- 解説一覧
- コイ(Cyprinus carpio)について
コイ(Cyprinus carpio)
【IUCN】絶滅の危険が増大している種
【環境省】地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの
- 【 学名 】
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Cyprinus carpio Linnaeus, 1758
基本情報
- 大きさ・重さ
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ふつう体長 30~60 cmだが、1 mに達するものもある。
体長 1.53 m、体重約 45 kgの記録もあると言われる。
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン
- 分布
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北海道、本州、四国、九州の自然水域に分布する。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン
- 和名の解説
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①雌雄相恋して離れないので、「コヒ(恋)」から出た。
➁身が肥えていることから、「肥え」の意。
③味がほかの魚に勝っていることから「越」の意で。
④「清水魚」の意で、「クヒノウオ」(クヒは水の意)と呼んだものを略して「コヒ」としたか。
⑤「コヒ=コイ」の原語は「クヒ」で、「ク」はクロの意、「ヒ」は魚の意で、「コイ」は黒い魚の意。
⑥「鯉」の字は、身に縦列三六のうろこがあることから。三六町は一里なので、「里」を用いた。
⑦推古天皇のときに定められた冠位十二階に由来する。タイとコイを対とし、タイは大位、コイは小位の意。
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
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- 別名・方言名
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サラサ(長野、琵琶湖)、オオミゴイ、マコヒ(琵琶湖)、ハヤリ(岡山)、ナメイ(筑後川)、クーユー(沖縄)
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン
- 分類学的位置付け
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コイ目 コイ科
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン
- 人間との関係
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関東地方以西では野生型(マゴイ、ノゴイ)と飼育型(ヤマトゴイ)が区別されてきた。「あらい」や「こいこく」などで食されるほか、釣魚や観賞魚として親しまれている。
現在、河川や湖沼で見られるコイは、ほぼ全て中国大陸原産の養殖ゴイに由来し、日本在来のコイは放流された養殖ゴイとの交雑種以外、ほとんど残っていない。
長良川では日本在来のコイのミトコンドリアDNAを持つ個体が捕獲されているが(Mabuchi et al. 2008)、既に雑種化しているものと考えられる。
確実にコイと同定できる骨(咽頭歯)は関東地方以西の縄文時代の貝塚から出土する。このことから縄文時代には東北地方以北にコイはいなかったと思われる。
弥生時代の環濠集落遺跡である愛知県の朝日遺跡からは大量の幼魚の咽頭歯が出土しているが、これは原始的な養鯉の証拠とされている。
大陸のコイがいつ頃日本に導入されたのか明確ではないが、文献記録上では、明治38年(37年説もある)のドイツからの導入が最初。しかし、東京の本所にあった栗本鋤雲の屋敷から明治23年に移植されたと伝わる伊豆諸島御蔵島の御代ヶ池のコイは、錦鯉および中国の田魚とよばれるコイと同じミトコンドリアDNAを保有している。このことから、大陸由来のコイは少なくとも明治中期には既に一般に普及しており、錦鯉の歴史を考慮するとその導入は200年以上遡ると考えられる。
食用コイは、明治以降、盛んに養殖・放流されてきた。近年DNAの調査が明かした自然水域における大陸由来コイの蔓延状態は、このような歴史によると考えられる。純粋に近い在来の野生型個体群は琵琶湖の深層でのみ確認されており、科学的な調査・保全が必要である。
食用、観賞用とするコイは淡水魚のなかでは重要食用魚の1つ。ほとんどが養殖で、日本ではウナギ、ニジマス、アユに次いで養殖量が多く、安定した供給が続けられている。養殖は古くから各地で行われ、とくに信州の佐久地方の水田養殖は有名である。田植え後の水田に仔魚を放ち、9月末、10 cmほどに育った幼魚を稲田の落とし水から池に誘い、翌年また水田に放ってサナギの餌を与える。800 gくらいの3年ゴイになると市場に出す。一般には切り身で売られ、1本ものや活魚は専門の川魚店か市場で求めるしかない。
