- 解説一覧
- コアラ(Phascolarctos cinereus)について
コアラ(Phascolarctos cinereus)
【IUCN】絶滅の危険が増大している種
- 【 学名 】
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Phascolarctos cinereus (Goldfuss, 1817)
目次
基本情報
- 大きさ・重さ
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・体長:65~82 cm
分布域南部のものは大型で、平均体長雄 78 cm、雌 72 cm
・体重:4~15 kg
分布域南部のものは大型で、平均体重雄 11.8 kg、雌 7.9 kg
北部のものは雄 6.5 kg、雌 5.1 kg
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 分布
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オーストラリア大陸の東部に分布する。
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 分類学的位置付け
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コアラ科
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 人間との関係
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コアラはいつも今日ほど人気があり、愛される動物というわけではなかった。初期の白人入植者は、コアラの毛皮をとるために、数百万頭を殺した。1850年から1900年にかけては、この狩猟に加えて森林の伐採と回数と規模が増した山火事のせいで、生息数が激減した。1930年代の初めになると、絶滅はもはや避けがたいと考えられるほどになった。しかし1898年から1927年にかけて、いくつかの州で狩猟禁止令が出されたこと、とくに1944年からの南部個体群に対する強力な管理によって、この減少傾向は逆転した。現在コアラは、いくつかのコロニーでは 10,000 ㎡あたり3頭に達するほどの生息密度を持ち、公適な環境では比較的多く生息している。
参考文献
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
形態
- 成獣の形質
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ずんぐりした体は密生した毛で覆われ、尾は切り株のように短く、手のひらは大きく、指には頑丈な爪が生えている。体毛は灰色から黄褐色、あご、胸、四肢の内側は白色、耳の周囲は長くて白い毛で縁どられる。腰には白斑がぶち状に存在する。首と胸には白っぽい、尻には斑模様の灰茶色の毛をもつ。北部のものは毛が短く、色も淡い。前足の第一指と第二指は残りの3本の指と対向し、このおかげで木に登るときに小枝を握ることができる。また前足の鋭い爪で幹に抱きつき、跳躍するときのように両後足を一緒に上方へ移して大木を登る。地上では動きは鈍いが、同じような跳躍運動方式か、もっとのろい四足歩行で移動する。
雄は雌よりも最高50%重く、顔の幅が広く、耳は比較的小さくて、大きな胸部腺を持っている。雌にはこの胸部腺がないかわりに、後方に開口する育児嚢をもつ。
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
生態
- 生息環境
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標高 600 m以下のユーカリ林に生息する。
参考文献
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 食性
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コアラは多数のユーカリ属とユーカリ属以外の植物を食べるが、ユーカリ属のほんの数種の葉が食物の大部分を構成している。南部では Eucalyptus viminalis と E. ovata が好んで食べられる。これに対して、北部の個体群はもっぱら E. puntata、E. camaldulensis、E. tereticornis を食べる。
オトナのコアラは1日に約 500 gもの葉を食べる。タンパク質含量が少なく、非常に繊維の多いユーカリの葉には、フェノールと揮発油が高濃度に含まれているが、コアラはこの食物を処理するためのいろいろな適応を遂げている。臼歯の数は減少していて、上下のあごの1本の小臼歯と、幅が広くて高い咬頭を備えた4本の大臼歯しかない。この大臼歯で葉を細かくすりつぶして、消化を容易にする。いくつかの有毒成分は、グルクロン酸の働きによって肝臓で解毒され、排出されるらしい。
盲腸では微生物発酵が行われる。盲腸はコアラの体長の最高4倍にもなり、体の大きさとの比率で見れば、哺乳類のなかでは最大である。食物の栄養分が低いため、コアラはエネルギーをその行動によって節約している。のろのろと動き、24時間のうち、最大18時間は眠っている。このせいで、コアラは自分が食べたユーカリの成分で酔っ払っているといった、有名な伝説が生まれてしまった。コアラは夕暮れから採食を始める。そして、採食のために、お気に入りの休息場所である木のまたから樹冠へと移動する。一番暑い気候のとき以外、水分は葉だけからとる。
参考文献
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 天敵
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猛禽類を除き、自然界にコアラの天敵はほとんどいないが、人間による森林の伐採が脅威となっている。
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 活動時間帯
