- 解説一覧
- ハイエナ科(Hyaenidae)について
基本情報
- 大きさ・重さ
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ブチハイエナは体重 80 kgにも達する最も大型の食肉類の1つ。ハイエナ科のうちではアードウルフが最小である。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 分布
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サハラ砂漠とコンゴ盆地を除くアフリカ、トルコからアラビア半島にいたる中東、ソ連西南部とインドに分布する。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
形態
- 成獣の形質
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ハイエナの頭骨は頑丈で、前後に長い。ハイエナ科の全種が34という完全な歯式をもつ(食肉類で歯数がこれより少ないのは、ネコ科の仲間だけである)。
しかし、昆虫食のアードウルフは臼歯が小さく木釘のような形になり、歯と歯の間隔も広がっている。そして成獣では一部が抜け落ち、24本に減っていることが多い。
頭骨ががっしりしている種類ほど、相対的に顎が奥に引っ込んでおり、これによって強力な把握力が発揮できる。
ハイエナの頭骨は、2通りの適応傾向を示している。
ブチハイエナの頭骨は、ほかの大型食肉類が噛んだり消化したりできないほど大きな骨を砕いたり、厚い皮を咬み破ることに極めて特殊化している。骨を砕くために使う小臼歯は相対的に大きくなっており、もっぱら犬歯は薄く咬み切ったり切り裂くのに使われる。
カッショクハイエナやシマハイエナでは、ブチハイエナの小臼歯に対応する歯が小さく、犬歯は切り裂くだけではなく、砕いたり咬み切ったりするのにも使われる。
このような違いは、小型種が死体や獲物だけでなく、昆虫や果実、卵を含めた極めて広範囲の食物に依存していることと関連がある。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
生態
- 生息環境
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主として、乾燥して開けた草原と灌木林に生息する。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 食性
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ハイエナ類は優れた腐肉の漁り屋で、ほかの哺乳類が口を触れずに残してしまうような食物を食べ、消化することができる。
消化系もそれに十分対応している。骨の有機成分は完全に消化され、消化できないもの(角、蹄、骨のかけら、靭帯、毛)はしばしば草と一緒にペリットとして吐き戻される。
ブチハイエナの狩猟能力は、腐肉漁りに劣らず印象的である。たった1頭で、体重 170 kgのヌーの成獣を時速 60 kmの速さで 5 kmも追跡した後に捕捉することができる。ほかの個体がその追跡に加わることもある。
例えば東アフリカのンゴロンゴロ・クレーターの場合、同じ群れ(クラン)に属する50頭以上もの仲間が、最終的に一緒になって獲物を食べることがある。
これに対してシマウマ狩りの場合は、10~15頭が参加し、獲物の食べ方は貪欲極まりない。
38頭からなる一群が、1頭のシマウマを、わずか15分でほとんど食べつくしたという観察がある。
ただし競争が激しくないときは、食べ方もかなりゆっくりである。
ブチハイエナはほぼ何でも食べるが、野生の状態では、体重 20 kg以上の哺乳類が食物の90%以上を占めており、この大半は自分で倒した獲物である。狩りを行う頻度は、どれくらい腐肉を利用できるかにかかっている。
ブチハイエナは常に、ライオンなどほかの食肉類の猟の獲物を奪おうとしている。
群れでの食事は騒々しいことが多いが、本気で闘うことは滅多にない。その代わり、1頭1頭のハイエナは、15 kgもの生肉をあっという間に腹に詰め込んでしまう。よそでゆっくり食べたり、ときには水中に蓄えたりするために、死体の一部を運び去ることもある。
カッショクハイエナとシマハイエナは基本的には腐肉漁り屋なのだが、昆虫や小型の脊椎動物や卵、それに水分補給源となる果実や草なども多く食べる。
単独でいる個体は頭を下げてジグザグに歩き回りながら、頻繁に方向転換をして風の匂いを嗅ぐ。
小型の獲物は追いかけて抑え込もうとするが、狩りはたいてい失敗に終わる。嗅覚以外にも、ほかの捕食者がたてる音やその獲物の悲鳴を聞きつけて、その場に駆け付ける。そしておこぼれに預かろうと辛抱強く待つか、所有者を追っ払ったりする。
カッショクハイエナやシマハイエナは、大量の食物を見つけると、その一部をまず藪の中や丈の高い草の中、穴の底といった場所へ運び、一時的に隠すことが多い。
カラハリ砂漠で観察された1頭のカッショクハイエナは、1つのダチョウの巣から26個の卵全部を一晩で運び出し、後日、隠した卵を食べに戻ってきた。
シマハイエナとカッショクハイエナは、広い範囲にわたって少しずつ散在する食物を探さなければならないため、ブチハイエナ以上に多くの時間を採食に費やす。
アードウルフは、主食としてシロアリを食べ、活動時間もシロアリのそれとほぼ一致している。
シロアリの体は色素に乏しく、直射日光に耐えることができないため、活動は夕刻から夜間に限られる。
シロアリは密集した隊列を組んで採食に出るため、アードウルフは一度にたくさんのシロアリを舐めとることができる。長い舌を素早く動かすことで、シロアリを舐めとる。粘度の高い唾液が舌を覆っているため、その際食物と一緒に多量の土も飲み込まれる。
東アフリカの雨季やアフリカ南部の真冬の寒さといった、季節的な出来事がシロアリの採食行動を制限することがある。そのような場合アードウルフは、より大型のシロアリ(Hodotermes mossamibicus)を食べることが多い。
このシロアリは色素が強く、日中でも場所によっては大きな群れが見つかるのである。しかしこのシロアリは活動時期が冬季であるため、年間を通じての食物源としてはそれほど好ましくない。
アードウルフはシロアリとアリ以外の昆虫や、ごくまれに小哺乳類や鳥の雛、それに腐肉などを食べることもあるが、それらが食物中に占める割合はごくわずかである。
アードウルフは単独生活者であり、これは主食とするシロアリが広い地域にぽつぽつと、密な集団を作って採食する種類だからである。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
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- 出産
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ブチハイエナでは1回に多くて3頭、通常2頭の子を産む。子どもはかなり発達した状態で生まれ、全身茶色である。
ハイエナ属2種は、両種とも一般に1回に2~4頭の子を産む。生まれたばかりの子は成獣とよく似た色で、眼は見えない。
アードウルフは春もしくは夏に2~4頭の子を産む。生まれたばかりの子の眼は開いているが、無力なため6~8週間は巣穴にこもりっきりである。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- 子育て
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子育てのしかたは、種類ごとに違いを見せる。
ブチハイエナでは子育てはもっぱら母親の責任である。しかし同じ群れの雌は、共有する1つの巣穴で子どもを育てる。
巣穴の中は狭いトンネルが掘りめぐらされ、同種の雄も含めた捕食者から幼獣が逃げられるようになっている。
授乳は初めのころ、巣穴の外まで自分の子どもを呼び出して行われる。授乳は最高18ヵ月続く。そのため、巣穴にいる子どもに食物を持ち帰る行動は見られない。
ハイエナ属2種の子育てはそれとは対照的である。
カッショクハイエナの雌は自分の子以外にも授乳する。また両種とも、成獣と亜成獣の雌雄が自分と血縁のある子どもに食物を運ぶ。
しかし、カッショクハイエナの父親が子に食物を運ぶことはしない。別々の拡大家族群が占有する、重複しない縄張り間を渡り歩く放浪雄だけが、交尾を行っているからである。
シマハイエナの配偶システムはわかっておらず、授乳は12ヵ月間続く。
ちなみに、雌のシマハイエナの乳首は6つであるのに対し、カッショクハイエナとブチハイエナは4つである。
アードウルフは子どもが巣穴で生活する間、採食のために雌が巣穴を離れる夜の6時間ほど、雄が巣穴に残ることがある。
およそ3ヵ月で子どもはシロアリを食べ始めるが、その際少なくともどちらかの親が付き添う。しかし生後4ヵ月目までには、ほとんどの時間を一人で採食するようになる。
次の繁殖期が始まるころには、子どもは親の縄張り外まで遠出することが多くなり、次の子どもが巣穴を離れて採食するころには、亜成獣の大半はその地を離れている。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
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- 特徴的な行動
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ハイエナはしばしば単独生活者というレッテルを貼られるため、かれらの社会構造が哺乳類の中でもっとも複雑なものであるという事実が覆い隠されてしまっている。
ブチハイエナは入念な出会いの儀式を行い、匂いと音による効果的な長距離コミュニケーションを行う。
カッショクハイエナは大きな声こそ出さないが、出会いの儀式と匂いの利用のしかたは複雑である。
ハイエナ類に共通するもっとも顕著な特徴の1つは肛門嚢である。この特徴ある器官は、直腸と尾部付根との間にあり、外に出したりひっこめたりすることができる。
特にカッショクハイエナのものは大きく、肛門内壁の別々の腺から2種類のペースト状の液を分泌する。匂いづけは縄張り内で行われるが、塗り付ける頻度はなわばりの境界付近では約2倍になる。
ブチハイエナは、一番肛門嚢が発達しておらず、縄張りの境界にある糞場での集団匂いづけのときには、攻撃性があらわとなる。その際、分泌物を塗布するだけでなく、脱糞をして指間腺のある前足で激しく土かきをする。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
最終更新日:2020-05-15 ハリリセンボン
- その他生態
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ブチハイエナの生活は、単独あるいは共同しての狩りと、成獣間での食物の分配の上に成立しているようである。共同は、集団での匂いづけ行動や縄張り防衛にまで及ぶ。
この場合、血縁のあるなしに関係なく、雌雄が同じ役割を果たす。しかし、群れ内の競争は激烈になることがある。
その際、コミュニケーション・システムが、攻撃性を減少させたり、群れとしての活動を調整するための適応として機能する。
カッショクハイエナやシマハイエナでも、大きな獲物を分配しあうことは知られているが、群れのメンバーが一緒に食べるようなことはほとんどない。そうすることによって、食物を巡る直接的な競争が避けられている。
間接的な競走は、縄張りに定住する個体はたいてい血縁関係にあるという事実でやわらげられている。
アードウルフは単独採食者であり、厳格な縄張り制を備えている。
ほかの個体が縄張り内に侵入すると、400 mは追跡する。その際、侵入者に追いつくと激しい闘いが起こる。
戦いの大半は交尾期に集中しているが、それでも週1~2回の頻度である。
戦いには、たてがみと尾の毛を完全に逆立てて、かすれ気味のほえ声や妙なうなり声を伴う。
食物が乏しくなると縄張り性はゆるやかになり、最高3つの縄張りから来た数頭が、同じ場所で同じ食物を、何のいざこざもなく採食することまである。
しかし、家族どうしでさえ個体間の結びつきは無愛想なもので、ハイエナ亜科にみられるような手の込んだ挨拶行動は見られない。
参考文献
- P. R. K. リチャードソン@S. K. ビアーダー 1986 ハイエナ科, F.バネル(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科1 食肉類. 平凡社. pp. 170-175.
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