- 解説一覧
- カワイルカ科(Platanistidae)について

基本情報
- 分布
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東南アジア、南アメリカ
参考文献
- 粕谷俊雄 1986 カワイルカ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 26₋27.
最終更新日:2020-07-03 ハリリセンボン
- 亜種・品種
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・ガンジスカワイルカ
学名:Platanista gangetica
英名:Ganges dolphin(または susu)
分布:インド、ネパール、バングラデッシュ
生息環境:ガンジス~ブラマプトラ~メグナ川水系。
サイズ:体長 210~260 cm、体重 80~90 kg
体色:淡灰褐色、下面は淡色
妊娠期間:10ヵ月
寿命:28年以上
・インダスカワイルカ
学名:Platanista minor
英名:Indus dolphin(または susu)
分布:パキスタン
生息環境:インダス川
サイズその他はガンジスカワイルカとほぼ同じ。
・ヨウスコウカワイルカ
学名:Lipotes vexillifer
英名:whitefin dolphin, peic'hi
分布:中国
生息環境:長江(揚子江)および富春江(下流域)。
サイズ:体長 230~250 cm、体重 135~230 kg
体色:青灰色、下面は白色
妊娠期間:10~12ヵ月
・アマゾンカワイルカ
学名:Inia geoffrensis
英名:Amazon dolphin, boutu
分布:南アメリカ
生息環境:アマゾン及びオリノコ川水系。
サイズ:体長 208~228 cm(オリノコ)、224~247 cm(アマゾン)体重 85~130 kg
体色:暗青灰色、下面はピンク色。オリノコ産は暗色。
妊娠期間:10~12ヵ月
・ラプラタカワイルカ
学名:Pontoporia blainvillei
英名:La Plata dolphin, franciscana
分布:ウバトゥバからバルデス半島までの南アメリカ東岸沿岸水域(ラ・プラタ川を除く)。
サイズ:体長 155~175 cm、体重 32~52 kg
体色:淡黄褐色、下面は淡色
妊娠期間:11ヵ月
寿命:16年以上
参考文献
- 粕谷俊雄 1986 カワイルカ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 26₋27.
最終更新日:2020-07-03 ハリリセンボン
- 人間との関係
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カワイルカ類は、約1000万年前の中新世のクジラ類の特徴を残している、最も原始的なイルカである。
カワイルカ類の生存を脅かす人類の行為の中で、最も危険なのはダムの建設である。インダス川水系では、20世紀初頭に始まった発電と灌漑用のダム建設により、カワイルカの生息水面は10か所に分断され、カワイルカと魚類の移動が妨げられてしまった。冬には川水はほとんど海に流れず、上流の区画の多くは干上がってしまう。これと、薬用のイルカ油を目的とした漁獲によって数が減少し、今では分布はほとんどグッドゥとサッカルの両ダム間に限られている。現在の生息数は約600頭で、あらゆるクジラ類(イルカを含む)のなかで最も危機的な状態にある。
ガンジスカワイルカは今のところ危険な状態にはないが、本種にもダム建設の影響が及んでいる。ヨウスコウカワイルカの生息数は少ないうえに、今でも減りつつあるといわれる。ここでもダムと排水設備工事が進みつつあり、漁業による混獲や損傷もあるといわれる。これに比べれば南アメリカのカワイルカ類は比較的よい状態にあるが、ここでも開発の脅威は迫っている。
カワイルカ類は、人類から受ける圧迫だけでなく、適応能力においても、またおそらく知能においても優れているマイルカ類からも、次第に追いつめられる運命にあると思われる。
参考文献
- 粕谷俊雄 1986 カワイルカ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 26₋27.
最終更新日:2020-07-03 ハリリセンボン
形態
- 成獣の形質
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くちばしは細長く多数の鋭い歯を備えている。7個の頸椎は全部離れているので、くびはよく動く。前頭部の〈メロン〉と呼ばれる膨らみは発達し、背びれは未発達で、胸鰭は幅広く外からでも指の位置が分かる。
歯は円錐形で根の部分が太い。ふつうのクジラ類と同様にガンジスカワイルカ、インダスカワイルカとアマゾンカワイルカの胃は4室に分かれている。第一胃は食道が膨れた餌袋である。ラプラタカワイルカとヨウスコウカワイルカはこれを失っている。
参考文献
- 粕谷俊雄 1986 カワイルカ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 26₋27.
最終更新日:2020-07-03 ハリリセンボン
生態
- 食性
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カワイルカ類の主な食物は魚類とエビ類であり、沿岸性のラプラタカワイルカではそれにイカとタコも加わる。視覚が弱いため食べ物の探知には反響定位を用いる。
つまり彼らは、それぞれの種に特有の周波数のクリック音と呼ばれる、指向性のある超音波のパルスを発する。これが物体に当たって反射波が戻るまでの経過時間から、物体までの距離を知るのである。メロンの後方にある鼻道から分岐した鼻のうと、上顎骨の隆起を被っている空気室が反射鏡となり、音を目的の方向に向ける。くちばしの背面に並んでいる感覚毛も食べ物の探知に役立つ。
ラプラタカワイルカは餌動物が発する音や光も手掛かりにしているといわれる。
参考文献
- 粕谷俊雄 1986 カワイルカ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 26₋27.
最終更新日:2020-07-03 ハリリセンボン
- その他生態
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昼夜の区別しかできないほど視力が弱いのに、直径 1 ㎜の銅線を探知できる。透明度がわずか 数 cmの濁った川水に生活していたため、進化の過程ではほとんど視覚を失い、代わりに極めて鋭敏な反響定位(エコロケーション)の能力を用いて採食している。
眼と視神経の退化はラプラタカワイルカで最も弱く、ヨウスコウカワイルカ、アマゾンカワイルカ、インダスカワイルカ、ガンジスカワイルカの順に進んでいる。最後の2種では水晶体が失われており、物体の像が結ばれることはなく、明暗と光の方向だけが分かると考えられている。
脳も小さく、アマゾンカワイルカの脳重 650 g(体重の1.3%)だけが一般のイルカ類と肩を並べることができるに過ぎない。脳が小さいのは離乳が早く学習期間が短いことや、マイルカ類と違って社会生活を営まず単独生活を送ることと関係があるらしい。
繁殖と成長についてはあまり知られていない。ラプラタカワイルカは2~3年で成熟し、雌は2年に1回出産する。成長は4歳で止まるが、雌は雄より 20 cmくらい大きくなる。
これと対照的にガンジスカワイルカは10年前後で成熟するが、20年以上成長が続く。雌は雄より 40 cmほど大きいが、くちばしが長いだけで体重にはほとんど差がない。両種とも8~9ヵ月以内に離乳して単独生活に入る。
アマゾンカワイルカの成長期間はガンジスカワイルカのそれに近いが、雄は雌より体が大きく重い。
参考文献
- 粕谷俊雄 1986 カワイルカ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 26₋27.
最終更新日:2020-07-03 ハリリセンボン