- 解説一覧
- スズキ(Lateolabrax japonicus)について
スズキ(Lateolabrax japonicus)
【環境省】地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの
- 【 学名 】
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Lateolabrax japonicus (Cuvier, 1828)
目次
基本情報
- 大きさ・重さ
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・成魚体長:標準体長 80 ㎝
・仔魚体長: 3~9 ㎜(浮遊期)
・卵の大きさ: 1.22~1.45 ㎜
参考文献
- 田中裕志 2011 スズキの卵, 河野博 (監修) 加納光樹、横尾俊博(編) 東京湾の魚類. 平凡社. 170-171.
- 池田知司・平井明夫・田端重夫・大西庸介・水戸敏 2014 表1 魚卵および孵化仔魚の外部形態の特徴, 池田知司、平井明夫、田端重夫、大西庸介、水戸敏(著) 魚卵の解説と検索. 東海大学出版会. 10.
- 中坊徹次 2000 スズキ, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. p. 103.
最終更新日:2020-05-01 ひろりこん
- 分布
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仙台湾、東京湾、能登半島東側、若狭湾、島根半島周辺、瀬戸内海、大阪湾・紀伊水道周辺、北九州沿岸、有明海と八代海を含む九州西岸域、朝鮮半島南岸・西岸南部
参考文献
- 波戸岡清峰 2013 スズキ科, 中坊徹次(編) 日本産魚類検索. 東海大学出版会. p. 748.
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- 和名の解説
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和名の由来にはいくつか説がある。
①『本草網目』に「一般に黒色のものを盧という。この魚は白質で黒章がある。それでこう名付ける」とある。
②『東雅』に、スズキは古語で小さいという意味、スズキの名は「口が大きいわりに尾が小さい魚」と見たことに由来するとある。
③『重修本草網目啓蒙』に、「スズキは錫を好み、錫を使って釣るとよい」とし、スズキの名もこれに由来するという。
④『大言海』に「進くの活用の進きの義か」とある。
⑤『日本古語大辞典』に「清饌からの転音だろう」とある。「スズ=清清(スス)」と魚を表す接尾語「キ」との合成語。「魚形の美しさと美味な魚の意」
⑥「すすきたる」の意。「すすぎ洗いしたように白く美しい」という説もある。
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
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- 別名・方言名
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通称は成長につれて変わる出世魚である。体長 20 ㎝前後まではセイゴ、 30~60 ㎝ぐらいのものはフッコ(関東)あるいはハネ(関西)、 60 ㎝以上のものがスズキと呼ばれる。
また、地方名としてはユウド(新潟)、オオタロウ(東京)、マダカ(愛知県知多)、カワスズキ(高知)などがある。これらは、特定の大きさ以上に対する名称が多い。
参考文献
- 中坊徹次 2000 スズキ, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. p. 103.
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- 人間との関係
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先史時代から利用されており、上顎骨などが貝塚から大量に出土する。
『古事記』に「口大の尾翼鱸を釣り取りて天のまなぐいたてまつらむ」とあるが、これは大国主命が恭順した宴にスズキが出されたことを記述したもの。天孫降臨の際、櫛八玉神がスズキを釣って献じたともある。
『万葉集』に「鱸とる海人のともし火よしにだに見る人ゆゑに恋ふるこの頃」とある。
『魚鑑』に「その肉は即玉鱠にして夏月の珍、これに過るものなし」とある。
山陰地方で冬の雷を「鱸落し」と呼ぶ。「鱸落し」が鳴り始める10月頃、宍道湖から海にスズキがにげることから名付けられた。
スズキは出世を象徴する魚ともいわれる。平清盛が安芸守だった頃、船にスズキが飛び込んできて、この吉兆の後、ついに天下を取ったという話が『平家物語』にある。
「魚は時期のものを食べろ」とあるが、東京では「深川の祭りが来たらスズキは終わり」といわれる。
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
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形態
- 成魚の形質
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体側上部が褐色、下部が銀白色。体側上部や背鰭に成魚では小黒色点がないが、幼魚では小黒色点が散在する個体が多い。尾柄は長く細い。吻は長く顔はとがる。下顎腹面の鱗列はあまり発達しない。背鰭軟条数は12~14。
同じ属のヒラスズキは体高や尾柄がより高いことで、またタイリクスズキは体側に鱗よりも大きな黒い斑点がいくつも入ることで区別できる。
参考文献
- 河野博 2011 スズキ, 河野博 (監修) 加納光樹、横尾俊博(編) 東京湾の魚類. 平凡社. 168-169.
- 波戸岡清峰 2013 スズキ科, 中坊徹次(編) 日本産魚類検索. 東海大学出版会. p. 748.
