- 解説一覧
- ビーバー科(Castoridae)について

基本情報
- 大きさ・重さ
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体長:80~120 cm
尾長:25~50 cm
肩高:30~60 cm
体重:11~30 kg 雄と雌で差はない。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 分布
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北アメリカ、スカンジナビア、ヨーロッパ西部と東部、中央アジア、中国北西部に分布する。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 亜種・品種
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・アメリカビーバー
学名:Castor canadensis
英名:North American(またはCanadian)beaver
分布:北アメリカのアラスカから東はラブラドル半島、南はフロリダ北部とタマウリパス(メキシコ)まで、ヨーロッパ、アジアに移入されている。
・ヨーロッパビーバー
学名:Castor fiber
英名:European(またはAsiatic)beaver
分布:ユーラシアの北西部および中央部に分布する。フランスから東へバイカル湖、モンゴリアにかけて、独立した個体群で存在する。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 分類学的位置付け
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ビーバー科(Castoridae)
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 人間との関係
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アメリカビーバーは北アメリカ大陸(これがその歴史的な分布範囲であった)のほとんどで見られるが、それは州政府や連邦政府の野生生物機関の努力によって、各地で群れが再建されたからにほかならない。合衆国東部では19世紀終わり頃、ビーバーは絶滅に近い状態にあった。フィンランド、ソ連(カレリア地峡、アムール川流域、カムチャッカ半島)、ポーランドなどに一部移入されている。
ヨーロッパビーバーはかつてユーラシア全域にみられたが、現在ではフランス(ローヌ川)、ドイツ(エルベ川)、スカンジナビア、およびソ連中央部に孤立した個体群が生存するのみである。これらのグループの多くのビーバーは亜種として分類されているが、一部の学者は西ヨーロッパのビーバーを別の種(Castor albicus)とみなしている。その主たる理由は頭骨の違いである。
ヨーロッパビーバーのもっとも古い直接の祖先は、おそらく中期漸新世(約3200万年前)のステネオフィベルであろう。鮮新世の間(200~700万年前)にヨーロッパに登場したビーバー属は北アメリカに入り、そこで地理的に隔離されたためにアメリカビーバーへと進化した。従って、アメリカビーバーはヨーロッパビーバーより若く、より進んだ種だとみなされている。1万年ほど前の更新世の間にこれら2種は、例えば北アメリカのカストロイデスのような、270~320 kgもの体重をもつ巨大なビーバーと共存していた。
ビーバーはその毛皮と肉をとるために捕獲されるので、分布域の大部分では積極的な管理が行われている。1950年代以来のカナダでの毛皮の年間収穫量は20万~60万枚、1970年代の合衆国でのそれは10万~20万枚といったところである。最近のユーラシアでは、北欧で年間1000枚以下、ソ連では1980年に約8500枚の毛皮がとられている。
参考文献
- 小菅正夫 2017 アメリカビーバー, 小菅正夫(監修) 黒輪篤嗣 (翻) 驚くべき世界の野生動物生態図鑑. 日東書院本社. 41.
