- 解説一覧
- トラフグ(Takifugu rubripes)について
トラフグ(Takifugu rubripes)
【IUCN】現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
- 【 学名 】
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Takifugu rubripes (Temminck & Schlegel, 1850)
目次
基本情報
- 大きさ・重さ
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成魚全長:最大約 75 ㎝
参考文献
- 山田梅芳 2000 トラフグ属, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. pp. 191-192.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 分布
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北海道から九州までの各地に分布する。北限は樺太。韓国、中国、台湾、黄海、東シナ海にも分布する。
参考文献
- 2017 日本産フグ類図鑑 - 書籍全体, 松浦啓一(著) 日本産フグ類図鑑. 東海大学出版部. .
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 生息状況
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IUCNでは準絶滅危惧種(NT)に指定されている(2019年度)。
東シナ海、黄海から九州、山陰沿岸および瀬戸内海、豊後水道、遠州灘におけるトラフグの漁獲量は1984年から88年まで 1000~1700 t台を維持していた。しかし、89年 890 t、90年 600 tとしだいに減少し、資源水準の低下を招いている。
参考文献
- 山田梅芳 2000 トラフグ属, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. pp. 191-192.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 保全の取り組み
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トラフグの飼育は昭和の初めから試みられ、太平洋戦争をはさんで山口県や岡山県、広島県などトラフグ産卵場の近くの海域で畜養が行われた。その後、昭和30年代から種苗生産の研究が開始され、昭和60年代には西日本を中心に年間200~800万尾の種苗が生産されるようになった。このうち6~7割が養殖用、残りの3~4割が放流用として用いられている。1992年に生産された種苗は、放流用が157万尾、養殖用が1190万尾であった。
参考文献
- 1997 現代おさかな辞典 - 書籍全体, 真木長彰、寺島裕晃、中村晢美(著) 阿部宗明、本間昭郎(監修) 山本保彦(編) 現代おさかな辞典. 株式会社エヌ・ティー・エス. .
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 別名・方言名
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オヤマフグ(田辺・和歌浦)、モンフグ・モンプグ(高知)、オオフグ(香川県)、マフグ(広島、下関)、ゲンカイフグ(大分県長州・壱岐)、ホンフグ(別府)、ドシラフグ(柳河)、クマサカフグ(新潟県石地)、イガフグ(富山県)
参考文献
- 1985 原色日本海水魚類図鑑2 - 書籍全体, 蒲原稔治、岡村収(著) 原色日本海水魚類図鑑2. 保育社. .
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 別名・方言名
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クマサカ(秋田県男鹿)、クマサカフグ(新潟県石地)、オヤマフグ(和歌山県和歌浦・田辺・白崎)、オオフグ(岡山、香川)、キタマクラ、モンフク(高知)、ホンフグ(山口県下関、大分県別府)、トジラフグ(福岡県柳川)
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
- 人間との関係
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『大和本草』に、冬から春先は美味で多く食され、3月以後のものはやせてまずいとある。また、ふつう魚はまばたきをしたり眼を動かすことはしないが、フグだけは眼を動かすとある。
「フグは食いたし、命は惜しし」とよく引き合いに出されるのがトラフグである。関西ではフグちりのことを「てっちり」、フグ刺しのことを「てっさ」というが、「てつ(鉄)」とは鉄砲を縮めた呼び名で、毒にあたると鉄砲で撃たれたのと同じように一発で死ぬことから名付けられた。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
形態
- 成魚の形質
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背鰭条数16~19、臀鰭条数13~16、胸鰭条数16~18。体はやや長く、頭部から尾柄に向かって細くなる。尾柄部は側扁する。体の背面と腹面は小棘に覆われる。頭部から尾柄までの体の腹側縁に1皮摺が縦走する。
体の背面と側面は黒色で、腹面は白色。胸鰭の後背方(胸鰭後部に覆われる部分)に白く縁取られた大きな黒色紋がある。この黒色紋の後ろに小さな黒色紋や黒色点が不規則に並ぶ。背鰭は黒色。胸鰭の鰭条は暗灰色で、鰭膜は灰色。臀鰭は白色。尾鰭の鰭条は黒色で、鰭膜は淡灰色。
雄よりも雌が少し大きくなることが知られている。
参考文献
- 2017 日本産フグ類図鑑 - 書籍全体, 松浦啓一(著) 日本産フグ類図鑑. 東海大学出版部. .
