- 解説一覧
- イタセンパラ(Acheilognathus longipinnis)について
イタセンパラ(Acheilognathus longipinnis)
【IUCN】近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
【環境省】ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
- 【 学名 】
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Acheilognathus longipinnis Regan, 1905
基本情報
- 大きさ・重さ
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体長:最大 10 cmほど
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
最終更新日:2020-07-14 ハリリセンボン
- 分布
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自然分布域:琵琶湖淀川水系(大阪府、京都府、滋賀県)、木曽川水系(愛知県、岐阜県)、富山県氷見市
日本固有種である。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- 保全の取り組み
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どこの地域も、行政が中心となり、市民や学校、博物館・水族館・動物園、企業、有識者と連携しながら、生息状況調査、生息地の環境改善、外来種の駆除、密漁防止活動といった生息域内保全と、室内外での系統保存、生体展示、教育普及活動を実施している。
木曽川では、国土交通省、環境省、文化庁、愛知県、岐阜県、一宮市、羽島市、近隣園館、有識者などが参画する「木曽川水系イタセンパラ保護協議会」を中心に実施している。
富山県氷見市では、市と大学が中心となり、市民や学校と共に、具体的な生息場所や生息数の現況など情報を公開しながら実施している。
法令・条例による保護:「文化財保護法」の天然記念物(文化庁、1974年)、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」の国内希少野生動植物種(環境省、1994年)で、日本国内で生きた個体を許可なく、接触、捕獲、飼育することはできない。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- 学名の解説
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longipinnisはラテン語で「長い(longnus)+鰭(pinna)」を意味する。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- 和名の解説
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商品価値のない様を鐚として、円い銭のようで平たい体形に由来する「鐚銭平」、板のように平たい体形で、色鮮やかな腹部を持つことに由来する「板鮮腹」など諸説がある。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- 別名・方言名
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地方名:センペ・センパラ・イタセンペ(岐阜県)、ビワタナゴ(滋賀県)、ベト・ベッチョ(富山県氷見市)
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- 分類学的位置付け
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コイ科 タナゴ亜科 タナゴ属
参考文献
- 長田芳和 1989 イタセンパラ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. p. 370.
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形態
- 成魚の形質
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日本産タナゴ類の中では大きい方である。タナゴ類の中では体高が高い方で、これが英名「Deep body」の由来となっている。口ひげはなく、側線は完全である。鰭条数は、背鰭において不分枝軟条が3本と分枝軟条が14~16本、臀鰭において不分枝軟条が3本と分枝軟条が13~15本で、両鰭の分枝軟条数は日本に自然分布するタナゴ類の中で最大である。側線鱗数は35~37枚で、側線上方横列鱗数は5~7枚、側線下方横列鱗数は5~6枚である。鰓蓋の上部後ろのやや離れた位置に青色の斑点がある。体の側面に縦帯はない。
雄の婚姻色として、背鰭は上縁部が黒色となる。臀鰭は下縁部から黒色帯・白色帯となり、残り部分は透明感が強い。腹鰭は前縁部が白色帯となる。背鰭と臀鰭の鰭条は、それぞれ基部から黒色・白色・黒色・白色・黒色(さらに背鰭鰭条の残りの部分は透明感が強い)となり、そのことにより両鰭の全体に2本の白色の点列が現れる。体において胴部から尾部にかけて紫色、腹部は紫色、下腹部は前部が黒色になる。
象徴的な特徴は、体高が高く体形が菱形であること、背鰭と臀鰭が長いこと、紫色の婚姻色である。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- 稚魚・仔魚・幼魚の形質
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稚魚期の背鰭の前部に薄い黒色の斑点がある。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- 卵の形質
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長楕円形で、長径平均 3.5 mm、短径平均 1.3 mmの粘着性のある卵である。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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生態
- 生息環境
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湖沼や河川、農業水路に生息する。河川や農業水路では主に流れが緩いか、ほとんどない場所に生息し、淀川や木曽川など大規模河川では、堤外地の氾濫原に形成された止水生の恒久水域や冬季に干しあがる一時水域にもなる「ワンド」や「たまり」に生息する。
木曽川では、地盤高が低く出水で冠水しやすい、より多くの水域と水路などで接続する「ワンド」や「たまり」でよく出現する。この傾向は他魚種と比べて強い。このことから、適度な撹乱環境のある氾濫原水域に特に適応した種であると考えられる。また、冠水時には、ほかのワンドやたまりへ分散する。
「たまり」など流れのほとんどない場所でも生息・産卵できる「止水適応種」である。ただし、「ため池」では持続的に世代交代することができないようである。また流速的には、主に流れの緩い場所で生息・産卵する「緩流速種」である。
参考文献
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- 産卵
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産卵期は秋の9月から11月上旬で、盛期は9月下旬から10月上旬である。雌は産卵管を平均 26 ㎜(15~31 ㎜)伸ばして、貝の出水管から挿入し、卵を貝の鰓上腔内に産みこむ。1回の挿入で約70個の卵を産む。
貝の鰓上腔内で留まることに成功した卵は約4日で孵化し、孵化後仔魚はすぐに蛆虫のようなS字運動を行う。その運動で貝の主に外鰓の水路内に移動するようである。実際に11月から2月の冬季に貝内を観察すると、ほとんどの仔魚が内鰓ではなく外鰓内で観察される。なお、外鰓を集中的に利用する日本産タナゴ類は本種だけである。
仔魚は、貝内で春先まで発生をほとんど進めずに越冬する。飼育実験では、仔魚はある一定期間、約5℃の水温に曝されないと胚発生が進まない。水温が上昇して春先になると発生が進み、発眼し卵黄を吸収し終え、全長約 8 ㎜に成長してから、4月から6月にかけて貝から泳ぎ出た稚魚は、岸際の表層で群れて、ワムシ類の動物プランクトンを食べているのが観察される。
6月には全長が約 20 ㎜になり、より深みを遊泳するようになり、珪藻類や植物などを食するようになる。9月には体長約 50 ㎜以上成長し、体長 34 ㎜以上で成熟する。つまり貝から泳出後、約4ヵ月で成熟し産卵することになる。
野外の生息地では成魚が、冬の12月や春の4月にも数個体採集されたことはあるが、5月以降7月にかけて確認できないことから、ゼニタナゴやカネヒラで見られる2歳魚の秋の産卵はほとんどなく、寿命は長くとも1年ほどである。タナゴ類の中で、1年魚は本種のみである。
秋産卵タナゴ類(イタセンパラ、ゼニタナゴ、カネヒラ)にのみ見られるS字運動であるが、本種とゼニタナゴは運動の起点が3つ(カネヒラは2つ)である。
産卵には、イシガイ、ササノハガイ、カラスガイ族貝類、カタハガイが知られている。カラスガイ族貝類においては、主に殻長が 36 ㎜以下の小型の個体を利用している。
参考文献
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
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- その他生態
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飼育環境では神経質で臆病な魚で、すぐに物陰に隠れてしまう。腸はタナゴ類の中で最も長い。
染色体数は2n=44である。
参考文献
- 長田芳和 1989 イタセンパラ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. p. 370.
- 2020 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑 - 書籍全体, 北村淳一(著) 日本のタナゴ, 生態・保全・文化と図鑑. 山と渓谷社. .
最終更新日:2020-07-14 ハリリセンボン