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
形態
- 成獣の形質
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平たい鱗のある尾、みずかきをもつ後足、大きな門歯、のどと消化管の独特な内部構造など、どれもみな極めて特徴的である。体毛は黄色みをおびた茶色から、ほとんど黒色近くまで、赤みをおびた茶色がもっとも普通である。
ビーバーは齧歯類の中で2番目に体重が重く、ときには 30 kg以上もの体重に達することがある。魚雷形の体とみずかきを備えた大きな後足をもち、半水生の生活によく適応している。ビーバーの鱗のある平べったくて大きな尾は、舵の役目をすると共に推進力をも生み出す。尾を上下に曲げることによって、急激なスピードを出すことができる。水にもぐるときには、鼻と耳をぴったりと閉じ、透明な膜が眼を被う。のどは舌の後部でふさぐことができ、唇は門歯の後ろで閉じることができるので、水中でも窒息せずに丸太をかじり運ぶことができる。
ビーバーは地上では動作が鈍く、ぎこちない。大きなハトのような指をもつ後足と小さな短い前足で、不格好なよちよち歩きをする。鼻を下に向け骨盤を上げたその姿勢は、歩く楔を思わせる。陸上で何かに驚くと水に向かって駆け足で逃げるか、ぴょんぴょん跳んで逃げる。
またビーバーの長いひげは、暗がりでも方向を感じ取ることができる。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
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生態
- 食性
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草食性で、食べるものは季節によって変わる。春と夏には植物の木質でない部分、例えば木の葉、広葉の草、シダ、イネ科の草、藻類などを食べる。秋には木質のものを好み、さまざまな種類の木を食物にするが、とくにポプラ、ヤナギの類を好む。木質部やセルロースの消化は、盲腸の中での細菌による発酵作用と盲腸内容物の再摂取によって高められる。
高度に適応した歯のおかげで、ビーバーは木を切り倒して、食べたり建築の材料にするという驚くべき能力をもつ。現生のあらゆる齧歯類と同様、ビーバーの門歯は大きく、ものを齧ることによってすり減ってもすぐに成長してくる。門歯は頑丈な外層とやわらかい肉層をもち、のみ状のエッジを形成している。エッジは、こすりつけたり、きしらせたりすることによって、常に鋭く保たれる。この門歯を使って、ビーバーは木を切る際に巨大な圧力をかけることができるのである。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
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- 天敵
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オオカミ、コヨーテなど
参考文献
- 小菅正夫 2017 アメリカビーバー, 小菅正夫(監修) 黒輪篤嗣 (翻) 驚くべき世界の野生動物生態図鑑. 日東書院本社. 41.
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- 活動時間帯
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1年の大半、ビーバーは夜間に活動する。日没に起き、日の出と共に小屋(ロッジ)に帰る。この貴族的な毎日の活動サイクルは概日(サーカディアン)リズムと呼ばれる。だが、池が凍り付く北方の冬には、ビーバーは小屋の中か氷の下に留まる。そこでの温度が0℃付近に留まるのに対し、ふつう外気の温度はそれより遥かに低いからである。表面から上で活動するためには、極めて高いエネルギーを生産が必要である。
小屋とそれを囲む水の世界では、明るさは24時間を通じて一定で、しかも薄暗い。そのため、日の出と日没は明瞭ではない。太陽による手がかりがないところでは、音と動きで記録された活動の周期は、地上の1日とは同調していない。概日リズムは壊れ、ビーバーの1日はずっと長くなる。これはビーバーが氷の下で生活する能力をもつということから生じた偶然の結果かもしれないが、この変化の生物学的意味はいまのところまだはっきりと分かっていない。ビーバーの1日は26時間から29時間まで変化し、従って彼らは冬の間、氷の上の世界よりもより少ない日数を体験するのである。この種のサイクルは、自由継続概日リズムと呼ばれている。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
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- 生殖行動
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交尾は冬、水中で行われる。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 出産
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子どもは家族の小屋の中で春の終わりに生まれる。この直前に1歳児は親元を出て、ふつう 20 km以内、ときに 250 kmものところまで離れていく。子どもは完全に毛に被われ、眼が開いた状態で生まれ、小屋の内部を動き回ることができる。2~3時間もすれば泳ぐこともできるようになるが、体が小さいうえに毛が密生しているため浮いてしまい、水中に体を沈めることが難しい。そのため、小屋から水中へ潜って水路へ入ることはできない。
