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カラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)の分類 Salmonidae
カラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)の概要 Oncorhynchus

カラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)

【 学名 】
Oncorhynchus gorbuscha (Walbaum, 1792)

基本情報

大きさ・重さ

全長:55 cm

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.

最終更新日:2020-08-27 ハリリセンボン

分布

シロザケ同様に分布域が広く、遡上量が多い。

アジア側では北朝鮮北部、富山県以北、岩手県以北。アメリカ側ではカリフォルニア州サクラメント以北に分布する。北極海にも生息しており、カナダのマッケンジー川からロシアのレナ川の間の河川に遡上する。

日本では北海道と東北の一部に限られている。オホーツク海沿岸と根室海峡沿岸の河川に多く、全体の95%以上を占める。

日本海側では北海道北部の河川で、太平洋側では三陸沿岸北部の河川で、毎年わずかながら遡上が認められている。宮城県の大川や茨城県の那珂川で成熟した親魚が捕らえられたことがあるが、これらは南下してきたものが北上の機会を逸して迷い込んだものと思われる。

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

最終更新日:2020-08-27 ハリリセンボン

別名・方言名

英別名:Humpback salmon、Humpy

地方名:マス、アオマス、ラクダマス、セッパリマス(北海道)、ホンマス(北海道東部)、アオマス(北海道南部)、セイゴマス(厚岸、釧路)、サクラマス(岩手県)

参考文献

  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

最終更新日:2020-08-27 ハリリセンボン

分類学的位置付け

サケ目 サケ科 サケ亜科 サケ属

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 中坊徹次 2018 カラフトマス, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. p. 133.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

最終更新日:2020-08-27 ハリリセンボン

人間との関係

沿岸の漁獲時期が夏の7~9月で、保存法が塩蔵か干物に限られた往時には、高い脂肪分が災いして長期保存できないため、気温の低下時に多獲されるサケに比べ、低価格の魚とみられてきた。

遡上後は餌を食べないといわれているサケだが、カラフトマスは河川に遡った後でも、ほかのサケに比べて好奇心や闘争性が強いため、釣りをする場合針にかかりやすい。

カラフトマスもサケと同様に、北海道では長い間人工孵化放流によって資源の培養が図られてきた。
しかし、サケのためにつくられた孵化場で、冬期間も水温の高い地下水によって卵や仔魚が養われるために、冬の12~1月頃にはもう卵黄を吸収して泳ぎ始める。ところが、淡水域で積極的に餌をとる習性を持たないため、孵化場では餌につきにくい。
このため春まで待たずに、氷の張りつめた川に放されるなど、まだ自然界の成育環境の整わないうちに放流されることも多かった。
結果として、早期に産卵する遡上群が失われた。

最近になってこれらの再生のため、カラフトマスの生態に即した河川水も利用できるようなマス専用の孵化場もつくられ始めている。

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

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形態

成魚の形質

サケ科魚類の中では比較的小型のサケである。尾柄が細く、鱗は太平洋サケ6種類の中で最も細かく、側線上に約200枚ある。海洋生活期の個体では尾鰭に楕円状の黒点が散在するため、ほかのサケと区別がつきやすい。

婚姻色は頭部と背部が黒灰色、体側は赤紫の混じった茶色、腹部は白くなる。雄の吻部は著しく伸び、下顎は先端が上向きに曲がり、上顎の先はその上にかぶさるようになる。体が扁平になって背鰭の前部がせり上がって体高が高くなる。それゆえセッパリマス(ハンプバック)とも呼ばれる。婚姻色が出ると散在する黒点は楕円状になるが、黒点がないものもいる。

これに対し雌は成熟に伴う体型の変化がほとんどなく、体色が雄と同様に変わるだけである。

鰓耙数は28本前後である。

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

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稚魚・仔魚・幼魚の形質

稚魚は背部が青緑色で、体側は銀色でほっそりした体形をしている。ほかのサケ属魚類の稚魚に共通してみられるパーマークと呼ばれる小判形の斑紋は全くないのが特徴である。

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

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卵の形質

卵の径はベニザケに次いで小さく、6 mm前後、主さ 130 mg。

参考文献

  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

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生態

ライフサイクル

初秋に砂利の中に産み付けられた卵は、昼夜あるいは季節によって変化する河川水の水温条件のもとで発生が進む。産卵期には10~15℃あった水温も真冬には0℃近くまで低下し、発生がおさえられる。このため、産卵期がサケより早いのに、地下水中で発生が進むサケとほぼ同じ4~5月に稚魚となって砂利層から抜け出る。このときの体長は 35 ㎜前後と、サケより少し小さい。

孵化までの積算水温は460℃、天然では120~140日で孵化する。

浮上した稚魚は餌をほとんど食べないでただちに降海する。降下距離の長い川で稚魚を捕らえてみても、常に半数以上が空胃で、たとえ餌をとっているものでも体重の1%以下に過ぎず、成長をもたらすような活発な摂餌行動を行っているとはいえない。したがって、採集魚の大きさが、場所によってあるいは時期の経過によって変わることはない。
稚魚には河川生活期の長いサケ属魚類の象徴であるパーマークがないことから、河川でのなわばり生活を必要とせず、既に海洋生活に適応した形態であることが伺える。

遊泳生活を始めてから短いものでは一晩、長いものでも数日で河口域に達する。沿岸に着くと、一転して活発に餌を摂り始め、急速に成長してやがて沖合に向かう。このあとその年の秋まではオホーツク海全体を生活の場としているようであるが、その生活実態はよく知られていない。

