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ヤマネ(Glirulus japonicus)の分類 Gliridae
ヤマネ(Glirulus japonicus)の概要 Glirulus

ヤマネ(Glirulus japonicus)

低危険種 (LC or LR/lc)

【IUCN】現時点での絶滅危険度の低い種

【 学名 】
Glirulus japonicus (Schinz, 1845)

基本情報

大きさ・重さ

大きさ:頭胴長 61~84 mm、尾長 40~58 mm、後足長 16~18 mm、耳介は 7~8 mmで毛に隠れる。

体重:活動期の体重は 20 g前後、冬眠前に増える傾向がある。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

分布

本州、四国、九州に分布している。
1属1種で日本固有種である。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

分類学的位置付け

齧歯目 ヤマネ科 ヤマネ属 

参考文献

  • 今泉吉典 1960 ヤマネ, 今泉吉典(著) 原色日本哺乳類図鑑. 保育社. 125₋126.
  • 石井信夫 2008 ヤマネ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 145.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

形態

成獣の形質

ヤマネの外見上の特徴は、背中の黒い線と、リスのようにふさふさした尾である。尾には 20 mmの長い毛を生じる。四肢は短く、足の第1指は極めて短い。体には柔らかい短毛(約 7 mm)と細い長毛(約 17 mm)を混生する。耳介は小さくほとんど毛に埋まるが、耳介の前面には背毛と同色の長い毛総(約 13 mm)がある。体の背面は淡いパフ色またはコルク色、下面は僅かに淡色をしている。毛の基部は灰黒色を帯びる。頭頂から尾根にかけて、背の正中線に黒茶色の1条があるが、その幅には個体差があり、まれにほとんど消失する。周眼部は狭く黒茶色をしている。尾は体と同色であるが金色の光沢を帯びる。乳頭は4対ある。

体形は樹上生活に適し、洞と尾の横断面は下面が平らなカマボコ型をしており、樹木の幹や枝に張り付くようにして動き回り、枝から枝へと横に 1 mぐらいは飛ぶことができる。足は関節が柔軟で、樹木の幹を腹ばうように登り降りし、葉の上も歩ける。夜行性のヤマネは、日の出前にひそみ場所に戻り、夏でも気温に合わせて体温を下げて眠る。このときは、人が触っても動作が緩慢である。睡眠の途中から活動の準備にはいり、体温を約37℃にまで上げる。日が沈むとひそみ場所から出て、森の忍者といわれるほどに敏捷に活動する。
雌雄の識別は繁殖期を除いて見分けが難しいが、肛門と尿道の先端部との間隔が雄では長く、雌の2倍ほどある。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

幼獣の形質

出産直後の子は無毛で、体重は 2 gほどであり、2~3日目に背中の正中線に沿って皮膚が黒くなり、そこから黒い毛が生えてくる。開眼は15日前後で、開眼した子は昆虫などを捕食して活発に動き回る。生後25日ぐらいで 12 gほどになり親離れし、冬眠に入る前には 20 gぐらいに達する。
当歳子の特徴は、体が小さいことと、体色が濃い灰色を帯びていることである。体色は成長するにつれて褐色を増す。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

生態

生息環境

低山帯から亜高山帯の森林に生息、昼間は樹洞などに潜み、日没後から樹上で昆虫などを捕食し、日の出前には戻る。通常の体温は37℃ほど、活動期でも眠るときは気温に合わせて体温を下げる。寒冷期には0℃近くまで下げ、仮死状態で半年近く冬眠する。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

天敵

活動期のヤマネの捕食者はヘビやヨタカなどであるが、冬眠中はテンやネズミ類にも狙われる可能性がある。また、冬眠までに栄養分が十分に蓄えられなかった個体間で共食いが見られる。秋季の遅い出産で産子数が多くなることや、冬眠前や冬眠中に集合することは、採食が困難の状況の中で生きるための共食いと関係があると考えられる。
小鳥は樹洞を繁殖巣に利用する点で、ヤマネの競争者である。ヤマネが小鳥を襲ったと思われる形跡が4~5月に見られるが、昆虫が多くなる時期に小鳥を襲って食べる。
樹上でも活動するヒメネズミとの関係では、巣箱利用調査により、ヤマネの隠れ場所にヒメネズミが潜入する例は極めて少ないことが分かった。ヤマネはヒメネズミより優位にあるらしい。両者のすみ分けについては、個体数が少なく、行動圏の広いヤマネの生活場所には間隙がいくつもあり、そこへ行動圏の狭いヒメネズミが数多く入り込んで、共存していると考えられる。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