子どもは約6週間乳を飲み、家族の全メンバーが子どもに固形食を積極的に供給する。子どもは急速に成長するが、ダムと小屋の建設が完全にできるようになるまでには、何ヵ月もの練習を必要とする。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 子育て
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母親が子に食物を持ってきて、独立した採食を促すこともある。
参考文献
- Devra G. Kleiman, Katerina V. Thompson, Charlotte Kirk Baer 2014 , Devra G. Kleiman、 Katerina V. Thompson、Charlotte Kirk Baer(編) 村田浩一、楠田哲士(翻) 動物園動物管理学. 文永堂出版. 443.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 特徴的な行動
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北方地域では、ビーバーは冬に備えて、秋の間に木質の茎を食料として集める。これらはビーバーの冬の小屋か、巣穴近くの水中に貯蔵される。水は冷蔵庫として機能し、茎を0℃前後に保ち、栄養価を維持する。
ビーバーはふつう、1つの番の成体とその子ども(1歳またはそれ以上)からなる小さな閉鎖的な家族単位(しばしば、不正確にもコロニーと名付けられる)で生活する。安定した家族は1番の成体とその年生まれの子ども(生後12ヵ月まで)、前年に生まれた1歳児(生後12~24ヵ月)からなり、それ以前の繁殖期に生まれた1頭、あるいはそれ以上の雄あるいは雌の若もの(生後24ヵ月以上)がいることもある。若もの自身はふつう繁殖しない。
ビーバーのコミュケーション方法の1つは匂いづけで、しばしば家族がなわばりとする水域の境界部に匂いをつける。アメリカビーバーは、水中からさらってきた材料を岸に積み上げてつくった小さな塚の上に匂いづけをするのに対して、ヨーロッパビーバーは地面に直接匂いづけをする。匂いは鼠径部の分泌嚢からのカスター(ビーバー香)と、肛門腺からの分泌物によってつくられるもので、鼻を刺激し、かび臭い。ビーバーの家族の全員が匂いづけをするが、とくに成体の雄が最も頻繁に行う。匂いづけは春に最も集中的に行われる。
ビーバーが尾を水に打ち付けるのも、コミュニケーションの1つである。これは子どもよりも成体で頻繁に見られ、ふつう異常な刺激を感知したときにこれを行う。尾を打ち付けるのは家族のほかのメンバーに対する警報であり、これを聞いた者はすぐに水中深く潜って逃げる。この行動には敵を驚かす効果もある。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
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- その他生態
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ビーバーの社会は齧歯類のなかでは特異で、各家族はそれぞれ個別にはっきりとしたなわばりを持つ。
北方地域では、雄と雌は長期に渡って一夫一妻的な関係を保つ。家族生活は驚くほど安定している。それは出生率が低いこと(ヨーロッパビーバーで1年に一産1~5子、アメリカビーバーで8子まで)、高い生存率、両親による高水準の世話、家族の中で最高2年は過ごさないと成体の行動が発達しないこと、などに基づく。家族内には順位構造があり、成体は1歳児より、1歳児はその年生まれの子より、それぞれ優位に立つ。それぞれは自分の地位を、声、姿勢、身振りによって伝え、肉体的な攻撃に至ることはまれである。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
関連情報
- その他
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ビーバーの建築活動は環境を改変し、捕食者からの安全性を増進し、環境の安定性を高め、食物源のより効率的な利用を可能にする。
ビーバーは前足のてのひらを使って、浅い川の底や沼地の通り道から泥や堆積物をかきほぐし、道のわきへと押しやる。掘っては押しやるということを繰り返すことで、運河ができ上がり、それによってビーバーは池と池の間や、食事場との間を水中に留まったままで動き回ることができるようになる。この行動は、水面の位置が下がる夏にもっとも頻繁に見られ、家族の全員が参加する。
ダムは、泥、石、丸太、木の枝を使って川をせき止めて作られる。北方地域では、できた池がビーバーの小屋を捕食者からより安全に守り、より遠くのより大きな食物を利用できるようにする。ダムはまた、家族が氷結面の下を食物の貯蔵場まで泳いでいけるほどに十分深くなければならない。流れる水の音と視覚的な合図が、ダムづくりを始める刺激となる。ビーバーは、小さく敏捷な前足のてのひらを使って、川底から泥、小石、土を掘り取り、それらの材料をダムの場所へと運ぶ。丸太と木の枝は門歯でダムまで引いていく。枝はダムを支え、泥と小さな丸太を固定する。さらにビーバーは、泥と丸太を絶えず付け加えて、ダムをより高く、より長くする。長さ 100 m以上、高さ 3 m以上に達するダムもある。
ダムの建設行動は水位が高い期間、すなわち、おもに春と秋に最も活発である。ただし、材料は年間を通じて付け加えられることがある。成体と1歳児がダムをつくるが、家族の中では雌の方が雄より活発につくり、なかでも雌の成体がもっとも活発である。
参考文献
- R.A.ランシア/H.E.ホジドン 1986 ビーバー, R.A.ランシア、H.E.ホジドン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科5 小型草食獣. 平凡社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン