- 解説一覧
- オシドリ(Aix galericulata)について
オシドリ(Aix galericulata)
【IUCN】現時点での絶滅危険度の低い種
【環境省】評価するだけの情報が不足している種
- 【 学名 】
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Aix galericulata (Linnaeus, 1758)
目次
基本情報
- 大きさ・重さ
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・全長:450 mm
・翼長:214~250 mm
・尾長:90~118 mm
・ふ蹠長:33~41 mm
・嘴峰長:27~32 mm
・体重:443~550 g
参考文献
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 分布
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旧北区。ユーラシア大陸東部のウスリーと中国北部に繁殖分布し、冬は中国南部に渡って過ごす。
イギリスで繁殖するものは、20世紀に飼育していたものが逃げ出して野生化したものである。
日本では北海道、本州、九州、沖縄で繁殖し、四国での繁殖は認められていない。
冬は本州以南ですごし、四国にも現れる。比較的よく見かけられるカモである。希少種に指定されている。
参考文献
- 中村登流 1995 オシドリ, 中村雅彦、中村登流(著) 原色日本野鳥生態図鑑:水鳥編. 保育社. 15.
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 生息状況
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日本では平地から山地にかけて生息し、とくに広葉樹が覆い被さるような薄暗い水辺を好む。したがって山地の林に囲まれた湖沼や渓谷に多く見られる。
しかし平地でもあまり人の入らない林に面した湖沼などにも生息することがある。
冬季にはダム湖や入り江などに群れたり、東京都内の公園の池にも小群が観察される。
参考文献
- 細谷賢明 1996 オシドリ, 日高敏隆(監修) 樋口広芳、森岡弘之、山岸哲(編) 日本動物大百科 3:鳥類Ⅰ. 平凡社. 68~69.
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- 保全の取り組み
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オシドリはかつて狩猟対象であったが、1925年10月13日に狩猟鳥から除かれた。
狩猟対象からはずれたことで、捕獲される心配はなくなったが、生息に適した場所の減少により、生息に対する脅威はなくなっていない。
このような中で、鳥獣保護区の設定など法的規制によって、オシドリの保護にある程度の効果が得られている。
例えば、鳥取県で調査された約600か所のうち、オシドリの生息数が多かった上位36か所の72%が鳥獣保護 区または銃猟禁止区域であった (日本野鳥の会鳥取県支部 1997)。
しかし,森林伐採、農地造成などによる営巣環境や採餌環境の減少、溜池の減少による越冬地の縮小など、生息環境の悪化が進んでおり、レッドデータブックにおいてきちんとしたオシドリの位置づけをし、保護対策必要性の科学的な根拠としなければならない。
レッドデータブックは国(環境省)のほか,都道府県でもまとめられている。
オシドリのランクは自治体により異なるが、都道府県の7割近くでなんらかのランクに挙げられており、4割近くでは準絶滅危惧またはそれに準ずるランクに位置づけられている。
これらの評価はこの種に対する保護対策の必要性の根拠となろう。
ただ、国のレッドデータブックでオシドリは「情報不足」である。
冬のガンカモ調査結果では、日本におけるオシドリの生息数は2万羽前後である。
しかし、繁殖期における生息数に関する資料はまったくない。
国のレッドデータブックに掲載される鳥類の種・亜種の 評価は、原則として繁殖個体群の大きさを基準としているため、オシドリのランクは依然として情報不足のままである。
この種のレッドデータブックにおけるランクを決めるためには、繁殖期の生息数を明らかにする必要がある。
オシドリの保護対策を進める上で、人工増殖・放鳥の問題がある。
野生動物の生息数を増加・維持する方法のひとつとして、飼育下で繁殖させ野外に放すことがある。
一部の動物展示・飼育施設では、かつての生息地にオシドリを再現するため、飼育下で増殖したオシドリを放鳥している。
しかし、日本で飼育されているオシドリの多くはオランダから輸入されたものといわれている。
もともとアジア産であることは間違いないが、アジアのどの地域のものかは不明である。
地域によって遺伝的に異なる集団が生息している可能性もあるので、人工増殖・放鳥は、遺伝的な問題がないことを確認した上で行うことが望ましい。
参考文献
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- 人間との関係
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一見して番とわかる雌雄2羽が寄りそっているのを見ることが多いところから「鴛鴦夫婦」のたとえが生まれたのであろう。
「鴛鴦の契」などの言葉で古くから親しまれ、橙色の銀杏羽は剣羽または思羽ともいう。
「磯の浦に常喚び来棲む鴛鴦の惜しき吾が身は君がまにまに」(「万葉集」巻20)。
山形県・鳥取県・長崎県の県鳥。
参考文献
- 吉井正 2005 オシドリ, 吉井正(監修) 三省堂編修所 (編) 三省堂世界鳥名事典. 三省堂. 103~104.