活動時間帯

活動期のヤマネは夜行性で、昼間は樹洞などに潜んでいる。ひそみ場所は樹洞のほかに、樹木の幹にできた小さな隙間などで、小鳥用の巣箱もよく利用する。ヤマネはこれらのひそみ場所に、特定の巣材を運び込む習性がある。ヤマネが運び込む巣材は、樹上で採取した樹皮や幹に付着しているコケなどが主で、細く裂いたスイカズラ科の低木やスギ、ヒノキの樹皮やハンノキやカラマツなどの鱗片状の樹皮が少量、雑然と置かれていることが多い。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

生殖行動

性成熟した個体は雌雄が単独で行動する。繁殖期は5月下旬から10月上旬までである。発情期にはキュッキュッと鳴き声をあげて、雄が雌を激しく追いかけまわして交尾する。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

出産

出産は6~10月の年1~2回で、妊娠期間は21日ぐらいである。妊娠した雌は、出産の1週間前ごろより、細く裂いた樹皮やつる草の茎をしっかりとからげた球形の巣をつくる。乳頭は繁殖期に目立ち、胸部2、腹部1、鼠径部1の4対である。腹部の乳頭がなく3対の個体もある。産子数はふつう3~6子である。産子数は7~8月よりも9~10月に多くなる傾向があり、冬眠を目前にした遅い時期の出産では1腹が9子や10子の例もある。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

その他生態

ヤマネは昆虫を主食にしているが、食物を蓄える習性がない。そのため、昆虫がいなくなる冬期間は、環境温度に合わせて体温を0℃近くまで下げて代謝量を減らし、体を球形にして体表面の放熱を少なくして冬眠する。冬眠に入る時期は生息地の環境条件にもよるが、昆虫のいなくなる時期と前後しており、中部地方では9月下旬~11月下旬である。個体差も相当にあり、半年間もの冬眠に耐えられる栄養分を蓄えた、体重の重い個体から先に冬眠に入る傾向がある。冬眠場所の条件は、ある程度低温で温度変化が少なく湿度が高いことや、光、音などの刺激が少なく、捕食者に対しても安全な場所が好ましい。これらの条件を満たす場所としては、生木にあけられた深い樹洞や落ち葉の下の地面のちょっとしたくぼみなどが挙げられる。そのような場所で1~数頭が集合して冬眠する。冬眠期間は冬眠場所の環境にもよるが、中部地方では6ヶ月前後である。飼育下では126日間(13頭)と143日間(40頭)の年があった。冬眠中は1時間に数回の呼吸で代謝量も少なく、半年間の冬眠による体重の減少は2~3割である。冬眠しているヤマネに刺激を与えると呼吸量を増やして体温を上げ、氷点下の中でも活動する。
覚醒の時期は昆虫の活動開始時期と前後していて、4~5月である。前年生まれの個体は早く覚醒して活発に行動し、繁殖活動に参加する。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

関連情報

飼育方法

天然記念物のヤマネは医療機関の許可がないと飼育できないが、珍しさと姿がかわいいことも手伝って、知らずに飼育されることがある。クルミやリンゴ、ヒマワリの種子を与えてもよく食べる。またヤマネは植物食で、サツマイモやダイコンを好んで食べるという報告もある。しかし、飼育中のヤマネに生息地で採取した試料を与えて食物選好テストをしてみると、トンボ、ハナムグリ、チョウ、ガ、クモなどは好むが、カナブンやクワガタなどの外骨格の堅いものは摂食に抵抗があった。アシナガバチの幼虫やサナギは離乳期の子も好んで食べたが、チョウやガの毛虫や青虫は食べなかった。植物質では、サルナシやブドウなどの甘くて水分の多い果実を好んで食べるが、酸味や苦みの強い果実や葉緑体のある芽や葉などは嫌う。マツやクルミの種子を好んで食べるが、種子を包む堅い殻を割ることはできなかった。
ヤマネの食性が主として小型の昆虫類であることを裏付けるように、前歯(切歯)は細くとがっており、木をかじるようなことは少ない。歯式は切歯1、犬歯0、小臼歯1、大臼歯3で、それが左右上下で計20本である。げっ歯類には小腸が長くて盲腸の大きいものが多いが、ヤマネは盲腸がなく小腸から大腸の末端までほとんど同じ太さで境界がはっきりせず、長さも頭胴長の3倍ほどで短い。この形態は昆虫食のコウモリ類に似ている。

参考文献

  • 中島福男 1996 ヤマネ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 88₋91.

最終更新日:2020-05-12 ハリリセンボン

種・分類一覧