- 解説一覧
- ボウズハゼ(Sicyopterus japonicus)について
基本情報
- 大きさ・重さ
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全長:10 cm程度
参考文献
- 2017 岐阜県の魚類, 第2版 - 書籍全体, 向井貴彦(著) 岐阜県の魚類, 第2版. 岐阜新聞社. .
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- 分布
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福島県~九州南岸の太平洋沿岸、長崎県野母崎、五島列島、種子島、屋久島、琉球列島、八丈島、小笠原諸島に分布する。
伊豆半島、紀伊半島などの黒潮に面した半島部の河川には多数生息するが、木曽三川および庄内川水系における記録は少ない。
国外では、台湾島北部に分布する。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
- 前田健 2018 ボウズハゼ(ボウズハゼ属), 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 396-397.
- 2017 岐阜県の魚類, 第2版 - 書籍全体, 向井貴彦(著) 岐阜県の魚類, 第2版. 岐阜新聞社. .
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- 別名・方言名
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地方名:ボウズゴリ(日本各地)、ナンベラ・イワスイ(和歌山県南部)、スイツキゴリ・ホトケチチコ(高知県)、イシハゼ(宮崎県)
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- 分類学的位置付け
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スズキ目 ハゼ科 ハゼ亜科 ボウズハゼ属
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
- 前田健 2018 ボウズハゼ(ボウズハゼ属), 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 396-397.
- 2017 岐阜県の魚類, 第2版 - 書籍全体, 向井貴彦(著) 岐阜県の魚類, 第2版. 岐阜新聞社. .
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- 人間との関係
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ウナギ釣りの好餌とされる。
また、子どもたちは腹の吸盤に切れ目を入れた囮で友釣りをして遊ぶ。これにアユがかかることもあるし、逆にアユの友釣りにボウズハゼがかかることもある。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
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形態
- 成魚の形質
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吻端より前頭部にかけてまるく膨れ、眼と口裂後端を結ぶ黒線がある。分厚い上唇には3個の切れ込みがある。
口唇は分厚い肉質で、突き出すと上唇と下唇が連なってリング状になる。上唇の内面には、3個の切れ込みに呼応する3個の軟突起と、多数の小軟突起がある。これらは口を大きく広げ、岩面に吸着するのに役立つ。
上顎歯は1列の微細歯で、成長に伴って、大きさは変わらずに数を増す。体長 50 ㎜でおよそ50個、ほぼ体長に比例する。歯の頭部は硬いエナメル質で、尖端は平たい3尖頭。作用歯と呼ばれるこの歯の背後には非常に多くの予備歯があり、それらは柏餅状の歯槽の内部を移動しながら完成して7~10日ごとに古い歯と入れ替わり、脱落歯は前上顎骨の内側に吸収される。
下顎歯は数個の犬歯と、皮質で包まれた棚状の唇歯からなり、唇歯は藻類をすくい受けるのに役立つが、犬歯の役目は分からない。
上顎を前下方に突き出すために、主上顎骨の頭部が下方に湾曲して、前上顎骨の裏側に接続している。主上顎骨を上方に開くと、この頭部がテコのように働いて、前上顎骨を前下方に押し出す。このため前頭部が膨らみ、ボウズハゼの名の由来となっている。
体を包み込む濃い粘液は、石の下に素早く潜り込むためと、岩面匍行中、皮膚の乾燥を防ぎ、岩面に吸着するのに役立つ。
体は灰褐色で、体側中央にV字形、その前後にこれらの線にほぼ並行する計10本の暗色横帯がある。この横帯は成魚では不鮮明になるが、興奮すると再び顕著になる。
成魚の雄では背鰭の棘と軟条がともにのびて、軟条を倒すとその後端は尾鰭の基部を超える。
雌では軟条は尾鰭の基部に達せず、尻びれ軟条部に暗色帯がある。腹鰭は吸盤を形成し、その吸着力は非常に強い。
生時、全身は濃い粘液でおおわれ、わずかにアユに似た香りがある。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
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- 卵の形質
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ボウズハゼとルリボウズハゼの卵は、ほかの多くのハゼ類のように縦長ではなく、わずかに横長の球形(長径約 0.4 ㎜)である。
参考文献
- 前田健 2018 ボウズハゼ(ボウズハゼ属), 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
生態
- 生息環境
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河川の中・上流域に生息する。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- 食性
