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- イヌワシ(Aquila chrysaetos)について
イヌワシ(Aquila chrysaetos)
【IUCN】現時点での絶滅危険度の低い種
- 【 学名 】
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Aquila chrysaetos (Linnaeus, 1758)
基本情報
- 大きさ・重さ
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・成鳥全長:♂78~86 cm ♀85~95 cm
・成鳥翼開長:♂170~190 cm ♀190~210 cm
・体重:3.2~5.5 kg
参考文献
最終更新日:2020-08-06 En
- 分布
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北米、ユーラシア大陸、北アフリカなど北半球に広く生息する。イヌワシは6亜種からなり、日本に生息するのは最もサイズの小さい亜種ニホンイヌワシ A. c. japonica で、北海道、本州、四国、九州の山岳地帯に生息するが、四国と九州は少ない。
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- 人間との関係
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漢字では狗鷲と書き、鷲や天狗の名前のついた山岳地帯の場所はイヌワシの古くからの生息地であることが多い。
イヌワシの顔を正面から見ると大きなくちばしは天狗の鼻を思い浮かばせる。一振りで山を一気にあおることのできる天狗の羽団扇は、イヌワシの尾羽にそっくりである。天狗伝説のいくつかは、日本人とイヌワシの関わり合いの中で生まれてきたものかもしれない。
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形態
- 成鳥の形質
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雄雌同色。額、頭上、後頭、後頸は5〜6年の老成鳥では赤錆色を帯びた褐色で、各羽には暗色の軸斑がある。
それ以下の成鳥では額と頭上は褐色、頸は暗褐色で、各羽端は黄味がかった赤錆色である。腮、喉は濃褐色または黒褐色である。
背、肩羽、腰、上尾筒は暗褐色、胸、腹、脇は濃褐色または暗褐色である。下尾筒は褐色または赤錆色である。下雨覆と腋羽は濃褐色。風切羽は黒色で、初列風切の内側のものおよび次列風切、3列風切の内弁の基部近くには白色の斑が多数ある。
大、中、小雨覆、初列雨覆、小翼羽は暗褐色で、小雨覆には黄味がかった赤錆色の細い羽縁がある。尾は老成鳥では黒褐色で、灰褐色または灰鼠色の不規則な幅の広い帯が3条ある。それ以下の成鳥では白色または灰白色で、羽端には黒褐色の幅の広い帯がある。
嘴色は黒色の角の様な色で、基部は淡色、蝋膜は黄色。虹彩は黄褐色、脚色は黄色、爪は黒色。跗蹠の羽は褐色または赤錆色で、脛羽は濃褐色。
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- 幼鳥の形質
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額、頭上、後頭は濃褐色で、各羽の基部は白色、後頭は赤褐色で、各羽の先端は白色である。
背、肩羽、氷趾は黒褐色または濃褐色、上尾筒は白色で各羽の先端は黒褐色である。胸、腹は成鳥と同様であるが、下腹には白色の羽が混じている。下尾筒は白色で、褐色の羽が混じっている。
初列風切の内側のものと次列風切、3列風切の内弁の基部は全部白色である。
大雨覆の基部も白色である。尾の基部(全体の3分の2)は白色で、灰色または暗色の斑があり、その先から羽端までは黒褐色である。ほかは成鳥と同様である。
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- 卵の形質
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卵は青味を帯びた白色の地に赤褐色の濃度が色々で斑紋の大小も色々である。斑紋が密在しているものと、青味を帯びた白色の地にわずかに赤褐色の斑紋があり、やや無斑に近いものと2種がある。
1巣中の1卵には濃い斑紋があり、ほかの1卵は無斑に近いのが常で、その無斑に近いものの方が後で産卵されたものであるらしい。
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生態
- 生息環境