- 中坊徹次 2018 フグ科, 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z 日本魚類館 ~精緻な写真と詳しい解説~. 小学館. pp. 476-483.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 成魚の形質
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体は楕円形で円いが、やや側扁する。背鰭は1基で16〜19軟条。臀鰭は13〜16軟条。胸鰭は16〜18軟条。尾鰭の後縁は直線状。背部と腹部には小さな棘が密生している。
体色は体側背部が暗黒色で、不定形の黒斑が散在する。腹部は白色。
胸鰭の後上方に円い黒斑があり、その外周は白く縁取られている。背鰭や胸鰭、尾鰭は体側背部と同様の暗色だが、臀鰭は白色。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
- 稚魚・仔魚・幼魚の形質
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ふ化仔魚の大きさは全長 2.7 ㎜前後で、胸鰭の原基が認められる。その後5~6時間で口が開き、6~7日目には卵黄(栄養素)を吸収して全長 3.5 ㎜前後に成長する。このころから腹面に小棘が出現するが、体背面の棘はこれより遅く、全長約 9.5 ㎜で現れる。
トラフグの仔魚は、筋節数が23~24で、肛門直上を除き尾部に黒色素胞がないことで、稚魚は、体側に白色点と胸鰭後部体側の白く縁取られた大黒斑が形成されること、体の背腹両面に小棘があること、背鰭と臀鰭の鰭条数がそれぞれ16および13本以上あることで、他種と区別される。
参考文献
- 山田梅芳 2000 トラフグ属, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. pp. 191-192.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 卵の形質
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沈静粘着卵で砂中に浅く埋もれている。
参考文献
- 中坊徹次 2018 フグ科, 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z 日本魚類館 ~精緻な写真と詳しい解説~. 小学館. pp. 476-483.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 似ている種 (間違えやすい種)
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カラス(フグ)やマフグによく似るが、カラスは体側背部に不定形の黒斑がないこと、生時の臀鰭は暗色であることで区別できる。マフグは胸鰭後上方の黒斑外周が白く縁取られていないことで本種と区別できる。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
生態
- 生息環境
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全長 10 ㎝くらいまでの稚魚は産卵場近くの遠浅、干潟、内湾に生息し、その後しだいに沖合いに移動する。成魚は水深 5~150 mまでみられ、特に水深 10~130 mでよくみられる。
参考文献
- 山田梅芳 2000 トラフグ属, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. pp. 191-192.
- 中坊徹次 2018 フグ科, 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z 日本魚類館 ~精緻な写真と詳しい解説~. 小学館. pp. 476-483.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 生息環境
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沿岸から沖合の砂泥底の底層に生息し、外敵から逃避するときや休息するときは海底の砂泥中に体を潜らせている。
季節的な深浅移動を行っている。春には沿岸域に接岸するが、梅雨明けの水温上昇時に沖合へ移動し、さらに冬は外海で越冬する。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
- 食性
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稚魚はおもに底生性の小型甲殻類を食べる。やや成長するとエビ、カニ、イカ類および魚類などを捕食するようになる。
参考文献
- 山田梅芳 2000 トラフグ属, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. pp. 191-192.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 食性
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仔魚は動物プランクトンを摂食するが、成長するにつれて稚魚は底生の甲殻類を、未成魚は他種の幼魚やイワシ類、イカ類などを食べる。成長にともなって魚食性が強くなる。その後、成魚はエビ・カニ類やイカ類、魚類を捕食する。
摂餌活動は昼間に行われ、夜間は海底の砂に潜って眠っていることが多い。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
- ライフサイクル
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産卵場と季節移動の場所が異なる次のような系群が知られている。
①九州北岸から本州日本海西部沿岸を産卵場所として東シナ海・黄海を往復する群
②九州西岸の五島灘から有明海・八代海を産卵場所として東シナ海・黄海を往復する群
③瀬戸内海中~東部を産卵場所として東シナ海・黄海、紀伊水道、豊後水道・日向灘を往復する群
④伊勢湾口を産卵場所として遠州灘~熊野灘を往復する群
⑤能登半島七尾湾と秋田県男鹿半島を産卵場所として能登半島以北の本州日本海沿岸、東北三陸地方沿岸を往復する群
生まれた仔魚は、成長にともない湾奥から湾口、湾外へと生育場を変えながら2歳くらいまで沿岸域にとどまり、その後、外洋へ移動し成魚となるものと推測される。
トラフグは満1歳で全長 28 ㎝、2歳で 40 ㎝、3歳で 47 ㎝、4歳で 52 ㎝、5歳で 56 ㎝、6歳で 58 ㎝となる。成長はその後いちじるしく鈍くなり年に約 1 ㎝ずつしか伸びない。
雄は2歳、雌は3歳に達すると成熟しはじめ、3~6月に海峡や島嶼の多い海域で流れの激しい水深 10~30 mくらいのやや粗い砂礫底で産卵する。卵は砂泥、石、岩などに産みつけられる。受精からふ化までの時間は、水温 16℃前後で約235時間を要する。
参考文献
- 中坊徹次 2018 フグ科, 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z 日本魚類館 ~精緻な写真と詳しい解説~. 小学館. pp. 476-483.