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もっぱら付着藻類を食べる。摂餌中はなわばりを持つ。
ボウズハゼが藻類をとるときは、岩面に吸着したまま上顎を前下方に突き出し、口の内面を岩面にあて、これを縮めることによって1列に並んだ上顎歯でかき取り、下顎に棚状に突き出した唇歯ですくい受ける。つまりその動作は、岩面匍行の動作と変わらない。これらに関連して、口や歯、頭部骨格などに著しい特化が認められる。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- ライフサイクル
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孵化仔魚は体長 1.1~1.6 mmで、淡水中でしか発育できない。孵化後すぐに海に降り、6~9ヵ月の長い浮遊期を過ごす。
冬を海で過ごした稚魚は、翌春、河口にあらわれる。体長 25~30 mm、透明で、体側の尻鰭基底後端付近と尾鰭の基部に赤色の斑紋が、背鰭基底に沿って赤色、尻鰭基底に沿って黒色の小点列があり、腹面にも暗色の点列がある。これらは小さな群れで、汽水域の浅い岸寄りの中層を漂いながら淡水への順化を行い、体が縮み、成魚の斑紋があらわれると、遡上を始める。
和歌山では4~6月、沖縄島では3~6月をピークに川に入る。
遡上群は長い帯状の群れとなって、流れの緩やかな岸寄りの中層を整然と進む。泳ぎは巧みで、ハゼの群れとは思えない。これを紀伊半島南部では「うろり」などと呼び、水際に石を並べて流れを変え、その奥にざるなどを仕掛けて一網打尽にし、食用にしていた。
急流に差し掛かると、群れを解き、口と腹の吸盤で岩石に吸着しながら川底を進み、奔流や海に出ると、アユに劣らぬ強い跳躍を試みるが、それでも上り得ないときには、流れから離れ、岩面を匍行することによって越える。
岩面匍行は、まず岩面に跳びつき、口と腹の吸盤でそこに吸着することから始まる。ふつうは体長ぐらいの高さに跳びつくが、体長の5~10倍の高さに吸着することもある。次に上顎を前下方に突き出して口で岩面に吸着し、これを縮めることによって体を持ち上げ、再び腹の吸盤で吸着する。これを素早く繰り返す。すなわり、口と腹鰭を交互に吸着させる尺取虫方法で行われる。胸鰭を補助的に使うときもあるが、尾鰭は全く関与しない。岩の割れ目や苔など前進を拒むものがあれば迂回するため、頭部を進行方向に向けて、体の後半をだらりと垂らした「く」の字形のまま、斜めや横にも移動する。こうして水面に対し60度くらいの角度でオーバーハングしている岩面でも、流れを背中越しに見ながら越えてしまう。
岩面匍行は紀伊半島南部では、7月には海から遡上する幼魚の群れで見られ、8月以降は成魚の群れに変わり10月まで見られる。既に底生生活に入った成魚が岩面匍行して遡上するのは、越冬か産卵のために多少とも下流へ下ったものが、越冬あるいは産卵を終えて再び遡上をしているものと思われる。
ヨシノボリ属の魚やウキゴリも鉛直に近い岩を登るが、これは尾部を強く振って水を後方に押し、その反動で前進して腹鰭の吸盤で吸着する方法であるから、必ず水流を必要とする。これに対してボウズハゼは全く水流を必要としないため、吸着できる面があれば水槽からでも這い出してしまう。
こうして遡上を続け、適当な場所があれば分散して底生生活に入る。冬は大きな石の下に集まり越冬する。
和歌山では満2歳、体長約 5 cmで成熟し、6歳で雄は約 8 cm、雌は約 7 cmに達する。沖縄島では 4~4.5 cmで成熟し、冬にも活動する。
寿命は3~4年と思われる。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
- 前田健 2018 ボウズハゼ(ボウズハゼ属), 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- 産卵
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産卵期は和歌山で7~9月、沖縄島で5~9月である。
ボウズハゼの卵塊は、中~上流の川底で一部が底に埋まった¨はまり石¨の下面に、房状に産み付けられ、雄がこれを守る。卵はほかのハゼ類のものに比べて非常に小さく、数は桁違いに多い。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
- 前田健 2018 ボウズハゼ(ボウズハゼ属), 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- 特徴的な行動
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遡上期から極めて敏感、敏捷で、人や鳥の気配を感じると、瞬時に川底に沈み、さらに危険を感じると、素早く石の下に潜り込んでしまう。従って、採集は難しく、同じころ遡上するヨシノボリ属幼魚などの緩慢な動きと際立った対照をなしている。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
- その他生態
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短い産卵期、長い浮遊期、低水温期に活動を停止するなど、温帯での生活に適応し、ボウズハゼ類の中で最も北に生息する。
参考文献
- 前田健 2018 ボウズハゼ(ボウズハゼ属), 中坊徹次(著) 中坊徹次(監修) 中坊徹次(編) 小学館の図鑑Z, 日本の魚類館. 小学館. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン
関連情報
- 味や食感
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ボウズハゼは紀伊半島南部の河川で、ごくふつうに見られるが、岩面匍行中以外は採捕が難しいため、一般には食用にされない。塩焼きにすると、アユに似た香りと味がするが、肉質がぶよぶよと柔らかい。卵巣は美味といわれる。
参考文献
- 福井正二郎 1989 ボウズハゼ, 川那部浩哉、水野信彦(監修) 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と溪谷社. pp. 396-397.
最終更新日:2020-09-10 ハリリセンボン