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コアラはもっぱら夜行性で、ほとんど樹上だけで過ごすという生活に極めて特殊化している。
参考文献
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
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- 生殖行動
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雌は2歳で性成熟する。雄は2歳で繁殖能力をもつが、ふつうは4歳になるまで交尾しない。雌を獲得できるくらいの大きさになるまでには、さらに長い期間が必要だからである。
夏の繁殖期(10~2月)には雄同士の間での攻撃が盛んにみられ、そのウシのような吠え声が夜通し聞かれる。一連の荒い吸気と、よく反響するうなるような呼気からなるその吠え声は、自分の存在を知らせ、ほかの雄個体に警告して立ち退きを迫る。1頭の雄の吠え声は、ふつうその地域にいるオトナの雄全ての反応を誘い出す。それとは対照的に、ふつう雌と若い雄が発するただ1つの声は、耳障りな泣き叫ぶような悲鳴で、オトナの雄に煩わされたときに聞かれる。
コアラは一夫多妻制(雄は数頭の雌と交尾する)で、比較的定住的である。オトナは一定の行動圏をもつ、その広さは雄ではふつう 15,000~30,000 ㎡、雌では 5,000~10,000 ㎡である。繁殖雄の行動圏は若い個体や非繁殖雄だけでなく、雌の行動圏とも重複する。オトナの雄は、繁殖期には夜間非常に活発で、行動圏内を絶えず動き回り、ライバルの雄を追い出し、発情した雌たちの全てと交尾する。交尾は短くふつう2分足らずで、樹上で行われる。雄は雌の上に覆いかぶさり、交尾中は歯でくびの後ろをかむ。
参考文献
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 出産
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雌は毎年1頭の幼体を産む。出産の大部分は盛夏(12~1月)に見られる。妊娠期間は35日である。
新生児は体重 0.5 g以下で、育児嚢の中に2つある乳頭の1つに吸い付く。離乳は生後5ヵ月から始まり、幼体は母親が肛門から出す一部消化された葉を食べる。この離乳食は母親の盲腸でつくられるが、これは幼体の消化管にユーカリの葉を消化するのに必要な微生物を接種するためのものと考えられている。幼体が木の葉を食べ始めてからの成長は速い。幼体は生後7ヶ月からは完全に育児嚢を出て、そのあとは母親の背中にしがみついて移動し、生後11ヵ月までに独立する。ただしその後さらに数ヵ月間、母親のそばで生活しつづけることもある。
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- 特徴的な行動
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コアラは木のまたに座り込んで、長時間うとうとと過ごす。
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- その他生態
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コアラは、ユーカリの木に食と住を頼っている。木を移動したり、消化を助けるための砂利を飲み込んだりするために、ときおり木から降りる。
繁殖期を除き、社会的行動はほとんど見られない。隣り合ったどうしは疑いなく相手の存在を認識しているのに、総合作用はほとんどなく、社会的な群れは形成されない。
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
関連情報
- 研究されているテーマ
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好物のユーカリの木が少ない森林へコアラを放すといった、それにかわる方策を現在研究中である。
参考文献
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン
- その他
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コアラは毎晩4時間食事をするが、昼間は休息のためにほとんど動かない。
コアラの個体群は、好物の樹種が生えているところならどこでも、極めて高い生息密度にまで増えることができる。このことは、オーストラリア南東部沖合の、ある小さな島へ移入されたコアラ個体群が辿った運命が実証している。1923年から1933年にかけて、全部で165頭のコアラが、生息密度が過剰になった別の個体群からその島へ移された。しかし1944年に、その島でも数が増えすぎて、食物となる木を枯らし、すでに多数のコアラが餓死していたことが判明したため、1349頭のコアラがよそに移されることになった。
内陸部に住む個体群については、現在はもっと強力な管理がなされている。しかし、天然林の大規模な伐採によって、コアラに適した生息環境の多くはパッチ状に点在する狭い場所だけとなり、島という生息環境の場合と同じような管理上の問題が生じている。これら個体群の将来の管理は、余ったコアラを放せるような適当な森林地域が欠乏しているため、なおさら厄介な問題となっている。
参考文献
- ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 コアラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 65.
- R.マーチン 1986 コアラ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 148₋151.
最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン