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ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の分類 クマ科(Ursidae)
ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の概要 Ursus

ツキノワグマ(Ursus thibetanus)

危急 (VU)

【IUCN】絶滅の危険が増大している種

【 学名 】
Ursus thibetanus G.[Baron] Cuvier, 1823

基本情報

大きさ・重さ

サイズ:頭胴長 110~130 cm、体高 50~60 cm、体重 40~130 kg(雄平均 70 kg、雌平均 60 kg)

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.
  • 今泉吉典 1960 ツキノワグマ, 今泉吉典(著) 原色日本哺乳類図鑑. 保育社. 160₋161.
  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 ツキノワグマ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 238.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

分布

日本では本州(北限は下北半島)、四国に分布し、九州はほぼ絶滅している。同一種はアジアに広く分布する。
ロシアのアムール川の流域からタイ南部、台湾、海南島まで分布し、亜寒帯地域から熱帯にかけての森林に分布する。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.
  • 今泉吉典 1960 ツキノワグマ, 今泉吉典(著) 原色日本哺乳類図鑑. 保育社. 160₋161.
  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 ツキノワグマ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 238.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

生息状況

現在世界中のクマ類が絶滅の危機にさらされている。森林の伐採が進行し、クマの食物を供給する広葉樹の林が急速に減少しているためである。クマは、秋に十分に食べて脂肪分を体に蓄積しておかないと、子どもを産むことができない。森がなくなってしまうことは、繁殖の基盤を奪われることになる。
日本では1940年頃からのおよそ50年間に、奥地まで自然林が切り開かれ、カラマツ、スギ、ヒノキといった針葉樹(人工林)に変えられていった。これには時代的背景のほかに、伐採道具の機械化や林道建設がすすみ、トラックによる木材の搬出がスムースになったことが挙げられる。そのため、ツキノワグマに秋の食物を供給する広葉樹林が大面積で失われた。また、広葉樹林が減少するとともに、夏から秋にかけて山で食物を得られなくなったクマが人里に出没し、クリ、カキ、稲まで食べるような事態が頻繁に発生し、多数のクマが駆除されている。また、植林木の樹皮をはぐ被害(クマはぎ)の防除を目的とした箱わな駆除が、過度な捕獲につながって、クマを絶滅の危機にさらしている。
ツキノワグマはもともと四国や九州南部まで広く生息していたが、西日本の雪の少ない地方では人間の活動も制約を受けにくいため、過度な狩猟や森林伐採により、すでにクマが消滅してしまった地域が多い。分布が連続的にみえる東日本でも、道路交通網の整備や市街化といった環境の改変によって、分布が小さく分断されつつあり、絶滅への危険性を加速させている。一方、中国、台湾、韓国、日本など東洋のいくつかの国では、昔からクマの胆嚢(クマノイ)が漢方医薬として使われてきた。この胆汁の成分(ウルソデオキシコール酸)は現在でもその効能が医学的に評価され、化学的な合成品もつくられている。野生のクマの希少性が高まるにつれてその価値は高まり、高値で取り引きされるようになった。クマノイを求めて世界中の野生のクマが大量に捕獲され、とくに政府による野生動物管理体制が十分でない国では密猟が横行している。日本では今でも、年間1000~2000頭のツキノワグマが狩猟や駆除の対象になっている。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

分類学的位置付け

食肉目 クマ科 ツキノワグマ属

参考文献

  • 今泉吉典 1960 ツキノワグマ, 今泉吉典(著) 原色日本哺乳類図鑑. 保育社. 160₋161.
  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 ツキノワグマ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 238.
  • 米田正明 2008 ツキノワグマ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 78.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

形態

成獣の形質

日本のツキノワグマでは、大陸のものに比べて小型で、体重は平均 70 kg程度、100 kgを超えるものは比較的少ない。かつては大きい個体がたくさんいたといわれるが、若齢時に捕獲される個体が増え、老齢個体が減少したことが小型化の原因である可能性が高い。また、体重は1年のあいだでも変動し、冬眠明けから夏にかけて減少し、8月下旬から冬眠前まではひたすら食べて急速に体重を増やす。その差は数十 kgにも達する。
体色は基本的に黒色で、まれに赤茶けた体毛の個体もいる。外見や習性がアメリカグマに似ており、ふさふさした耳と短い尾をもつ。ヒグマよりはるかに小さく、肩には隆起がなく背より低い。吻は短く、目は吻端と耳介の中間よりはるか前方に位置する。鼻鏡は黒く、前面はほぼ5辺形に近く、鼻孔は小さく中隔部は広い。手の爪は黒色で短く(足の爪の1.5倍)、鋭く曲がる。白いV字の紋は、若い個体ではっきりしているが、成獣では、V字の真ん中が切れたり、点になっていたり、薄くなる個体が多い。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

生態

生息環境

アジア南部、東南部、中国北西部、ロシア極東、日本、森林の丘に生息する。
ツキノワグマは、森林が続く限り、海岸線から標高 3,000 mの日本アルプスの高山帯まで生息している。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.
  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 ツキノワグマ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 238.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

