- 解説一覧
- カタクチイワシ(Engraulis japonicus)について
カタクチイワシ(Engraulis japonicus)
【IUCN】現時点での絶滅危険度の低い種
- 【 学名 】
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Engraulis japonicus Temminck & Schlegel, 1846
基本情報
- 別名・方言名
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カタクチ、セグロイワシ、ヒシコイワシ/マサゴ(宮城)、ホシコ(新潟)、シコイワシ(東京・神奈川県三崎)、ボボワレイワシ(富山)、タレクチイワシ(京都・鳥取・島根)、ホウタレ(広島・愛媛)
▶出世名/ドロメン→チリメン→ヒラゴ→シンコイワシ(兵庫)
参考文献
最終更新日:2020-07-15 En
- 人間との関係
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季題は<秋>
『魚鑑』には、「賤民の常食なり。その鮮なるは味よし」とあり、一般庶民の食べ物であったことがうかがえる。かつては大量に漁獲され、田の肥料としても重要であった。
おせち料理のごまめが田作りと呼ばれるのはこれに由来すると思われる。
『魚鑑』にも、「稲粟を培養(こやしそだつ)るに用ゆるゆへ田作と称へて上下ともに歳首(ねんし)の節物なり」とある。
年中卵をもっていることから、武士は「小殿腹」と呼び、子孫繁栄を願って祝膳に添えたという。
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形態
- 成魚の形質
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体は細長く体幹は円い。背鰭は1基で14〜16軟条。臀鰭は15〜18軟条。体腹面に稜鱗がない。口は大きく、両顎に小さな歯が一列に並ぶ。
上顎に比べて下顎が著しく短い。体側背面は暗青色で、体側の頭部から尾部にかけて、銀色の縦縞が1本走る。
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- 卵の形質
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卵は楕円形で、長径が 1.0〜1.5 ㎜、短径 0.5〜0.7 ㎜の分離浮性卵。油球はない。
卵の大きさと水温には逆比例関係が見られ、水温が低いときに生まれた卵は大きく、高水温期に生まれた卵は相対的に小さい傾向がある。
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生態
- 生息環境
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沿岸の表層域に生息し、大きな群れをつくる。昼間は縦長の楕円形の群れをつくり、水深 10 m以浅を群泳するが、夜間は群形休息する。
摂餌行動をしたり、捕食者からの逃避行動をするときの群れは、海面にさざ波を立てたり海面に跳躍したりする。こうした行動はセリやハネと呼ばれる。
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- ライフサイクル
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産卵期は長く、南日本ではほぼ周年に渡って産卵する。主産卵場は沿岸の陸棚である。産卵期の水温は12〜29℃、最適水温は17℃である。
産卵期が各季節にまたがるため、発生時の水温が異なることなどにより脊椎骨数や鰭条数などの体節構造に差が生じる。例えば五島灘の春生まれ群の平均脊椎骨数は 45.5 であるのに対して、秋生まれ群では 45.3 以下となる。
同様に各産卵水域における鰭条数の平均値は、春生まれ群で高く、夏以降に生まれる群で低い傾向がある。
親魚の孕卵数は、6000〜26000粒。
孵化直後の仔魚は、全長 2〜3 ㎜で卵黄は細長く腹面に付き、その後端は尖って体の後半部にまで達する。孵化後3日後には卵黄を吸収し、全長 3〜3.5 ㎜になる。孵化後40日前後で全長 10 ㎜、65日前後で 20 ㎜、75日前後で 25 ㎜に達する。
天然では仔稚魚の生残率は非常に低く、全長 10 ㎜に達するまでに99.9%が斃死・捕食される。仔稚魚が多いのは水温20℃前後、塩分 31〜34 mg/ℓの水域で、黒潮などの暖流系と親潮などの寒流系がぶつかりあう潮目付近に見られる。
全長 15 ㎜以下の稚魚は沿岸域に多いが、それ以上の大きさのものは沖合域に多く出現する。生後1年で 8〜9 ㎝、2年で 13 ㎝前後になる。
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関連情報
- 味や食感
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脂肪含有量が高く、高度不飽和脂肪酸が多いため加工原料として用いられることが多い。
稚魚から成魚まで食用としてさまざまに利用される。35 ㎜前後の稚魚はほかのイワシ類の稚魚・幼魚とともにシラスと呼ばれ、これを釜茹でして半乾燥させたものがしらす干し、さらに乾燥させたものがチリメンジャコである。
酒の肴として人気のたたみいわしは、シラスを型枠に入れ、干したもの。若魚を塩水で茹でて干したものが煮干し。マイワシやウルメイワシのものもあるが、カタクチイワシが主流。
茹でずに素干しにしたものがごまめ(田作り)で、これを炒って甘辛く煮からめたものは正月料理に欠かせない。めざしとして店頭に並ぶものはほとんどは本種。
手開きにして刺身にする。脂肪が多いので、さっと酢に漬けてから食べるとよい。骨が細いので、頭とわたを取って包丁でたたき、つみれにして利用しても美味しい。塩焼きや煮魚にもいい。
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- その他
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鳥取県ではフィッシュミールを加工する際にイワシから廃出される煮汁と、カニ肉を取り出した後のカニ殻とを有効利用して、液体肥料を開発した。煮汁に含まれる塩基性アミノ酸が植物の窒素代謝促進や根の発育を促進させるうえ、カニ殻から抽出したキトサンの病原菌の生育を抑える作用が加わる。
農作物の有機栽培に有用なほか、農薬散布が問題となるゴルフ場の芝作りに適していると注目されている。
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