- 山田梅芳 2000 トラフグ属, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. pp. 191-192.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- ライフサイクル
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産卵期は春から初夏で、九州西岸では4〜5月、千葉県沿岸で5〜7月。
孵化直後の仔魚は全長 2.6〜2.9 ㎜で、腹部に球形の卵黄をもつ。孵化後1日経った仔魚は 3.0 ㎜前後で、頭部が発達して大きい。この頃の仔魚は強い走光性を示し、尾部と膜状に形成された胸鰭を細かく動かして遊泳する。
孵化後6〜7日で 3.5 ㎜前後に成長し。卵黄をほぼ吸収する。孵化後10〜15日で 4.0 ㎜、15〜20日で 4.7 ㎜に達する。
孵化後1ヶ月前後で全長 9.5 ㎜前後 に成長し、各鰭の条数は成魚とほぼ同数になる。
全長 20 ㎜前後から胸鰭後上方の黒斑が明瞭になる。水温20℃以上で成長がよく、晩夏には 全長 10 ㎝、秋には 15 ㎝、初冬には 20 ㎝に達する。
生後1年で全長 25 ㎝前後、2年で 32 ㎝前後、3年で 42 ㎝前後、4年で 47 ㎝前後、5年で 52 ㎝、6年で 55 ㎝に成長する。
雄は生後3年、雌は2年から成熟し始め、寿命は10年前後と推測される。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
- 産卵
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産卵期は3月から5月。潮の流れの速い、水深 20~50 mの砂底で産卵する。
参考文献
- 2017 日本産フグ類図鑑 - 書籍全体, 松浦啓一(著) 日本産フグ類図鑑. 東海大学出版部. .
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 産卵
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日本近海での産卵場は五島列島や天草周辺、瀬戸内海、若狭湾などで、干潟を伴う大きな浅海域周辺に多い。
産卵は、流速が2〜3ノットと速い湾口部や海峡部で、粒径 1〜4 ㎜の粗い砂が多い水深 20 m前後の砂礫底で行われる。このときの底層の水温は15〜20℃前後である。
産卵群の雄は産卵場の海底付近に留まり、異なった雌個体と何回も産卵行動を繰り返す。雌は1回ですべての卵を産出し、速やかに産卵場から遠ざかってしまう。
産み出された卵は海底の礫や岩上に付着するが、すぐに潮流に押し流され、周辺海底の砂礫中に浅く埋没する。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
関連情報
- 漁獲方法
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トラフグの漁法は延縄、すじ延縄、定置網、小型底曳網、一本釣りなどがあるが、漁獲の大部分は延縄による。
参考文献
- 山田梅芳 2000 トラフグ属, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. pp. 191-192.
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん
- 漁獲方法
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フグ延縄や定置網、引っかけ釣りで漁獲される。フグ延縄はフグ用の延縄漁具で、釣り上げられたフグが両顎の歯で延縄の糸を噛み切ることを防ぐために、胴の太い鉤針にジャンガネというワイヤーを結び付けてある。
また、引っかけ釣りは、ワイヤーに四つ歯の鉤針と餌をかける鉤針をつけたもので、主に産卵群が密集する産卵場で用いられる。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
- 養殖方法
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トラフグの飼育は昭和の初めから試みられ、太平洋戦争をはさんで山口県や岡山県、広島県などトラフグ産卵場の近くの海域で畜養が行われた。その後、昭和30年代から種苗生産の研究が開始され、昭和60年代には西日本を中心に年間200万〜800万尾の種苗が生産されるようになった。このうち6〜7割が養殖用、残りの3〜4割が放流用として用いられている。
養殖は主に小割網生簀で行われ、通常1.5〜2年の養成で出荷される。また、養殖トラフグのほとんどは活魚として出荷される。
参考文献
最終更新日:2020-10-10 En
- 味や食感
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フグ類の中で味が最高とされる。産地により味に優劣があり、瀬戸内海西部のものが最高級とされる。旬は冬。
薄造りのほか、から揚げ、つけ焼き、ちり鍋、白子の鍋などにする。
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
最終更新日:2020-08-21 ひろりこん