食性

生息する地域の代表的な植生に依存した食性をもっている。
基本的に植物食で、春は芽吹いたさまざまな草本類や、木本ではおもにブナの新芽、タムシバやコブシの花などを食べる。夏のあいだは、草本類のほかに、ササ類のタケノコ、イチゴやサクラなどの液果類を食べる。秋になると、冬眠に備え脂肪を蓄えるため、ブナ科植物(ブナ、ミズナラ、コナラ、クリ)の堅果(ドングリ)や、ミズキ、オニグルミ、ヤマブドウ、サルナシ、マタタビ、アケビなど、秋に結実する果実や種子を大量に食べる。動物質としては、アリ、地バチをはじめとする種々の昆虫類、サワガニ、魚類など幅広く食べ、カモシカ、シカ、ノウサギ、家畜(ウシ、ヒツジ、ウサギ、ニワトリ)を襲うこともある。
採食量全体に占める哺乳類の割合はヒグマより少ない。母子を除き単独で行動するが、餌の多い場所に多くの個体が集中することもある。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.
  • 米田正明 2008 ツキノワグマ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 78.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

活動時間帯

昼夜を問わず活動と休息を繰り返し、行動する時間帯は個体によって違う。人間の生活空間に出没するときは夜間が多い。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

生殖行動

ツキノワグマが性成熟に達するのは、雄では2~3歳、雌では2~4歳である。
交尾期は5月頃から始まり、6~7月にピークを迎える。基本的に単独生活者であるため、この時期の雄はさかんに動き回り、雌との出会いに努める。
年間の行動圏は平均して、雄で 70 ㎢(60~110 ㎢)、雌で 40 ㎢(30~50 ㎢)程度だが、利用する地域が毎年異なる場合もあり、3年間で 180 ㎢を遊動した個体もいる。基本的に雄の行動圏のほうが雌よりも広いが、比較的狭い地域の中で保守的に暮らす個体もいれば、広く大きく動き回る個体もいる。ツキノワグマの行動圏は互いに大きく重複しており、ほかの個体を排斥するようななわばり性はもたない。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

出産

冬眠中に2~3年間隔で1~2頭(平均1.7頭)の仔を出産する。秋のもっとも重要な食物はブナ科の堅果類である。とくにナラ類では、木に登ってたぐり寄せて実を食べた枝が、カラスの巣のような顕著な痕跡となって残り、円座・クマ棚と呼ばれる。このブナ科植物の結実量は年によってかなり変動し、まったく結実しない年もある。したがって、蓄積できる脂肪量も変動する。秋の間に十分に脂肪を蓄積できない年は、妊娠雌は栄養供給が十分にできないため、子どもは死亡してしまう。一般に、ツキノワグマの子どもは雌雄2頭であるといわれているが、実際はドングリの結実状況によって、年ごとの繁殖成功率にはかなりのバラツキがある。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.
  • 米田正明 2008 ツキノワグマ, 前田喜四雄(著) 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明、阿部永(監修) 日本の哺乳類. 改訂2版. 東海大学出版会. 78.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

その他生態

クマ類は冬眠する最大の動物である。平常時の体温は平均で37℃前後であるが、冬眠中の体温は34℃とあまり下がらず、外からの刺激によっていつでも起きることができる。このようなことから、体温が5℃以下にまで下がるシマリスやヤマネなどの冬眠性哺乳類とは区別され、クマ類については穴ごもり・冬ごもりなどと呼ばれてきた。しかし最近では冬眠の生理学的な解明が進み、クマの越冬も冬眠の一形態として捉えられるようになった。
冬眠期間は地域によってあまり差はみられない。西日本の雪が少ない地方では、冬でもうろつくツキノワグマが目撃されることがあり、その地域のクマは冬眠しないといわれることがある。これは雪が少ない地域では、冬でも人間の活動が盛んなため、偶発的に冬眠中のクマを起こしてしまうことがあるためと考えられる。
冬眠に使われる穴は、樹洞、岩穴、土穴、木の根元にできた穴、木の根元の割れ目、倒木の下、崖の縁の土穴、古い炭焼き窯の跡などで、自分で穴を掘ることはしない。頭が通るだけの入り口しかない樹洞に入り込むこともあれば、体が半分隠れるだけの土穴で寝てしまうこともある。穴の内部にはササや樹木の皮・枝などを敷く。1年前に生まれた子どもとともに1つの穴に入ることもあるが、基本的には単独で使う。同じ個体が同じ穴を使うことはまれで、毎年違う穴を使う。また1つの穴がほかの個体によって再利用されることもある。
11月下旬から12月にかけて穴にこもり、翌春4月中旬から5月までのおよそ5~6ヵ月間は何も食べない。そのあいだの体の維持エネルギーは、秋の飽食行動によって蓄えられた体内脂肪である。とくに雌は穴の中で出産し授乳するため、その分のエネルギーも蓄積しておく必要がある。

参考文献

  • 羽澄俊裕 1996 ツキノワグマ, 日高敏隆(監修) 川道武男(編) 日本動物大百科1:哺乳類Ⅰ. 平凡社. 144₋147.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

種・分類一覧