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- トキ(Nipponia nippon)について
トキ(Nipponia nippon)
【IUCN】近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
【環境省】飼育・栽培下、あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種
- 【 学名 】
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Nipponia nippon (Temminck, 1835)
目次
基本情報
- 大きさ・重さ
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・全長:雄 772.1±33.4 mm(N=8) 雌 731.0±27.2 mm(N=10)
・翼開長:雄 1234.2±112.0 mm(N=6) 雌 1235.0±17.3 mm (N=4)
・体重:雄 1775.9±120.1 g (N=49) 雌 1545.3±107.2 g (N=30)
・翼長:雄 411.5±21.2 mm (N=8) 雌 392.0±18.0 mm (N=10)
・尾長:雄 172.4±8.3 mm (N=8) 雌 173.4±9.0 mm (N=11)
・全嘴峰長:雄 181.0±7.1 mm (N=7) 雌 163.7±6.2 mm (N=11)
・ふしょ長:雄 89.2±6.1 mm(N=6) 雌 86.3±4.9 mm(N=6)
・卵:長径 68 mm×短径 45 mm
参考文献
- 清棲幸保 1955 トキ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 498-500.
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ
- 分布
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北東アジア特産種。かつては、日本、台湾、中国、朝鮮半島、ロシア沿海州(ウスリー地方)の広い地域に分布していた。
野生個体の繁殖地は中国(陜西省、洋県中心)のみで、現在では佐渡にも野生復帰個体群が分布している。
参考文献
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ
- 生息状況
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江戸時代の各藩産物帳から18世紀頃、トキは、日本海側の島根県より東の地域、太平洋側では、関東より北の地域に分布していたと考えられている。
また,九州地方では冬期に現れる冬鳥であったと考えられている。
西日本の各地で藩主がトキを領内に放した記録があり、江戸末期には日本全国に分布していたと考えられるが、本来、トキは東日本で繁殖し、冬期に越冬のため中距離の渡りを行って西日本にも分布していたと考えられる。
1940年代には隠岐、能登半島、佐渡に100羽程度残っていたトキも、1960年代には能登と佐渡に生息する10羽程度までに減少し、1979年には佐渡に5羽が生息するのみになった。
飼育下繁殖で増殖させるために、1981年に佐渡に残っていた5羽を捕獲して、野生絶滅状態となった。
トキの絶滅の原因は、明治期の狩猟により個体数が激減し、戦争中の里山の伐採による営巣地の消失、戦後の開発や農薬などによって絶滅に至ったと考えられている。
参考文献
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ
- 保全の取り組み
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日本産トキの子孫は2003年にキンが死亡し絶えた。
1998年に中国から贈呈された2羽のトキの子孫と、その後に貸与された3羽のトキの飼育下増殖は順調に進み、環境省は平成17年に佐渡島小佐渡東部地域でトキの野生復帰を進めることを決定した。
中国産トキと日本産トキの mtDNA の全領域(16,793塩基対)のうち異なっていたのはたった11塩基(0.06%)に過ぎず、個体間変異の程度であった(山本 2009)。
日本のトキの飼育個体群が100羽を越えた2008年に10羽を、2009年に19羽を佐渡に放鳥し た。
放鳥個体のうちメスだけが佐渡から本州に分散し、放鳥後半年間のトキの生存率は、1次放鳥が80%、2次放鳥が78.9%であった(永田 2010)。
2010年11月にも13羽のトキが放鳥された。環境省は2015年までに小佐渡東部に60羽のトキを定着させることを目標としている。
参考文献
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ
- 分類学的位置付け
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コウノトリ目 トキ科
参考文献
- 吉井正 2005 トキ, 吉井正(監修) 三省堂編修所 (編) 三省堂世界鳥名事典. 三省堂. 344.
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ
- 人間との関係
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・1952年に特別天然記念物に指定。国際保護鳥。新潟県の県鳥。
参考文献
- 吉井正 2005 トキ, 吉井正(監修) 三省堂編修所 (編) 三省堂世界鳥名事典. 三省堂. 344.
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形態
- 成鳥の形質
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雌雄同色。非繁殖期 (9月~1月)には全身、淡いピンクの白色である。
風切羽の羽軸は濃いオレンジがかった朱色で羽の縁に向かって色が薄くなっているため、飛翔時に下からみると翼の淡い朱色(鴇色)が鮮やかである。
繁殖期には頸から背中にかけて黒灰色の繁殖羽に変化する。
繁殖羽への羽色変化は換羽ではなく、頭頚部の皮膚から剥離される黒色の脂質を水浴後の羽毛にこすりつけることにより着色し、首から背中にかけて雌雄とも濃い黒灰色になる。
脂質は水溶性ではないが、水でエマルジョン化(乳化)して薄く羽毛に塗布される(内田 1970)。
水浴び直後は、黒いが乾くと灰色になり、1~4月にかけて水浴びをするたびに色が濃くなっていく。
繁殖期が終わると擦り付け行動をしなくなり、背中の灰色は薄くなっていく。
換羽期には換羽が終わった羽は白くなるので斑上になっていき、換羽が終わる9月には鴇色が戻ってくる。
繁殖期に灰色になるのは2歳以上の個体で、1年目の若鳥は繁殖期も白いままである。
参考文献
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- 幼鳥の形質
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後頭、後頸の羽毛は成鳥より短く、初列風切の先端は灰褐色である。ほかは成鳥と同様である。
参考文献
- 清棲幸保 1955 トキ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 498-500.
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- 卵の形質
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卵は淡緑青色の地に汚褐色の微細な斑点が密生し、所々に暗褐色の雲形の斑が不規則に散在する。
参考文献
- 清棲幸保 1955 トキ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 498-500.
