三浦慎悟 2008 イノシシ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 108₋109.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

食性

イノシシはやぶ山を歩き回って餌を探し、地表から地中にかけての各種の植物と動物を掘り返して採食する。移動には決まった道をよく使い、なかには人間が作った山道と見間違うほど立派なイノシシ道もある。
雑食性で何でも食べるが、ほとんどは植物食で新葉・樹皮・地下茎や根、クズ、ヤマノイモ、ススキの根茎や各種の葉、果実、堅果、また地上に落ちた果実などを食べる。とりわけドングリが好物で、秋にはシイやカシの林を頻繁に訪れる。動物では昆虫類、ミミズ、タニシ、カエル、ヘビ、サワガニなどを食べるが、動物食の割合は全体の数%に過ぎない。地中にある食物を掘り出すには、独特の突出した鼻が役立つ。嗅覚は鋭く、まだ顔を出していないタケノコも探し当てる。反芻胃は持たない。

参考文献

  • 三浦慎悟 2008 イノシシ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 108₋109.
  • 仲谷淳 1996 イノシシ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 118₋121.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

活動時間帯

本来は昼行性で、人間の影響により二次的に夜行性を示す。人間を警戒する必要のないところでは、イノシシは昼間に活動するという報告が多い。禁猟区の兵庫県六甲山系に住むイノシシは、はっきりとした昼行性を示す。
日が沈み始めると、それまで忙しく活動していたイノシシが、一斉に寝床に活動を始める。寝床は地面を鼻で掘った楕円形のくぼ地で、ふつうその上に落ち葉などが敷かれている。暗くなるころには寝床の準備も終わり、母親は子供と体を接触させて寝る。イノシシが翌日起きだすのは、日が高くなってからである。
一方、猟区で昼間追い回されるイノシシや生息地が狭められて人家近くに現れるイノシシは、夜が餌探しの時間となる。

参考文献

  • 仲谷淳 1996 イノシシ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 118₋121.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

生殖行動

初産齢は1~2歳で、毎年繰り返し繁殖を行う。雄の性的成熟は2歳である。一夫多妻制の社会で、雄は交尾期に雌の群れに入るが、恒常的なハレムはつくらない。雄は交尾期に牙を使って激しい闘いを行う。

参考文献

  • 三浦慎悟 2008 イノシシ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 108₋109.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

出産

出産期は春~秋、通常1年に1回出産するが、春と秋に2回出産することもある。妊娠期間は約120日、多仔出産で、産仔数は環境(栄養条件)によって異なる。

参考文献

  • 三浦慎悟 2008 イノシシ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 108₋109.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

子育て

子どもは生後1~2週間巣にとどまった後、母親の後について歩く。授乳は1時間おきで、母親が横たわると、子どもは自分専用の乳首に吸い付く。離乳期までの子どもにははっきりした縞模様があり、ウリ坊と呼ばれる。離乳までの高い死亡率にも関わらず、母親は授乳・巣づくり以外に積極的な子育てをしない。母親は子どもがそばで衰弱していても無関心である。そればかりか、子どもが見つけた餌を取り上げることさえある。母親にとっては、次の出産に備えて自分の体を整えることが、一生のあいだに多くの子どもを残すためには重要なのだろう。

参考文献

  • 仲谷淳 1996 イノシシ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 118₋121.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

特徴的な行動

群れ生活を営むが、通常、雄と雌は別々に行動する。雌は母親とともに母系的な群れを作るが、雄は1~2歳で母親のもとを離れ、小さな群れを作るか、単独生活を行う。雌の群れサイズは20頭を越えることはない。1日の移動距離は数 kmで、群れと個体の行動圏は広い。1 mを越える跳躍能力があるなど、運動能力に優れている。
イノシシは活動時間の合間によく昼寝をする。また、夏の暑い日にはよく水浴びや湿った粘土質の土で泥浴びをする。泥浴びは体温調節のほか、寄生虫落としや他個体とのにおいによるコミュニケーションなどにも役立つ。

参考文献

  • 三浦慎悟 2008 イノシシ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 108₋109.
  • 仲谷淳 1996 イノシシ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 118₋121.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

その他生態

体が小さいイノシシの子どもは、体重に比べて体の表面積の割合が大きく、体温が奪われやすい。このため、母親は屋根のあるドーム型の巣をつくり、雨、風から子どもを守る。屋根はふつう、イネ科の草本をらせん状に積み上げて作られる。このような屋根付きの巣は、外敵から子どもを隠すのにも役立つ。有蹄類のなかで、イノシシ科の仲間が例外的に巣をつくるのは、子どもの保護とも関連している。

参考文献

  • 仲谷淳 1996 イノシシ, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 118₋121.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

種・分類一覧