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形態
- 成鳥の形質
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【雄 冬羽】
額と頭上の中央は金属光沢のある暗緑色である。
頭上の中央以外は藍紫色で、後頭の羽毛は長くて羽冠をなし、紫色の金属光沢のある赤褐色である。
後頭は暗緑色で、羽毛は長くて羽冠をなしている。
眼先、眼の上、眼の後方は淡黄褐色で、頭側および眼の周囲には白色の細い線があり、後頸の羽冠の部分まで、白色の紐様の長い羽が引き続いて生えている。
耳羽、頸側の羽は長くて栗色で、各羽には白色またはクリーム色の軸線がある。
腮、喉は黄褐色、背、腰はオリーブ褐色で、緑色の金属光沢がある。
肩羽の内側のものは紫藍色の金属光沢があり、外側のものは細長い洋鎌形で白色を呈し、外縁はビロード様光沢のある黒色である。
胸は褐色を帯びた紫色、胸側には黒色と白色の横帯が2条あり、各羽の基部は灰褐色である。
腹、下尾筒は白色、脇は黄褐色で細かい黒褐色の横縞が密在し、脇の後端の各羽は白色で、前端ほど黄褐色となっている。
先端には黒色のやや幅の広い帯がある。上尾筒は暗褐色で、ブロンズ緑色の金属光沢がある。
下雨覆、腋羽は栗色。初列風切は暗褐色で、外弁の前半部には銀白色の外縁があり、内弁の先端には藍色をおびた緑色の鋼鉄様の金属光沢がある。
次列風切は緑色を帯びたオリーブ褐色で、羽端には白色の縁があり、内側のものは藍緑色の鋼鉄様の金属光沢がある。
三列風切は次列風切の内側のものと同様であるが、その最内側の1枚は羽軸が外側に曲線をなして曲がり、内弁は著しく大きい扇状を呈している。
ぞくにこれを想羽といい、外弁は藍色の鋼鉄色で、内弁は栗色、縁の前半部は鋼鉄様藍色で縁の基半部は白色、羽軸は白色を呈している。
大、中、小雨覆、初列雨覆、小翼羽は緑色の金属光沢のあるオリーブ褐色である。
尾は緑色の金属光沢のある褐色である。
嘴色は暗紅色だが、雄の場合は先端が白色を帯びた肉色、雌は紫鼠色。
虹彩は褐色、脚色は赤黄色、趾膜は黒色、尾羽の数は14枚。
【雌】額、頭上、後頭、後頸は暗灰褐色で、後頭と後頸の羽は長くて羽冠をなしている。顔は同色で、眼の周囲は白色で、後頸まで白色の細い線が延びている。上嘴の基縁には白色の線があり、顎の方にのびている。腮は白色、喉、胸、胸側、脇は褐色で、淡赤褐色を帯びた白色の楕円形の斑がある。体の上面はわずかに緑色の金属光沢のある褐色、腹、下尾筒は白色である。翼は大体雄と同様であるが、想羽を欠く。
【雄 夏羽】雌に類似するが、体の上面は金属光沢が強く、胸側の斑は赤錆色勝ちである。
参考文献
- 清棲幸保 1955 オシドリ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 575~577.
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- 幼鳥の形質
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ふ化直後のヒナは全身薄い茶褐色で、腰のあたりに白い斑紋があり、カルガモのヒナによく似ている。
しかし、カルガモはかなり黒っぽい羽が多く、眼の前後に黒い線があるのに対し、オシドリは眼の後ろだけに黒い線がある。
参考文献
- 細谷賢明 1996 オシドリ, 日高敏隆(監修) 樋口広芳、森岡弘之、山岸哲(編) 日本動物大百科 3:鳥類Ⅰ. 平凡社. 68~69.
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 卵の形質
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卵は極めて淡い黄褐色で斑紋を欠く。
参考文献
- 清棲幸保 1955 オシドリ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 575~577.
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
生態
- 生息環境
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繁殖期にはおもに山間部の湖沼(ダム湖を含む)や河川など水域が近くにある森林に生息する。
しかし、札幌市では大学構内、学校の校庭、公園にある大木の樹洞、国道 沿いの街路樹の樹洞で繁殖した例もある(新田ほか 2012、新田・早川 2013)。
非繁殖期には、山間部の開水面のある湖沼や河川のほか、平野部の水域。まれに海岸にも生息する。
周辺を森林で囲まれ、隠れ場所があるような所が好まれる。
ごく少数の個体(おもにオス)だが、北海道のような寒さの厳しい地域で越冬することもある。
参考文献
- 細谷賢明 1996 オシドリ, 日高敏隆(監修) 樋口広芳、森岡弘之、山岸哲(編) 日本動物大百科 3:鳥類Ⅰ. 平凡社. 68~69.
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 食性
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食物はおもに植物質で、イネ、コムギ、ヒエ、エノコログサ、イヌタデ、ミゾソバ、アズキ、ダイズなどの種子、キンミズヒキやツユクサの漿果、クヌギ、アカガシ、マテバシイ、ミズナラなどの堅果などだが、水生の甲虫類、トビゲラ類、アミメカゲロウ類、トンボ類、クモ類、腹足類、小魚などの動物質のものも食べる(清棲 1965)。
また春から初夏にかけてはオタマジャクシやカエルもよく食べる。
ほかのカモ類に混ざり、人の撒くパンのような加工食品を食べる例も観察されている。
食性は季節変化し、6月頃には水田などで水草の若葉、浮き草、草の種子、水生昆虫などをよく食べ、晩秋から春先まではドングリが主食となる(日本野鳥の会鳥取県支 部 1997)。
ヒナはメス親に守られて育つが、餌(えさ)は自分で探し求め、親から与えられることはない。
参考文献
- 細谷賢明 1996 オシドリ, 日高敏隆(監修) 樋口広芳、森岡弘之、山岸哲(編) 日本動物大百科 3:鳥類Ⅰ. 平凡社. 68~69.
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 天敵
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オシドリは抱卵中にテンやカラスにおそわれることがあり、ヒナは巣立ち直後にイタチやヘビにねらわれる。
参考文献
- 細谷賢明 1996 オシドリ, 日高敏隆(監修) 樋口広芳、森岡弘之、山岸哲(編) 日本動物大百科 3:鳥類Ⅰ. 平凡社. 68~69.
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- ライフサイクル
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一夫一妻で、多くの個体は冬の間につがいを形成する。
繁殖地では4月になってもまだつがいにならず群れでいる個体も見られるが、5月にはほぼつがいになる。
5月上・中旬に産卵し、6 月下旬頃までが抱卵期である。
オスは抱卵期前半までは巣の近くにおり、メスが採餌に行くときには付添うが、6月上旬、オスの換羽が始まるころにはつがいが解消する。
ヒナは6月中・下旬に孵化し、メスと幼鳥の家族群で行動し、8月中には家族群は解消する。
この期間、オスはよくオスだけの群れでいる。
その後、冬にかけては雌雄ともに群れとなり、生息地によっては数千羽の群れになることもある。
参考文献
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 鳴き声
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オスはウイブ、ウイブと低い声で、メスはクァッ、クァッと低い声でなき、飛翔中には雌雄ともグァッ、グァッとなく(清棲 1965)。
また威嚇や警戒のときにはブフッブフッ、メスに呼びかけたり追うときにはウイウイ、ミュッミュッなど、状況によりさまざまな声を出す(藤巻 2006)。
参考文献
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 産卵
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メスだけが抱卵し、抱卵期間中は早朝と夕方に採餌のため巣を離れる。
抱卵期間は30日前後。孵化直後のヒナは幼綿羽に被われ、体内にまだ卵黄が残っているため 27g前後だが、孵化後3~4日で 16~18 gとなる。
ヒナは早成性で、孵化後1~2日で巣立つ。
巣立ち時翼長は 30 mm前後で、まだ風切羽は出ておらず、巣穴から落ちるように地上に降りる。
多くの場合、巣の下には落葉が堆積していたり、草地となっている。
裸地のこともあるが、ヒナが着地のときに怪我をすることはない。
参考文献
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ
- 特徴的な行動
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巣は大木の樹洞内につくったり、地上につくったりする。巣場所の選定は雌が行うが、雄は近くで監視する。
樹洞内の場合には巣材はないが、地上の場合には窪みに草や木の葉を敷いて皿形につくる。
雌のみでつくり、産座に自分の胸や腹の綿毛を敷く。
1巣卵数は7~12個、抱卵は雌のみが行う。雛は28~30日ぐらいで孵化し、厚い幼綿羽に覆われ、早成性の離巣性である。
雌の導きにより、雛は樹洞から飛び降り、かなりの距離を歩いて近くの水系に入る。
2 ㎞になる例がある。雛は雌のみが世話をし、40~45日ぐらいで親元を離れる。
参考文献
- 中村登流 1995 オシドリ, 中村雅彦、中村登流(著) 原色日本野鳥生態図鑑:水鳥編. 保育社. 15.
最終更新日:2020-06-26 キノボリトカゲ