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生態
- 生息環境
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繁殖期には、水田と二次林が混在する谷戸地形を好んで生息する。
林縁や山中の高木に営巣し、水田や畦、水田の近くの草地で採餌をする。
佐渡で放鳥され本州に渡ったトキは近くに森林のない水田地帯で採餌をしている。
かつて佐渡では、山間部の棚田や谷間の渓流でも採餌を行っていたといわれる。
中国の洋県でも、再発見当時は山間部の谷戸地形の景観の水田で採餌をしていたが、個体数が増加するにつれて低地でも繁殖するようになり、人家周辺の高い庭木に営巣することもある。
参考文献
- 中村登流 1995 トキ, 中村雅彦、中村登流(著) 原色日本野鳥生態図鑑:水鳥編. 保育社. 199.
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- 食性
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トキは視覚型採餌を行うサギ類と異なり、嘴を泥の中に軽く差し込みながら歩きまわり、嘴の先で餌を感知すると、嘴を深く差し込んで餌をひっぱりだして飲込むという、接触型採餌方法を用いる。
佐藤(1983)は、糞の残滓調査より野生絶滅前の餌としてサワガニ、カエル、ヨモギハムシなどの鞘翅目、ミズアブ、アブ、ガガンボなどの双翅目昆虫を報告している。
直接観察により、放鳥トキの餌種は、ドジョウ、タモロコなどの魚類、アマガエル、モリアオガエル、ツチガエル、ヤマアカガエル、ウシガエル、イモリなどの両生類、トンボ成虫、ヤゴ(幼虫)などのトンボ目、鞘翅目、バッタ、ケラなどの直翅目、およびミズアブの幼虫などの双翅目の昆虫類、サワガニ、アメリカザリガニなどの甲殻類、ミミズなどの環形動物であった。
ほかにもタニシ、サワガニなどを食するという記録がある。
ドジョウの占める割合は11~16%に過ぎず、水田が利用できない夏期にはミミズが36%となり、冬期にも 24%を占めていて、ミミズが重要な餌であった(永田 2010)。
参考文献
- 山階芳麿 1980 トキ, 山階芳麿(著) 日本の鳥類と其生態Ⅱ. 出版科学総合研究所. 905-911.
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- ライフサイクル
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3月~4月にかけて営巣を開始し、3月下旬~4月下旬にかけて産卵する。
マツ、コナラ、ニレなどの樹上の水平に張り出した枝又に皿状の巣をかける。
外装部分の巣材は主にオスが運んでくるが、産座となる枯れ草や枯れ葉のついた枝などの内装はメスが運んでくる。
一腹卵数は2~5卵で中央値は3卵である。産卵後も巣材を運んできて抱卵しながら巣を完成させていく。
1日おきに産卵し、初卵から抱卵を開始し27日前後でふ化する。雌雄交代で抱卵し、夜間は主にメスが担当する。非同時孵化である。
育雛は雌雄とも行い、消化中の小動物を吐きもどしてヒナに与える。
孵化後45日前後で巣立ちし、巣立ち後しばらくは親が給餌する。
孵化5ヵ月後の秋には、若鳥は成鳥と同じサイズまで成長する(近辻・永田 2009)。
繁殖期に、非繁殖個体は集団で塒をとるが、日中は1~数羽の小さい群れで採餌を行い、繁殖が失敗した個体も群れに合流する。
越冬期の12~2月には大きな群れで行動するが、群れから離れ単独で行動する個体もいる。
中国では、8月下旬~9月にかけて大きな群れを形成して、平地に降りてきてダムや河原で採餌をするようになり、越冬期には平地から営巣地のある低山地帯へ移動する(丁長青 2007)。
参考文献
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ
- 鳴き声
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グァーとカラスの啼声に多少似た声で啼く。
参考文献
- 清棲幸保 1955 トキ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 498-500.
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- 特徴的な行動
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非繁殖期には小群ですごし、樹上に塒集合をしていた(佐藤, 1978)。
しかし19世紀には50羽ぐらいの群れであったという(Matheu & Hoyo, 1992)。
繁殖期には番で分散するが、かつて個体群がもっと大きい時代には小規模のコロニーで繁殖していた(Matheu & Hoyo, 1992)。
早春に、番か小グループで求愛行動が見られる(Li, 1991)。
求愛行動らしい記載は、雄が雌にカック、カック、カックと鳴きながら向かい、雄も雌も頭を下げて、くちばしをからめてもち上げるもので、9月に塒で行われた(村本, 1972)。
また、雄から雌への枝の受け渡しや、相互羽づくろいが見られる(山階・中西, 1983)。
7月に雄が雌の前で枝を拾い、雌に迫る行動が記録されている(村本, 1972)。
繁殖期には、雄も雌も頭部より分泌される黒い分泌物を上半身にぬりつける習性がある(内田, 1983)。
参考文献
- 中村登流 1995 トキ, 中村雅彦、中村登流(著) 原色日本野鳥生態図鑑:水鳥編. 保育社. 199.
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ
- その他生態
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繁殖期には単独または雄雌で生活するが、そのほかの時季には2~10羽位の小群のことが多い。
水田や沼沢に降りて餌を漁り、鷺類と同様に両脚を交互にして静かに歩む。
地上に降りていることが多いが、ときには樹上にとまることもある。
鷺類よりやや翼を迅く羽搏いて直線的に飛翔し、ときには褐色も行いまた高空を旋回しつつ帆翔することもある。
飛翔時には頭部を前方に真直ぐに延ばし、脚を尾端から長く出す。
参考文献
- 清棲幸保 1955 トキ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 498-500.
最終更新日:2020-06-08 キノボリトカゲ