秋から冬にかけて千島列島の間を抜けて、北太平洋の西部水域に移動し、翌春までここで過ごす。日付変更線の東側まで出ることはなく、サケに比べ回遊範囲ははるかに狭い。6月頃母川に向かい始める。

寿命が一番短く成熟年数は2年である。ゆえに1年ごとに違う群れが繁殖しており、偶数年と奇数年の群れは遺伝的に混合がない。時期や産卵場所、平均サイズが年ごとに異なる。大型が多くて数が少ない年と、数は多いが大型が少ない年があるといわれているが、海洋環境に左右されるため、魚の大きさと数の規則性はないと考えられる。

日本では 3 kgあれば大型といえるが、北米ではさらに大きく 5 kg以上の魚も多い。

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

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産卵

地下水の湧き出るところを産卵場とするサケとは異なり、産卵床は、河川水の浸透する砂利の瀬尻などに多く作られる。
稚魚はすぐ降海するため、川は単に産卵の場所としてしか利用されない。このため、それほど川を選ぶこともなく、また海から近いところに産卵しても何ら不都合はないことから、ごく小さな河川を含めたあらゆる規模の河川の中・下流域が産卵場となる。

産卵の盛期は9月中旬~10月中旬にかけてである。

抱卵数は1200~2000粒。

産卵行動は基本的にサケと同じである。しかし、雌1尾に対して優位の雄が放精する瞬間に、周りにいる10尾以上の雄が一斉に産卵床に突入し、放精することも珍しくない。最も優位な大形の雄は常に雌のわきにいる。それ以外の雄は、産卵まで1時間以上もあるときにはその下流側に、通常は大きさの順に1列に並ぶ。産卵が近づくにつれ、雌のそばで小さくまとまる集団に変化してくる。この間にも雄同士では雌に近い場所を得ようと、間断なく競い合う。雌に対する相対的な位置は、産卵床から離れたところでよく変わる。

雌は巣に近づく同性に対しては攻撃するが、雄へは向かわない。しかし、ときには群れから外れている小形の雄を攻撃することがある。小形の雄は雌のような形態をしているため、間違えられているようでもあるが、産卵行動に小形の雄が参加することを歓迎していないためとも解釈される。

優位の雄が、巣の底に体を沈めている雌の体側を震わせて刺激すると、群がっていた全ての雄は一斉に巣の中に突入する。大形魚の番が放卵・放精を始めると、これらの雄も精子を放出する。卵に近いところに位置した大形の雄ほど受精のチャンスが大きいが、複数の雄の精子も受精に関わっていることが、遺伝学的な研究から明らかにされている。

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

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その他生態

成熟した親魚は、産卵のため夏から秋にかけて川をのぼり始める。ところがこの遡上時期は、北海道では1年ごとに1ヵ月もの違いがあり、西暦偶数年で早く、奇数年で遅い。この差は長い間変わっていない。

カラフトマスは全て2年で成熟して産卵するため、隣り合わせた年の集団が交じり合うことは全くない。ほかのサケ属魚類ではそれぞれ個体ごとの成熟年齢に多様性を持ち、いくつかの発生年級が混合して回帰し産卵する。このようにして母川回帰性の強いサケ属魚類では、回帰魚の少ない年級群を前後の年級群が補い合いながら、その河川に適した系統群を維持してきた。

この点カラフトマスは成熟年齢が単一であるため、何らかの河川環境の変化で卵や稚魚が死に絶えたとき、ほかの種のように母川回帰性が強ければ、その回り年の個体群がその川から永久に消滅する危険性を持つ。

サケ属魚類の母川回帰性はその河川への依存度が高いほど強いが、カラフトマスは川を産卵場所に利用しているのみで、生活時間は短いため母川回帰性はほかのサケほど正確ではない。2年という生活サイクルのため、もし2年間続けて母川での産卵ができなかったとしても、ほかの河川に遡上すれば、その川の遺伝的特性を持った集団絶滅のリスクを回避できるという種の保存を繰り返しているとも考えられる。

全てが2年で成熟するとはいっても、ごく稀に3歳魚で回帰した例が外国で報告されている。また、ときには降海後海洋でひと冬を過ごすことなく、その年の秋に早くも成熟して回帰する体長 30 cmに満たない小型の雄が見られることもある。これらは人工飼育により大形魚を放流する試みが始められていた頃から時々見られるようになった。このことから、人為的な現象とみられる。

これまでのこの種の長い歴史の過程で、遺伝的にも全く交流のなかった隣り合った年級群の中に、これらは入り込む機会を持ってしまうのである。1年ごとの遡上群は、群ごとに産卵時期や産卵場などの生物学的な特性が異なることが知られており、遺伝的な影響が全くないとはいえない。

参考文献

  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

最終更新日:2020-08-27 ハリリセンボン

関連情報

味や食感

食品としてもカラフトマスという名称は馴染みが薄い。

サケに比べ肉質はやわらかめであるが、家庭での調理用にはあまり人気がない。脂肪分が高く、英名でピンクサーモンと呼ばれるように、肉色も美しい。このため、一般にサケ缶といわれるサケの水煮の缶詰の主原料として利用されているが、このこともあまりよく知られていない。

ちなみに未成熟卵はスジコ(筋子)として食用にされる。

参考文献

  • 真山紘 1989 カラフトマス, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 226-231.
  • 2017 サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版 - 書籍全体, 井田斎、奥山文弥(著) サケマス・イワナのわかる本. 改訂新版. 山と渓谷社. .

最終更新日:2020-08-27 ハリリセンボン

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