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- 稚魚・仔魚・幼魚の形質
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卵黄吸収直後までの黒色素胞分布はヒラスズキとほぼ同様であるが、尾部背面および体側の黒色素胞は比較的前方で途切れる。その後、体側の黒色素胞は背原側でやや密になり、尾部末端の黒色素胞は減少し、腹面に1点が残る。
体長 11.7 ㎜の屈曲期では、前鰓蓋骨に4本、眼窩上および後側頭骨にそれぞれ2本、小棘がみられる。黒色素胞は吻端、下顎先端、顎隅角部、峡部、消化管腹面、体側、体背部および尾部腹面に見られ、体側正中線では破線状をなす。尾部の色素胞は尾柄の中央付近までで途切れるため、ヒラスズキに比べ尾柄部が白く見える。尾鰭下葉にも1点がみられる。
後屈曲期では、間鰓蓋骨、下鰓蓋骨、上擬鎖骨、更に涙骨にも小棘が出現し、頭部および肩部の各棘は成長とともに数を増す。
13~16 ㎜程で背鰭および腹鰭の鰭条が定数化し、稚魚期に移行する。体側正中線の破線状色素胞は次第に不明瞭になり、尾柄の後半部まで黒色素胞が多数出現し始める。
19.3 ㎜の稚魚では、頭部および肩部の小棘は鈍くなり、体側全体には小さな黒色素胞が多数散在し、尾柄では尾鰭にまで達する。
有明海産では、日本の他地域のスズキに比べ黒色素胞が少なく、淡い。体側の破線状黒色素胞列の長さは様々で、タイリクスズキのように、破線状黒色素胞が全く見られない個体もいる。背鰭基底の黒色素胞の数もさまざまである。頭部および肩部の棘の出現様式、およびその他の発育様式は日本の他地域のスズキとほぼ同様であるが、頭長/体長が小さい。
参考文献
- 指田穣・木下泉 2014 スズキ, 沖山宗雄(編) 日本産稚魚図鑑. 東海大学出版会. 663.
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- 卵の形質
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分離浮性卵。真球形で、油球は1個。卵膜に特殊構造は無い。囲卵腔は狭い。卵黄に亀裂はない。卵期の胚体上の特殊構造は無い。卵径 1.22~1.45 ㎜。油球径 0.31~0.38 ㎜。
参考文献
- 池田知司・平井明夫・田端重夫・大西庸介・水戸敏 2014 表1 魚卵および孵化仔魚の外部形態の特徴, 池田知司、平井明夫、田端重夫、大西庸介、水戸敏(著) 魚卵の解説と検索. 東海大学出版会. 10.
最終更新日:2020-05-01 ひろりこん
- 地理的変異
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有明海のスズキには、スズキ由来のゲノム要素とタイリクスズキ由来のゲノム要素とが様々な割合で組み替えられて混在しているが、現在有明海での両種の交雑は考えにくい。そのため、有明海のスズキは過去の種間交雑に起源し、現在では親種から独立的に存続している個体群であると考えられている。
実際に有明海のスズキ個体群は、個体発生初期に集団的に河川淡水域に遡上するなど、日本海沿岸の普通のスズキとは生態学的にも異なる性質を持つ。
このような交雑起源の個体群は有明海および八代海にのみ分布し、佐賀県玄界灘側の唐津湾には普通のスズキが分布することが明らかとなっている。
また、有明海の中でも、個体発生の初期に河川淡水域を生育場とするものと、海域の砂浜海岸破波帯を生育場とするものとでは、前者のほうがミトコンドリアゲノムにおいても核ゲノムにおいてもタイリクスズキの影響を強く受けており、両者間では遺伝学的特徴に著しい差異が認められている。このことは、それらの間にある程度の生殖的隔離が存在する可能性を示唆している。
参考文献
最終更新日:2020-05-01 ひろりこん
- 似ている種 (間違えやすい種)
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ヒラスズキ、タイリクスズキ
参考文献
- 波戸岡清峰 2013 スズキ科, 中坊徹次(編) 日本産魚類検索. 東海大学出版会. p. 748.
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生態
- 生息環境
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岩礁域~内湾。若魚は汽水域~淡水域にも侵入する。
参考文献
- 波戸岡清峰 2013 スズキ科, 中坊徹次(編) 日本産魚類検索. 東海大学出版会. p. 748.
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- 食性
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仔魚は動物プランクトン、稚魚はハゼ科稚魚や甲殻類などを食べる。
20 ㎝以上の以上の若魚や成魚は主にイカナゴやハゼ、イワシなどの魚類を好み、ほかにテナガエビやスジエビなどの甲殻類を捕食するようになる。
参考文献
- 河野博 2011 スズキ, 河野博 (監修) 加納光樹、横尾俊博(編) 東京湾の魚類. 平凡社. 168-169.
- 1997 現代おさかな辞典 - 書籍全体, 真木長彰、寺島裕晃、中村晢美(著) 阿部宗明、本間昭郎(監修) 山本保彦(編) 現代おさかな辞典. 株式会社エヌ・ティー・エス. .