観賞用の錦鯉の養殖は新潟県で盛んである。交配による改良の結果、現在ではさまざまな品種があり、輸出も行われている。旬は冬といわれているが、産卵前の初春と夏場もよい。
「淡水魚の王」といわれるコイは、世界中でさまざまな形で賞味されてきた。中国では唐時代に、ソウギョ、コクレン、ハクレン、アオウオの「四大家魚」にコイを加え、「五大家魚」といった。しかし、唐の皇帝の姓である李と鯉(り)が同音だったため、捕獲、調理を禁じたことから、「四大家魚」が現代に伝わる。今でも「竜門の鯉」として祝宴などには必ず用いる風習があるが、これは「横河中流にある竜門峡の急流を遡ったコイは竜と化す」という伝説に基づいたもので、立身出世を願うものであろう。
ヨーロッパでもよく食されるが、これは14世紀、遠征中の十字軍が、金曜日の肉食不可の戒律に従う苦肉の策としてコイを食べたのが始まりである。彼らによって、アジアから移入されて以来、ドイツを中心に養殖が盛んになり、まるごとワイン煮が祝宴やクリスマス料理として出される。
コイ料理は、死んだものでは生臭さが出るので、必ず生きたものを用いる。えらがきれいで、体色の鮮やかなものを選び、調理の際は、肝臓の間にある「苦玉」と呼ばれる胆嚢をつぶすと魚肉全体が苦くなるので、これを必ず取り除く。
【洗い】
苦玉とわたを除いたコイを洗い、腹から一直線に包丁を入れ、中骨に沿って尾まで引く。背のほうからも包丁を入れ、片身を切り取り、反対に返してもう一方の片身も取る。腹側の骨を包丁ですき取り、裏返して皮を引いて薄めのそぎ切りにし、ざるに入れて冷水にさらす。身がしまって縮れてきたら、軽く水気を切って皿に盛り、酢味噌やわさび醤油を添える。
【鯉こく】
生きているコイの頭を包丁の峰で強くたたいて静かにさせ、頭をえらぶたの上から切り落とす。切り口からうろこ3~4枚のところの身だけに包丁を入れ、わたの中の苦玉を取り除く。わたはつけたまま筒切りにし、熱湯をかけて臭みを取る。鍋にコイ、酒2分の1カップ、たっぷりの水を入れ、コイが動かないようにふきんをかぶせてからふたをして煮る。煮立ったら弱火にして、水を足しながら煮る。約2時間たったら、煮汁の一部でみそを溶いて加えて、さらに約30分煮る。椀に盛り、粉山椒を添える。
【まる揚げ甘酢あんかけ】
苦玉とわたを取ったコイを水洗いし、両側の面に包丁目を数本入れる。軽く塩こしょうして片栗粉をまぶし、たっぷりの油でゆっくりと揚げる。揚げたてに甘酢あんをかけて食べる。
【衣煮】
うろこをつけたままはいだ皮を角に切り、塩をふって炒ってから酒または水で煮る。身は適当に切り、酒に浸してみそ、塩、酢で十分煮立てる。この身をコイの形に盛り、煮ておいた皮を上に散らす。
【あめ煮】
頭を落として苦玉を除き、うろことわたは残したまま水洗いし、水気をふいて適当な厚さに切る。広口鍋に薄切りしょうがを一面に敷き、コイが重ならないように並べ入れ、同量のみりんと酒をひたひたに加える。弱火で30分ほど煮て砂糖を加え、さらに10分ほど煮る。コイが柔らかくなり甘味が染みたところで、たまりじょうゆで濃いめに味付けし、汁が煮詰まって糸を引くようになるまで煮込む。
【胆煎り汁】(江戸時代の料理)
3枚におろし、胆と細わたをよく叩いて軽くしぼり、キツネ色になるまで煎る。細わたのかすを取り、酒かだしで鍋のなかを流した後、3枚におろした身をうろこごと切って入れ、だしで煮る。
【観世汁】
コイをおろして小さく切り分け、豆腐をあぶってから切り、加える。中みそで仕立てる。あんをかけるとよい。
【鯉つぼつぼ】(三重)
コイを白煮にして身を切り、5切れを盛り、こうじみそ汁を加えたもの。遷宮諸祭の饗膳料理に用いられる。
【すずめ焼き】(長野)
背開きにしたコイを串に刺し、あぶって乾燥させたもの。砂糖じょうゆで煮たり、煮物だしにも使われる。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
- 2017 岐阜県の魚類, 第2版 - 書籍全体, 向井貴彦(著) 岐阜県の魚類, 第2版. 岐阜新聞社. .
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
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形態
- 成魚の形質
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体型はフナに似るが、コイの方が大きく、フナよりも鱗の縁取りが濃く、上顎後方と口角部にフナには見られない口ひげが2対ある。鱗は円鱗で、側線上で33~36枚ある。両顎に歯はないが、咽頭部に咽頭歯を持つ。消化管は、食道に続いてすぐに腸があり、胃はない。
【野生型(マゴイ・ノゴイ)】
日本在来のコイ。琵琶湖産の野生型は、飼育型と比べて細長い体型をしており、背鰭分枝軟条の数がやや多く(典型的な野生型では約21、飼育型では約18)、鰓耙数が少ない(前者で約19、後者で約24)。体色は暗灰色をしている。
【飼育型(ヤマトゴイ)】
大陸から導入された養殖系統に由来し、野生型との自然交雑個体も含む。野生型と比べて体高が高い。体色は色彩上の変異も多い。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
- 2017 岐阜県の魚類, 第2版 - 書籍全体, 向井貴彦(著) 岐阜県の魚類, 第2版. 岐阜新聞社. .
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン
生態
- 生息環境
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湖、池、沼や河川の中・下流域に生息し、流れがゆるやかで、やや濁った底層部や砂泥底を好む。
【野生型(マゴイ・ノゴイ)】
ミトコンドリアDNAの痕跡分布から、かつては少なくとも関東~九州地方の大河川や湖沼に分布していたと推定される。しかし、大型由来の飼育型との交雑の結果、現在では琵琶湖の水深 20 m以深の深層部にのみ純度の高い野生型個体群が残存しているに過ぎない。
【飼育型(ヤマトゴイ)】
放流や逸出により全国自然河川・湖沼のほか、人工的な溜池やダム湖などに生息する。飼育型が生息する溜池などでは水質が悪化し、水草が繁茂しなくなることが知られている。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
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- 食性
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食性は雑食性で、貝類を好み、タニシなどの底生動物、付着藻類、デトライタスなどを食べる。
【野生型(マゴイ・ノゴイ)】
飼育型と比べて腸が約25%も短く、比較的肉食性が強いと考えられる。
【飼育型(ヤマトゴイ)】
鰓耙数が多いことから濾過食性、腸が長いことから雑食性が強いと考えられる。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
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- 産卵
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産卵期は4~7月で、浅場の水草に卵を産み付ける。
【野生型(マゴイ・ノゴイ)】
琵琶湖では、春~夏に沿岸・内湖や流入河川の水草帯及び田畑に遡上して産卵する。
【飼育型(ヤマトゴイ)】
春~夏に水草などに卵を産み、2年で全長 25~35 cmになる。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン
- その他生態
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大型の淡水魚であり、底生生物を捕食するとともに底泥を攪拌して水を濁らせるため、小規模な河川や溜池に放流した場合は、在来生態系に負の影響を与える(日本魚類学会自然保護委員会, 2013)。
3年で体長 30~40 cmに成長する。寿命はふつう20年ほどだが、70~80年を超えるものもいる。
ほかの淡水魚と比べて抵抗力が強く、水の外に出てもしばらくは生きる。
【野生型(マゴイ・ノゴイ)】
警戒心が強く臆病であるため、飼育は難しい。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
- 2017 岐阜県の魚類, 第2版 - 書籍全体, 向井貴彦(著) 岐阜県の魚類, 第2版. 岐阜新聞社. .
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
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関連情報
- 漁獲方法
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3月末から6月末と、9月中旬から11月中旬頃までがよく釣れる。天候は、晴れよりも曇り、雨の降る前がよい。
流れのやや強い川では脈釣り、流れの少ないところではウキ釣りや吸い込み釣り、ぶっ込み釣りがよい。竿の長さは約 4~6 mで、道糸は強い引きに耐えられるものが必要である。オモリは水底へようやく安定する程度のものがよい。
仕掛けの全長は、ウキ釣りの場合は竿いっぱいで、脈釣りでは魚の抵抗を考慮し、竿より少し短くしておく。また、コイは口が大きいので、針葉コイ針よりカイズ針がよい。餌は練り餌やいもようかん、ザリガニ、ミミズ、ゴカイなど多様なものが使われるが、サツマイモもよく、蒸しすぎくらいのものを 1.5 cm角に切って用いる。
初めに小さなあたりがあるが、それからしばらく後にくる2度目の大きなあたりに合わせる。コイは岸と平行に、決まった時間、決まった場所を回遊する習性があるため、このコースを知っておくとよい。
参考文献
- 2005 魚と貝の事典 - 書籍全体, 望月賢二(著) 望月賢二(監修) 魚類文化研究会(編) 魚と貝の事典. 柏書房. .
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン
- その他
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【野生型(マゴイ・ノゴイ)】
琵琶湖の野生型は環境省のレッドリストで、絶滅のおそれのある地域個体群に指定されている。
【飼育品種】
鱗が少ないカガミゴイや鱗がほとんどないカワゴイは、ドイツからの導入品種であり、ドイツゴイとも呼ばれる。
錦鯉は、200年ほど前に、新潟県の棚田で飼われていた食用コイから生じた色付きの個体から作出されたと言われている。しかし、近年のDNA調査では、日本の錦鯉の多くは、中国浙江省のオウジャン流域の棚田で1200年以上前から飼育されている色付きの食用魚「田魚(ティエㇴユィ)」と全く同じミトコンドリアDNAをもつことが分かっている。
錦鯉が新潟で作出されたとしても、そのルーツの1つは200年以上前に何らかの経路で中国からもたらされた田魚と母系祖先を共有するコイに由来する可能性が高い。
参考文献
- 馬渕浩司 2018 コイ, 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 88-89.
最終更新日:2020-07-08 ハリリセンボン