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平原から山地にまで生息し、日本では標高 700 mから 3000 mの高山で見られる。
翼が長いイヌワシは、開けた場所での狩りを好むため、世界的には草原や灌木地帯に生息するが、日本では森林環境(主に落葉広葉樹林)に適応している。
狩場として、雪崩跡地や伐採地、石灰岩質によるカルスト地形など、森の中に小規模に点在する草地を利用して森林性の生物を捕食する。
樹間が広い原生的な大木の林は、上空から獲物を探して林内に飛び込んで獲物を捕らえることができるため、落葉して林床がよく見える冬だけでなく、葉が茂る夏も含め1年中利用する。
一方、スギやヒノキなど単一種の針葉樹人工林は、獲物となる生物が少ない上に、植林が整備されずに鬱閉すると、林床が見えにくくなり狩場として利用できない。
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- 食性
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長い強靭な脚を使って中~大型の鳥や獣を補食する。主要な獲物は、ノウサギ、ヤマドリ、大型のヘビで(SRGE, 1984)、その他にテン、キツネ、アナグマ、カモシカの幼獣など生きた獲物だけでなく死体も食べる。
必要な食物を得るために広大な行動圏(約 100 km²)を必要とする。
イヌワシの狩りについて、飛行しながら獲物を探しているのを観察する機会が多いため、主に飛びながら獲物を探すと考えられているが、滋賀県で行なった調査では、広く見渡すことのできる場所に止まって獲物を探している時間が長かった。
また、1羽が獲物を追い出しもう1羽が飛び出した獲物を捕らえるなど、雌雄が協力して狩りを行なうことも特徴的である。
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- ライフサイクル
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一夫一妻性でペアは非繁殖期も一緒に行動することが多い。
繁殖活動は、晩秋から初冬に始まり、ペアは波状飛行などによるディスプレイ飛行をさかんに行い、巣のある谷で一緒にねぐらをとるようになる。
営巣場所は急峻な崖の岩棚や大木で、行動圏内に1~数個の巣を持つ。
年によって異なる巣を使うペアもいるが、ペアが交代しても同じ巣を使い続ける例も多く知られており、国内では100年以上、国外では300年以上の報告がある。
枝を組んで直径 100~200 cmの大きな巣を作り、巣の中央部の産座には産卵前になると青葉を敷く。
イヌワシは本来毎年繁殖するが、近年では隔年~数年に1回しか繁殖しないペアが増えている。
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- 鳴き声
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ピューイまたはポイヨーと啼き、飛翔中にも鳴くが、鳴くことは稀である。警戒時や繁殖期の交尾や産卵期などにはピィッ、ピィッ、ピィッと激しい声で鳴く。
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- 特徴的な行動
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単独または番で見られ、強いなわばり分散をする。11月ごろより番による飛翔ディスプレイが見られ、急降下と上昇を繰り返す。行動圏の大きさは 21〜118km²、平均 60.8 km²である(日本イヌワシ研究会, 1987)。
イヌワシは、1卵目を産んでから3日くらいの間隔をあけて2卵目を産む。
第1卵を産むとすぐに抱卵を開始するため、2羽のヒナの孵化には3日程度の間隔がある。
先に孵化した第1雛は、後から孵化した第2雛が親鳥から餌をもらうために頭を挙げようとすると嘴でつついて攻撃する。その結果、第2雛は餌を食べられずに衰弱死する場合がある。この行動は、イヌワシ属やハイタカ属など多くの猛禽類で確認されており、「カイニズム cainism 」「兄弟殺し siblicide 」などと呼ばれる。
北米など大陸のイヌワシでは、2羽とも巣立つことが多いのに対して、日本では多くの場合ふ化後10日程度で第2雛が死亡し、2羽が巣立ちした例は少ない。
抱卵・育雛期の食物量がカイニズムの発生や頻度に影響すると考えられている(Watson, 1997)が、食物豊富な地域や飼育下のように、十分な餌量があってもカイニズムは起こる。
この不思議な行動の意味や第2雛の役割などについては諸説があり、まだ解明されていない。
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