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- ライフサイクル
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産卵は沖合の深みで行われ、孵化した仔魚は浮遊生活の後に沿岸に向けて接岸回遊を行う。稚魚や未成魚は、春~秋には内湾の沿岸浅瀬で成長し、冬にはやや深い場所に移るという季節的な移動を行う。稚魚あるいは1年目の未成魚は低塩分に強く、河川を遡上することも多い。産卵期になると、再び沖合の深みに戻ってゆく。
参考文献
- 河野博 2011 スズキ, 河野博 (監修) 加納光樹、横尾俊博(編) 東京湾の魚類. 平凡社. 168-169.
最終更新日:2020-05-01 ひろりこん
- 活動時間帯
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摂餌は主として夜間に行われ、日の出前や日没後に活発に摂餌する。
参考文献
- 1997 現代おさかな辞典 - 書籍全体, 真木長彰、寺島裕晃、中村晢美(著) 阿部宗明、本間昭郎(監修) 山本保彦(編) 現代おさかな辞典. 株式会社エヌ・ティー・エス. .
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- 産卵
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12~1月に湾口近くの水深 50~60 mの岩石の露出のいちじるしいところで産卵が行われる。若狭湾西部海域であれば伊根の沖、東京湾では劔崎や金田湾付近、仙台湾では相馬から塩屋崎の沖で岩礁になっているところが産卵場所である。
参考文献
- 中坊徹次 2000 スズキ, 日高敏明(監修) 中坊徹次、望月賢二(編) 日本動物大百科6:魚類. 平凡社. p. 103.
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- 特徴的な行動
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針にかかると、それをはずそうと水面上で激しく暴れる「えら洗い」という習性は、スズキ釣りならではの妙味である。
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
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- その他生態
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スズキ卵は北寄りの風が強まる冬季に産出されるのだから、もし受精から孵化まで軽い状態のままなら、多くの卵は外湾から中には入れず終わるだろう。しかし実際には仔稚魚は湾内に多く、幼魚も湾奥部で生活しているという事実から、卵や仔魚の間に産卵場の外湾から少しでも中に向かう仕組みがあるように思われる。そのしくみとして下のようなものが考えられる。
比重1.025の海中で生まれたスズキ卵は、比重が約1.020で、流れや乱れのない条件では 3 ㎜/s程度の速さで浮上することと、水温 14℃で産卵・受精から孵化まで4日半かかることが分かっている。この4日半の最後の半日間に、卵の比重は増し始め、孵化直前には1.025を上回り産卵海域の海水比重よりも大きくなる。
また、東京湾の外湾は晩秋から冬季にスズキの産卵場になる。産卵場の中心は、外湾に形成される「熱塩前線」付近らしい。熱塩前線では、表層の水平流が対向してぶつかり、浮遊物が集積する。そして表層下では湾内および外海へ向かう流れができあがる。
以上のことから下記のような機序が存在すると考えることができる。
①スズキの卵は他魚種に比べて比重が小さく速く浮上するので、熱塩前線の沈降流(最大で 2 ㎜/s )に引き込まれないで海面の収束域に集積する。
②孵化直後に比重が増大すると、卵は沈降流によって熱塩前線の下に引き込まれるようになる。中層に潜ってしまえば、海面付近に浮いたままでいるよりも湾内に送られる卵・仔魚の割合が高くなると思われる。
もしこのような仕組みが存在するなら、スズキが東京湾外湾の熱塩前線付近で産卵を営むことと併せて、存率向上に貢献すると考えられる。なお、なぜ産卵そのものを湾の中で行わないのかという疑問が残るが、おそらく卵にとっての外敵=捕食者が多い内湾は産卵場としては不適当だろう。捕食者の少ない外湾で産卵し、卵と仔魚の浮沈を海の流れに嚙合わせることによって、スズキは仔稚魚の餌が豊かな内湾部に少しでも移動するようにできているのではないだろうか。東京湾に限らず他所の産卵場(たとえば伊勢湾や大阪湾)でも同様のことがあると推測される。
参考文献
- 田中裕志 2011 スズキの卵, 河野博 (監修) 加納光樹、横尾俊博(編) 東京湾の魚類. 平凡社. 170-171.
最終更新日:2020-05-01 ひろりこん
関連情報
- 漁獲方法
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瀬戸内海、東京湾、伊勢湾などの内湾を中心に、定置網、釣り、底曳網、刺網など様々な漁法で漁獲される。
参考文献
- 中山耕至 2018 スズキ科, 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z 日本魚類館 ~精緻な写真と詳しい解説~. 小学館. pp. 228-229.
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- 味や食感
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白身で塩焼き、洗い、ムニエルで美味である。
参考文献
- 中山耕至 2018 スズキ科, 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z 日本魚類館 ~精緻な写真と詳しい解説~. 小学館. pp. 228-229.
最終更新日:2020-05-01 ひろりこん
- 販売価格
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1984年から1994年までの平均卸売価格は 1 ㎏当たり1000~1600円の間で推移している。
参考文献
- 1997 現代おさかな辞典 - 書籍全体, 真木長彰、寺島裕晃、中村晢美(著) 阿部宗明、本間昭郎(監修) 山本保彦(編) 現代おさかな辞典. 株式会社エヌ・ティー・エス. .
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